韓ドラのお約束 第19回 【タイトル詐欺】主演のマ・ドンソクはどこへ…!? ポスターにピンクを多用し、邦題にラブを絡めてしまう現象 #韓国ドラマあるある

○「え、マ・ドンソクが元カレってこと? 強そうすぎて今カレが心配!」

海外の作品が日本で公開されるときに、なぜかピンクやパステルカラーを多用したポスターが作られ、邦題に恋や愛を絡めてしまうというあるあるがあります。これは韓国ドラマに限らず起こる現象ですが、韓国ドラマは特に酷い気がする。韓ドラ好きはイケメン至上主義の恋愛脳って決めつけられている感じ。いや、いいんです。たしかに韓ドラの恋愛ドラマから摂取できる甘々でロマンチックな世界観は格別。だから恋愛ドラマのタイトルが直球な分には、ターゲットが分かりやすくていい。でも、タイトルで甘々だと信じて見始めたのに、全然思っていたのと違ったら、それはタイトル詐欺です。

その代表格といわれているのが「元カレは天才詐欺師~38師機動隊~」です。タイトルで詐欺って言っちゃってますけど、本当にこのドラマは気持ちいいくらいにタイトル詐欺。日本のキービジュアルはソ・イングクと少女時代のメンバー・スヨンのツーショットで、“天才詐欺師”のあとにはハートマークまでついてますからね。この2人の恋愛ドラマだと思っちゃうよね。でも実際は、市役所で税金を徴収する部署のマ・ドンソクと詐欺師のイ・ソングクが手を組んで、タチの悪い高額納税滞納者に税金を納めさせようという話なんです。韓国の原題は「38師機動隊(韓国語読みはサギドンデ)」。韓国の憲法で納税の義務について書かれた38条を由来とした税金徴収チーム「38機動隊」と「詐欺」を合わせた造語です。韓国語でも詐欺はサギと発音するのです。一方邦題は、マ・ドンソクの部署で働くスヨンの元カレがソ・イングク演じる詐欺師ということにのみスポットを当てちゃったわけですね。キービジュアルもこの2人ですけど、当然ながら韓国のビジュアルにはマ・ドンソクがドドーン! といますよ。むしろマ・ドンソクが主役なんですけど。なんでそのタイトルにした?

個人的推しドラマゆえにこの連載でも何度も登場させている「恋愛ワードを入力してください~Search WWW~」も、まるで頭の中が恋愛でいっぱいでネットで彼との相性調べちゃう人の話みたいな邦題ですが、原題は「検索語を入力してください。WWW」。この作品は、ポータルサイトの運営会社で働く女性3人が、誹謗中傷から個人を守るためという名目で検索トレンドワードを操作することと国民の知る権利のバランスについてどう対応するべきか、都合の悪い情報を隠したい政治家の介入にどう立ち向かうのかなど、社会人としての矜持を問われる骨太なお仕事ドラマ。アラフォー女性3人の恋愛も描かれますが、非婚主義にとっての恋愛など切り口が斬新です。そしてタイトルの「検索語を入力してください。WWW」は最終話での大事なキーワード。このセリフが放たれたときの痛快さはまさにクライマックスです。なのに、なぜ…。

原題がシンプルすぎてどんなドラマか分からないから副題つけちゃいました系も、結果ドラマの本筋を見失いがち。例えば原題「トンネル」の邦題は「トンネル~愛の迷宮」。キービジュアルもふんわりピンク背景で三角関係の話かな? と想像しますが、実際にはある刑事がトンネルをくぐることでタイムスリップし、現代と過去で起こる殺人事件の真相を暴くザ・サスペンス。原題「ライブ」に副題をつけた「ライブ 君こそが生きる理由」も、君なしで生きていけないっていう熱い恋愛話かなって思わせといて、実は新人からベテランまで、あらゆる世代の警察官の理想と現実を描いた群像ヒューマンドラマなのです。どちらも副題とキービジュアルの相乗効果でうっかり騙されるから気をつけて!

もうひとつ、「恋愛体質~30歳になれば大丈夫~」も、タイトルから想像する内容と全然違う方向で面白いドラマ。この場合、原題も「メロが体質」なので、翻訳したらこの邦題になるのは妥当ではある。ので、邦題詐欺というより元からのタイトル詐欺疑惑。キービジュアルはショッキングピンクで男性陣ハートで囲まれちゃってるし、24時間恋愛してるドラマっぽく視えますよね。しかし実はこのドラマ、韓国で興行収入歴代No.1を記録した映画「エクストリーム・ジョブ」のイ・ビョンホン監督が手がけた作品。新人脚本家の主人公を中心に、ドラマ制作の裏側やPPLの苦労(チキンを食べて欲しいのに、女優にダイエット中だからと拒否されたり!)をユーモアたっぷりに描きながら、30歳という人生の転機を生きる人々の心の揺れを刻んだ良作です。でもやっぱりタイトルがアレなのか、韓国でも「知られざる名作」扱いになっているようで。やっぱり、内容と合ったタイトルって大事ですよね。

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加治屋 真美 エンタメ系ライター。初めて観た韓国ドラマは’03年の「夏の香り」。東方神起との出会いをきっかけに本格的に韓国エンタメの沼にハマり、’14年にはTOPIK(韓国語能力試験)6級を取得。好きな韓国ドラマは「賢い医師生活」「大丈夫、愛だ」「二十五、二十一」などなど(選びきれません……)。Twitter@KajiyaMami この著者の記事一覧はこちら