帰ってきた“いつもの夏”…4年ぶりに通常開催された『郡上おどり』次の世代へ受け継ぐ踊り囃子と下駄の音

400年以上続く「郡上おどり」は、新型コロナの影響で中止や規模縮小が続いていましたが、2023年は4年ぶりの通常開催となりました。町にはカラカラという下駄の音と、踊り助平たちの笑顔があふれていました。(9月9日がおどり納め)
“水とおどりの城下町”、岐阜県郡上市の郡上八幡。
午後3時。“郡上おどり”が始まるまでまだ5時間もありますが、町には早くも下駄や浴衣姿の人たちがいました。
愛知県豊橋市から来た20代の専門学生:「郡上おどりに使う、踊り下駄が気になっていて。カラカラ音が鳴って面白くて楽しいです」多治見市からやってきた、子供の頃から仲良しの3人組は…。
真新しい下駄がお似合いです。
岐阜県多治見市から来た50代会社員の女性:「いま買ったんですよ。今日デビューの2人が」多治見市から一緒に訪れた50代主婦の女性:「フィットして気持ちいい、痛くない。慣らすためにも(今から)履いていきます」イケイケに見える地元の高校3年生の姿もありました。
地元の高校3年生(17):「古い歴史があるので、自慢できる伝統だと思っています。夏イコール踊りみたいな感じですね、昔から」一緒に訪れた地元の高校3年生(17):「高3です。ラストの夏休みです。高校ラストなので、たくさん楽しみたいと思っています」
午後6時、日も落ちかけるこの時間に賑わっていたのは、郡上おどりに欠かせない下駄のお店「郡上木履(ぐじょうもくり)」です。
郡上木履の店主の母:「もう在庫が…お客様に(鼻緒を)すげる分がなくなってしまったので、(工房から)持ってきてもらわないと間に合わなかった」郡上おどりのメイン「徹夜おどり」に向けて、約1000足の“踊り下駄”を用意しています。
このお店の踊り下駄はすべて手作りで、職人の諸橋有斗(もろはし・ゆうと 35)さんが一から手掛けています。
諸橋有斗さん:「これで200足分くらい。これを徹夜おどりまでに、あと1週間くらいでがんばって仕上げるっていう感じですね」
諸橋さんは愛知県尾張旭市出身で、9年前の2014年から郡上八幡に移り住み、下駄を作っています。
諸橋さん:「木工とか森林とか、勉強をしていて、その中で郡上おどりに遊びに来た時に『実は郡上の下駄が地元で作られてなくて』っていう話を聞いて、それはすごくもったいないこと。この土地で、何か自分で仕事を作ってやっていきたいなって」郡上おどりに欠かせない踊り下駄を、「地元で作りたい」と、ここで一から手作りしています。材料も主に郡上産のヒノキと、“メイドイン郡上”がこだわりです。
諸橋さん:「今年(2023年)は4年ぶりの通常開催ということもあって、例年以上にたくさん出ているので、徹夜おどりに向けて在庫切れにならないように頑張って作っているところです」郡上おどりは江戸時代から400年以上続いていて、戦時中も途切れることなく続いてきましたが、新型コロナの影響で2020年と21年は中止になりました。
2022年は開催されましたが、日程は縮小されていて、2023年、ようやく4年ぶりに通常開催となりました。
諸橋さんにとっても、待ちに待った夏です。諸橋さん:「全国から踊りを楽しみに来てくださって、うちの下駄を買っておどりに参加したいって思ってもらえるお客さんが結構多いので、そういう皆さんに下駄をしっかり届けられるように」
踊りが始まる直前、近くの履物店に駆け込んだのは、愛知県みよし市から来た辻さん一家です。
3歳の長女、凛乃ちゃんの下駄を選んでいました。
店員:「これくらい余る感じ。これから1~2年くらいは履ける感じ」
父親の龍晟さん:「先余っていても、ぜんぜん大丈夫?」店員:「そうですね」母親の美月さん:「ファーストシューズならぬ、ファースト下駄!」美月さんの実家が郡上市ということでやってきましたが、長女の凛乃ちゃんにとっては、これが初めての郡上おどりです。美月さん:「絶対楽しいし、この文化があるっていうのを知ってほしいって感じですかね」凛乃ちゃん:「ママ!いま履く!」
初めての下駄を気に入ったようです。
午後8時、踊りが始まります。
踊り囃子と下駄の音。地元の踊り助平はもちろん、日本全国、そして世界からも踊り子が輪を作ります。
地元の女性(26):「郡上おどりでしか聞かない音なので、下駄の音とか手拍子の音とか、毎年聞きたくなるなって」愛知県一宮市から来た50代会社員の女性:「こうやって(下駄を)鳴らすのがここでしかないから」一宮市から来た公務員の60代男性:「(音が)揃うと楽しい」一体となった踊りの輪の中に、肩にうさぎを乗せている男性がいました。
岐阜県瑞穂市から来た各務敦さん(58)「正直、肩がきついです。きついし、暑いし…」
ライオンラビットの千菊丸くん(せんぎくまる オス・2)。郡上おどりにはいつも一緒に訪れているといいます。
各務さん:「みんな笑顔になってくれるんですよ。『あれ!?』とか言って。ほんのちょこっとでも、笑顔になってくれたらいいかなっていうのもあります。(ここでは)最近『うさぎのおじさん』で通っています」うさぎをきっかけに、新たな“友達の輪”も広がっているそうです。
下駄職人・諸橋さんのお店「郡上木履」も大忙しになっていました。下駄を買いに来たり、緩んだ鼻緒を直しに来たりと、お客さんが絶えません。
諸橋さん:「まだ400年という歴史の中の、自分は10年くらいしかやってないですけど、うちの下駄を買ったから、せっかくだから踊りに参加しようみたいな。郡上おどりに頼るのではなくて、うちの下駄をきっかけに、郡上おどりを発信していけるようなモノづくりを続けていきたいなと」郡上おどりには、遠い所から訪れる人も大勢います。ノルウェー出身のエレン・ハウガンさん(30):「東京に住んでいたんですけど、いまは(全国)あちこちに旅をしていて。町全員がみんなで踊るところがすごくいいなと思っています」
神奈川県から3世代で踊りにきた家族がいました。おじいさんの“郡上おどり歴”は、約半世紀だといいます。
祖父(77):「孫、この2人も小さいときに来ているんですよ」孫は11年ぶりの郡上おどりです。
孫(22):「感慨深いものがあります。すごく思い出になるなと。(家族で)これも何回できるかわからないので、一瞬一瞬噛みしめたいなと」娘(48)さん:「息子たちも自分の家族ができたら、ぜひお嫁さんとか子供たちと一緒に来てくれて、そこに私が今度はおばあちゃんとして行きたいなと」
城下町に響く、踊り囃子と下駄の音。郡上おどりは9月9日に「おどり納め」を迎えます。2023年8月10日放送