ロータリーエンジン復活! マツダ「MX-30 ロータリーEV」は誰のためのクルマ?

マツダが新型車「MX-30 ロータリーEV」の予約受け付けを開始した。11年ぶりに復活した「ロータリーエンジン」が発電機の役割を果たすマツダ独自のプラグインハイブリッド車(PHEV)だが、いったいどんなクルマなのか。誰向けのクルマなのか。広島県のマツダ本社で事前取材会があったので参加してきた。

○どんな仕組み?

MX-30 ロータリーEVは「シリーズ式のPHEV」というタイプのクルマだ。もともとMX-30には、マイルドハイブリッド車(MHEV)と電気自動車(バッテリーEV=BEV)があった。今回は3つ目のタイプとしてPHEVが新たに加わったことになる。

シリーズ式PHEVのMX-30 ロータリーEVはロータリーエンジン、高出力モーター/ジェネレーター、容量17.8kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載している。走り(タイヤの駆動)を担うのはモーターのみ。ロータリーエンジンは駆動に直接的には関与せず、発電に専念する。

バッテリーを充電しておけばBEVのように乗ることができる。マツダによれば、フル充電での走行可能距離は107kmだ。MX-30の主査を務める上藤和佳子さんによると、BEVやPHEVに乗る人の9割はクルマによる移動距離が1日100km未満であるとのこと。ロータリーEVのBEV走行距離は、この調査結果を踏まえて設定したという。確かに、フル充電で100kmも走れば、普段の通勤や買い物にガソリンをほぼ(1滴も?)使わなくて済むという人は多そうだ。

バッテリーの電気がなくなったとき、あるいは急加速を意図してドライバーが思い切ってアクセルを踏んだときにはロータリーエンジンが発電し、バッテリーに電力を供給する。この電力でモーターを回せるので、長距離ドライブも問題なくこなせるというのがMX-30 ロータリーEVの特徴だ。ガソリンタンクの容量は50L、ハイブリッド燃料消費率(WLTCモード、いわゆる燃費)は15.4km/Lだから、普通に掛け算をすれば、バッテリーが空でもガソリン満タンで750kmはハイブリッド車として走れる計算になる。

ただしMX-30 ロータリーEVは、日常的な充電をせず、シリーズ式ハイブリッド車として乗るのには、あまり向かないかもしれない。というのも、燃費がそれほどよくないからだ。シリーズ式ハイブリッドといえば日産自動車の「e-POWER」というシステムが思い浮かぶが、同システムを搭載するコンパクトカー「ノート」は28.4km/L(2WD、WLTCモード)、MX-30より大きいSUVの「エクストレイル」でも19.7km/L(同)だから、比べると燃費の差は気になる。もちろん、そもそもe-POWERは外部から充電できないので、全くの別物と考えた方がいいのかもしれないが……。

○普通に使える? それともマニア向け?

主査の上藤さんによると、ロータリーEVの開発で目指したのは「普段はBEVのように使えて、休日は遠出をするなどアクティブなカーライフを楽しめる」ことと、「100%モーター駆動によるBEVモデルのような心地よいドライビングがずっと続く」こと。この言葉からもわかる通り、MX-30 ロータリーEVは基本的に、BEVとしての使い方に軸足を置いたクルマだ。毎日の(往復100km以内くらいの)移動はBEVとしてこなせる一方、たまに遠出するときには、BEVのように充電残量や経路充電を心配する必要がない。そんな欲張りな1台だといえる。

これらを踏まえると、MX-30 ロータリーEVを便利に使えるのはクルマでの移動距離が1日100km未満でたまに遠出する人、つまり、ほぼ全ての自動車ユーザーということになる。ただし、BEV的な乗り方をするには自宅でクルマを普通充電できる環境が不可欠だ。

もちろん、MX-30 ロータリーEVはコアなマツダファン向けのクルマでもあるだろう。なんといっても、発電機であるとはいえ、あのロータリーエンジンが載っているからだ。

PHEVに乗る場合は普通、なるべくBEVとして走らせて、いかにガソリンの消費量を少なくできるかに意識が向くはずだと思うのだが、マツダファンがMX-30 ロータリーEVに乗る際は、たぶん、違った感情がわいてくるのではないだろうか。

マツダのパワートレイン開発の人たちに話を聞いた感じでは、ロータリーエンジンは基本的に、発電機として効率的な稼働をするように回転数を制御しているそうだが、だからといって常に一定の回り方をするのではなく、アクセルの踏み具合や車速に応じた動き方をするようだ。なので、走りに応じたロータリーエンジンの快音を楽しむことも可能かもしれない。とにかく、このクルマに乗れば「私はロータリーエンジン搭載車に乗りながら、普段はほとんどガソリンを使わずに、エコなカーライフを楽しんでいるマツダファンなんだ!」という満足感を得られるのは確かだろう。