ウクライナ戦争の影響で変調きたす「ドイツ」 ロシア、中国依存経済が裏目に…

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ウクライナ戦争は世界経済に大きな影響を与えているが、その度合いは国によって違う。NATOの頭目アメリカは、ウクライナ支援の先頭に立っているが、経済は好調である。
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それに対して、陸続きの欧州諸国は、防衛力の強化も迫られ、光熱費の高騰などで経済的な大きな負担を背負っている。中でもとりわけ困難な状況になっているのが、ドイツである。ドイツの2023年の成長率の見通しはマイナス0.3%であり、G7の中で唯一マイナス成長になる見込みである。
ドイツでは、諸物価の値上げによって個人消費が伸び悩んでいる。世界経済が冷え込んでいるため、製造業をはじめとする輸出が不振である。ドイツは、これまでEUの経済成長の推進エンジンであったが、今はその役割を果たせていない。
7月のドイツの輸出は、前月比でマイナス0.9%であった。後述する中国要因もあるが、ドイツ企業の競争力低下も原因の一つである。
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米ソ冷戦期から、西ドイツ、フランス、イタリアなどの西ヨーロッパ諸国はソ連と緊密な経済関係を構築してきた。とりわけ、ソ連の安価な天然ガスの輸入を促進するため、パイプライン網の開発を推進した。
その後、ベルリンの壁崩壊(1989年)、ドイツ統一(1990年)、ソ連邦崩壊(1991年)という激動の時代以降も、ドイツなど西欧諸国は、経済分野でロシアとの相互依存関係を深めてきた。ロシアは、ドイツの優秀な機械などの資本財を輸入し、工業化に拍車をかけた。
アメリカは、このような欧州諸国の動きを批判したが、自らはヨーロッパのエネルギー問題を解決する手助けはしなかった。欧州がアメリカを信頼しない原因の一つである。
しかし、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、NATO諸国を団結させ、結束してロシアと対峙することになった。そのため、ドイツはロシア産の安価なエネルギーを輸入できなくなってしまった。
ドイツ製造業の強みは、安価なロシアのエネルギーにあったが、それが音を立てて崩壊したのである。ウクライナ戦争が始まって半年もすると、戦争前に比べて、天然ガスの価格は5倍にも跳ね上がった。これが、ドイツの成長の足かせとなっている。
しかも、ドイツは4月15日に全ての原発を停止した。2011年3月の福島第一原発事故を受けて、当時のメルケル政権は、その時点で稼働していた17基の原発のうち、古い原発7基と事故停止中の1基を稼働停止にし、残り9基も2022年末までに段階的に廃炉にする方針を決めた。
しかし、ショルツ政権は、ウクライナ戦争によってエネルギー不足から、脱原発実施時期を昨年末からこの4月まで延期したのである。電源構成を見ると、2011年には18%だった原子力は、昨年は6%にまで落ちた。一方、再生可能は20%から44%に増えている。
ウクライナ戦争によるエネルギー不足を不安視するドイツ国民が増え、全原発停止の直前に行われた独DPA通信の世論調査では、原発停止への支持は26%のみで、稼働延長が65%にのぼった。ショルツ連立政権には、原発廃止をうたってきた緑の党が参加している。そのこともあって、既定の原発停止を断行したのである。
その結果、電気料金は高騰しており、成長へのブレーキとなっている。
ドイツは、ロシアの安価なエネルギーを調達し、経済成長に資したが、同時に中国という巨大なマーケットに進出して外貨を稼いできた。自動車をはじめ多くのドイツの製品が中国に輸出されてきた。また、中国から安価な原材料を輸入した。
ところが、ウクライナ戦争によって中国への輸出にもブレーキがかかっているし、中国経済も不振である。メルケル政権が推進してきた中国依存経済が、いまや大きなマイナス要因となっているのである。
ショルツ政権は、7月13日、対中戦略を閣議決定し、過度の中国依存を是正する方針を打ち立てた。原材料の調達も対中依存度を引き下げる(デリスキング)ことにした。
今後、ドイツ経済は再生していくのかどうか。それは、EU全体の将来にも大きな影響を及ぼす。

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今週は、「ドイツ経済」をテーマにお届けしました。