2023年6月の新型「アルファード/ヴェルファイア」発表会で突如としてスクリーンに映し出されたSUVタイプの新型「センチュリー」が、ついにお披露目となった。背の高い5ドアハッチバックスタイルをもつ堂々としたボディ形状はSUVそのものなのだが、トヨタ自動車は同モデルをあくまで「最上級ショーファーカー」として開発したそうで、SUVと呼ぶことははっきりと否定している。同社が「センチュリーはセンチュリーなのです」(中嶋裕樹トヨタ副社長)とする新型車の成り立ちは? 発表会で得た情報をもとに考察してみた。
○変貌を遂げるVIPカスタマー
新型センチュリーの発表会に登壇したのは、6月のアル/ヴェル発表会で「センチュリーを大胆に変える新たなエディションが加わります」と予告した張本人のトヨタ取締役・執行役員 デザイン領域統括部長 チーフブランディングオフィサーのサイモン・ハンフリーズ氏だ。
ハンフリーズ氏の言葉を借りると、初代センチュリーは1967年、トヨタグループの創業者である豊田佐吉氏の生誕100周年を記念して、当時専務だった豊田章一郎氏と中村健也チーフエンジニアを中心とした開発チームが、「日本人の誇りと実力を示しうる、選ばれた方だけにお乗りいただく車」という強い決意で作りだした。日本人の感性の高さを象徴する伝統や文化的価値を取り入れつつ、当時の最先端技術も取り入れた唯一無二のショーファーカーだったというのがハンフリーズ氏の解説だ。その哲学は、2018年に登場した3台目センチュリーまで脈々と受け継がれている。
センチュリーの作り手は顧客の“1日の過ごし方”を想像して車を作っているという。VIPカスタマーは多くの場合、人目に触れるあらゆる瞬間のあらゆる動作が注目されており、車での到着時と出発時は人柄が伝わる最初の場面であり、最後の場面ともなる。公務からプライベートへのエレガントな移行は、それ自体が芸術であり、その移行をできる限り自然でシームレスにすることがセンチュリーの役割なのだそうだ。
そんなセンチュリーのカスタマーも変わりつつあると痛感していたのが、トヨタ前社長(現会長)の豊田章男氏だ。新しい世代が、新しい考え方、新しい働き方で、新しい業界をリードし始めた現在、やはりセンチュリーは変わらなければならないといのが豊田氏の考えだ。
多様な顧客のニーズに対応するために誕生したのが新型センチュリーだ。新時代のVIPカスタマーたちは、車内のスペースをさまざまな目的で活用する。仕事をしたり、くつろいだり、同乗者と会話を楽しんだり、時にはなにかから逃げ出して避難するためであったり、ものを考えたりといった具合だ。プライバシーを重視しながらパブリックライフも受け入れる、世界のどこにもない日本独自のフラッグシップとして作ったクルマが、新型センチュリーなのだという。
○オープンカー仕様も作れる?
ショーファーカーとして最重要な後部座席は、何にこだわって作ったのか。トヨタは以下のようなポイントを挙げた。
必要なものが全て手元にあること
乗客とドライバーのプライバシーを作り出すちょうどいい距離があること
考えたりリラックスしたりするための高い静粛性
大きな声を出さなくても自然に会話が楽しめること
プラグインハイブリッド(PHEV)により日常移動の大半をゼロエミッションとすること
プロドライバーによる4WSと4WDの車両姿勢のコントロール
調光ガラス
世界最高の楽器を作る日本の知見をいかしたオーディオシステム
靴を脱いで全身を伸ばし、“繭”の中にいるように自由にくつろげること
幅広いカスタム(オーダーメイド)が可能なところも新型センチュリーの特徴。何とリアドアの開閉方法にまで選択肢が用意されており、白手袋の運転手に開けてもらう通常の「ヒンジドア」だけでなく、ドレスを着た女性でも不安なく乗り降りできる「スライドドア」仕様を選ぶことができる。
ほかにも、週末に自らドライブを楽しむことができるスポーティーな「GRMN」モデルや、さらにはコンバーチブルモデル(いわゆるオープンカー)までがカスタマイズの範疇に入っているというから驚きだ。
新型センチュリーの月間販売台数は30台。価格はベースモデルで2,500万円だが、ビスポーク(特注)的な要素を加えていけば、同様なボディ形状を持つベントレー「ベンテイガEWB」(2,675万円)やメスセデス・ベンツ「マイバッハ GLS600 4MATIC」(2,729万円)などの海外勢と肩を並べるか、あるいは上回るような事態も容易に想像がつく。さすがに5,000万円越えのロールス・ロイス「カリナン」と張り合う価格にはならないかもしれないが、日本の最上級ショーファーカーとしては堂々たるものだ。
原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら