木原官房副長官は党に“避難”? 第2次岸田再改造内閣「内向き人事」の全内幕

9月13日午後、第二次岸田再改造内閣が発足した。11人を初入閣させ、女性を積極的に起用することで刷新感を打ち出す構えだが、一方で根幹となる要職の多くが「留任」となっており、自民党のベテラン議員からは「内向き人事」との声も上がっている。
「しょせん、ただの『内向き人事』でしかない」岸田文雄首相に距離を置く自民党ベテラン議員は今回の内閣改造・党役員人事をこう切り捨てる。
岸田首相(写真/共同通信社)
確かに新任のポジションもいくつかあるが、今回の人事の特徴は根幹の要職が「留任」となった部分にある。そこを見れば、まさに「内向き人事」の理由が分かる。党人事では麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長、萩生田光一政調会長、内閣改造では松野博一官房長官、鈴木俊一財務相、河野太郎デジタル相、西村康稔経産相、高市早苗経済安保担当相ら、要となる人事はいずれも留任だ。まずは茂木幹事長――。茂木派、麻生派、岸田派は政権を支える主流3派だが、茂木氏については岸田派幹部は交代の可能性も示唆していた。主流3派とはいえ、岸田首相に尽くし、ひたすら舞台裏で支える姿勢かというとそうではなく、「ポスト岸田を視野に、総裁総理への意欲は満々」(茂木派幹部)だった。通常国会終盤以降の茂木氏の政治行動は活発で、アメリカなどを外遊し、外相時代からの要人と次々に会っている。「外交は自信を持っている。アメリカに行ったのも岸田首相にレールを敷くためではなく、自分の独自のルートと人脈で意見交換した。明らかに自らの存在感を示すためのものだった」(外務省OB)国内も精力的に回り、行った先々で首相と調整や擦り合わせをしていない独自の政策的発言を積極的に行った。
茂木敏充幹事長(本人Facebookより)
公明党との選挙協力では昨年の参院選以来調整に失敗し、つい最近まで東京の自公協力すら混乱した。岸田首相が今回の人事のあと、念頭に置くひとつが解散・総選挙だ。公明党との信頼関係に不安がある茂木氏をそのまま幹事長として残すかどうか、首相は迷ったはずだ。
しかし、幹事長交代となれば、茂木氏が黙っているはずがない。ポスト岸田へ一気に反主流へと名乗りを上げる可能性が高い。また幹事長を外して閣内に取り込むとしても、茂木氏にふさわしい重量級ポストはそう易々とは空いてはいない。冒頭のベテラン議員が続ける。「結局、留任。このまま茂木氏を重用して主流3派でいき、同時にライバルを傘下に抑え込む。そうやって次の総裁選は自分を支えてもらい、茂木氏にはその次という流れにしたいということ」萩生田氏、松野氏、西村氏の留任は安倍派への気遣いだ。会長が決まらずに当面、集団指導体制でいくことが決まった安倍派だが、中でも会長候補の5人衆(萩生田氏、西村氏、松野氏、世耕弘成自民党参院幹事長、高木毅国対委員長)の誰かを登用し、誰かを外すとなると、安倍派のゴタゴタに首を突っ込むことになりかねない。さらに外されたメンバーから反発を食らい、安倍派全体の支援はもらえなくなる。そのため、松野氏、西村氏の留任など、安倍派の多くを重用したというわけだ。岸田首相が萩生田氏と人事前に2度も会談したことにも注目だ。「岸田首相は重要な場面で麻生氏、茂木氏との主流3派で話し合っているが、そこに最大派閥の安倍派を呼ばないのはどういうことだと萩生田氏が周囲に怒っていて、これが首相の耳に入った。そこで萩生田氏と2度会うことで“安倍派のことはあなたに相談する”と怒りをおさめてもらい、安倍派の事情も聞いたのだろう」(安倍派閣僚経験者)
萩生田光一政調会長(本人Facebookより)
2度も会ったことから、萩生田氏を官房長官などの重要ポストに当てるのではといった見方も直前に流れたが、「萩生田氏は旧統一教会との関係があった。今後、解散命令や総選挙などふたたび旧統一教会対応のヤマ場が来るが、その時に閣僚だったら国会で追及される。ここは国会質疑に出席せずにすむ、党側の政調会長留任でということになった」(岸田派幹部)という。
河野氏留任のウラ舞台はどうだろう。マイナンバーカードをめぐるトラブルで責任を取らせ、別の、丸く収める温厚な人材を登用したほうがよいと話す自民党幹部もいた。岸田首相にとって河野氏は、来年秋の総裁選での最大のライバルだけに、以下のような計算が働いていると河野氏サイドは見る。「来年秋の総裁選を考えると、河野さんを閣内に封じ込めておいた方がいい。マイナカード問題は当分続くが、河野さんがいれば世論の批判の盾になる。それでさらに評判が落ちれば、ライバル潰しにもなる。マイナカードは各省庁に横串を刺す政策で担当大臣では限界があり、これをやれるのはその上の総理しかいない。しかし、相変わらず岸田首相は総点検本部のトップを自らがやらずに河野さんに任せ、『批判は河野へ』だ。そして世論の批判が高まれば自分が出てきて、『保険証も認める』などと言い出すかもしれない。河野留任はライバル潰しだろう」(河野氏支持の若手議員)
河野太郎デジタル相(本人Facebookより)
