卵一つを巡って… 吉野家とペッパーランチで我々が「間違った判…の画像はこちら >>
「牛丼並と……卵」と言いかけて「卵」の言葉を飲み込みました。
もう何十年も通う吉野家でのある日のワンシーンでした。たまには味変というつもりで牛丼を卵かけごはんにして食べることも多いのですが、この日は卵を注文するのを止めました。理由は「値上げ」です。
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吉野家の卵の値段はここ数年、じわじわと値上がりして今現在は税込85円です。卵は物価の優等生と言われるぐらい、もう何十年も安い価格が続いていたのですが、飼料の国際的な価格高騰と、折からの鳥インフルエンザ騒動の影響もあり仕入れ値が上昇。それに連れて吉野家のサイドメニュー定番の卵の価格も高くなってきたのです。
しかしなぜ、私のような常連客が卵を注文するのをためらうのでしょうか?
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以前の吉野家の卵の価格はかなり長い期間、50円でした。その後2014年に60円になり、コロナ禍直前に70円、そして現在は税込で85円になっています。
冷静に考えてみましょう。値上げ幅はたかだか35円です。安定収入のある社会人にとっては卵を注文しようがしまいが、家計はびくともしない金額です。でも心理的にもの凄い値上げに感じる理由は「パーセンテージ」にあります。比率で考えると値上げ幅がとても大きいのです。
長年50円だった卵の価格が85円となると価格は1.7倍。つまり70%のインフレと同じです。経済評論家なのでついついそんな計算をしてしまい、その値上げ幅に強烈なインパクトを感じるわけです。
牛丼の価格も諸事情で418円から448円に30円値上がりしているのですが、こちらの値上げ幅は7%ですからそれほど強烈ではないのです。
ちなみに牛丼戦争で一杯290円だった時代と比べると1.4倍に値上がりしているのですが、そこはまあ「あの時代が異常に安すぎた」という別の考え方で勝手に納得してしまいます。
そうなのです。とにかく卵ひとつの70%の値上げが心理的に許されなくて、それで大好きな卵の注文をためらってしまう。まったく論理的な行動ではないのですが、それが人間心理というもの。それに間違える人間の方がかわいいものですよ。
ところが別の日の私の話です。「ペッパーランチ」でステーキを食べたとき、「200gのワイルドジューシーステーキに卵トッピングで」と注文している自分がいました。
ペッパーランチのトッピングは卵、チーズ、コーン、もやしなどなんでも一品100円です。卵が100円! この価格設定は吉野家の卵よりも明らかに価格が高いわけです。卵ひとつ85円ですら躊躇していたのに、卵ひとつ100円を嬉々として注文する自分がそこにいる。不思議な行動です。
実はこの注文のときを振り返ると、自分としては全然高いとは感じていません。その理由はやはりパーセンテージの魔法にありました。
ペッパーランチのステーキの価格は1,280円。そのトッピングに100円なので気持ちとしては「8%分、今日はちょっと贅沢するぞ」という気分になっているのです。
それと比較して吉野家で牛丼の並を注文するときは448円の注文に対してサイドオーダーの卵が85円。つまり「それやると値段が2割も上がっちゃうぞ」と警戒心が頭の中でアラーム音を鳴り響かせてしまうのです。
まったく合理的な行動ではないのですが、かくして私は吉野家では卵を節約し、ペッパーランチでは卵を大盤振る舞いして楽しんでしまったのです。では正しい行動は何だったのでしょうか?
「所詮は100円。食べたいときに卵は食べるべき」が正解だと思います。たぶんこれでよし。
Sirabeeでは、戦略コンサルタントの鈴木貴博(すずきたかひろ)さんの連載コラム【得する経済学】を公開しています。街角で見かけるお得な商品が「なぜお得なのか?」を毎回経済理論で解説する連載です。
今週は折から価格高騰中の卵の値段、それも外食でのトッピング価格の話です。
(文/鈴木貴博)