高市経済安保相の留任については、「自民党支持者の中でも保守派がLGBT関連法などで岸田首相から離れつつある。こうした保守層をつなぎとめるには高市氏を温存しておくという判断」(前出岸田派幹部)という。留任ラッシュで党と内閣の基本骨格を維持した岸田首相だが、新しい顔ぶれがいなかったわけでもない。まずは女性登用。現在、女性閣僚はたった2人で、日本はG7で最低水準だ。このため、女性の積極登用というアピールをしたいと考えたのか、岸田首相は党6役と内閣のポストで、あわせて計6人の女性政治家を起用している(高市氏の留任を含む)。中でも目立つのが党人事での小渕優子選対委員長、そして内閣では上川陽子外相だろう。ただし、ふたりの重用の動機はいささか心もとない。まずは小渕氏。起用の経緯はこうだ。小渕氏についてはもともと後ろ盾だった故青木幹雄元官房長官が「彼女は将来の女性首相候補」と、表舞台へ登用するように岸田首相やその恩師の古賀誠元幹事長、森元首相らに強力に働きかけていた。選対委員長ポストへの起用について、前出の岸田派幹部はこう語る。「小渕さんは茂木派。選対委員長とはいえ、そもそも選挙は幹事長の主管でもある。次の勝負の総選挙で敗れれば茂木、小渕のふたりで責任を取らせればいいし、勝てばそれは岸田首相の総裁選再選への手柄になる。うまいポジションに就けたものだ」
小渕氏には先行きへの問題もある。「選挙そのものの難しい調整などを、小渕氏にやれるのか。それに2014年に政治資金問題で秘書が逮捕され経産相を辞任したが、その時に地元関係者が証拠隠滅のために電動ドリルでパソコンのハードディスクに穴を開け、『ドリル優子』との悪名がついた。小渕氏はあの事件の説明責任をいまだに果たしていない。小渕起用でそれを求められるリスクが生じるのではないか」(自民党関東地区県連幹事長)ちなみに、小渕氏に選対委員長を明け渡した森山裕氏は党総務会長に。こちらは新顔というよりは横滑りで、トーンとしてはやはり「内向き人事」だろう。「今回の自公のゴタゴタで、間に入っておさめたのが森山氏。岸田首相の信頼も厚い。しかも、森山氏は反主流派の菅(義偉)前首相や二階俊博元幹事長にも近い。岸田首相にとっては党内基盤を安定させるためには必要な存在。だから、党のまとめ役の総務会長にした」(前出・岸田派幹部)もう一つの目玉、上川氏を抜擢した動機も、その内実は乏しい。「上川抜擢の理由は3つ。まず、じつは林芳正外相と岸田首相がしっくり行ってない。林氏は古賀誠前宏池会長に近く、古賀氏は『安全保障や憲法改正問題など、首相の施策は本来の宏池会らしくない』と批判し、岸田首相と距離がある。そこで林氏に代えて同じ岸田派内で関係の良好な上川氏を起用した。2つ目は、女性閣僚が少ないという批判は海外やG7で言われているので、上川氏を外交舞台に露出させて海外の批判をかわしたい。3つ目は、岸田首相は外交は自分がやるという強い自負があるから、外相はただのお膳立てで誰でもよかった」(岸田派国会議員)最後に官邸の最側近とされる木原誠二官房副長官の交替人事に触れておきたい。党内の支持基盤を固め、バランスを取ることを主眼にしただけの今回の人事にあって、一見、この交替だけが賢明な人事のように見える。
幹事長代理に就任した木原誠二氏(写真/共同通信社)
木原副長官をめぐっては「週刊文春」とのバトルが続いている。木原氏の現在の妻が以前結婚していた夫の死亡事件に関わっていると、何度もスキャンダルを報じた文春に対して、木原副長官は事実無根、人権侵害と徹底抗戦中だ。その渦中には死亡した男性の遺族や再捜査に携わった元刑事なども会見した。そのため、文春サイドも長期戦を構えているとされる。前出のベテラン自民議員が言う。「このまま木原氏と文春がやり合っているかぎり世間の関心は続くわけで、少なからず岸田政権に影響する。何と言っても木原氏は官邸の中枢で岸田首相を支える存在だ。岸田首相はこれまでも旧統一教会絡みの閣僚や秘書官の長男の処遇などが後手に回り、危機管理能力がダメというレッテルが貼られてきた。今回の人事、皮肉な言い方だが、誰をどこに新しく就けたというのではなく、木原氏を切ったというのが唯一と言っていい、懸命な危機管理の人事だったと言えるかもしれない」
だが、無役ならまだしも、党副幹事長というのでは一定の権限と影響力が木原氏に残ってしまう。これでは木原氏を表舞台の官邸から目立ちにくい党内へと避難させただけの温情とも言えるわけで、結局、これも内向き人事なのではないか。マスコミの世論調査で内閣の支持率は低い。その要因は個別の政策への国民の不満だろう。マイナ保険証への強引な移行、増税への動き、原発事故処理水放出の説明不足、後手後手の物価高対策――。なのに、人事をよく見ると、こうした国民が不満を抱く政策を司る省庁の閣僚の顔ぶれはいささかも変わっていない。その意味することは、岸田内閣としてはこれらの政策の方針を継続させるという宣言に他ならない。
(写真/shutterstock)
今回の岸田人事は、冒頭のベテラン自民議員が指摘する「内向き」を優先させた人事と言えるだろう。だがこれで本当に、国民の批判をやり過ごすことができるのだろうか。文/鈴木哲夫