大地震に襲われたモロッコ、旧宗主国フランスからの支援を「拒否」し続ける背景

北アフリカのモロッコで、9月8日深夜、大規模地震が発生。マラケシュから70キロ離れた内陸部で2,900人を超す死者が出るという惨事になっている。被害を受けた集落は山岳地帯に点在しているため、救助や支援が難航している。
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私は、現国王ムハンマド6世が皇太子の時代に、父君のハサン2世に依頼されて、国際政治のご進講をしたことがある。1対1だと緊張するが、モロッコ版の学習院があり、ご学友たち10名近くが集まって、大学のゼミのような授業をした。
皇太子と同じ年に生まれた子どものうち、各地域から最優秀の者を選んで、王宮内の学習院に入れ、皇太子のクラスメイトにする。彼らは、皇太子が国王になると、閣僚や知事として支えるのである。
私が地方に行くと、私の授業を受けた青年が、知事になって活躍しており、「先生に教わった者です」と挨拶してきたことがある。楽しい思い出であった。
このような関係から、私は、モロッコ王国より、2008年11月にアラウイ王朝勲章グラントフィシェ(Le Grand Officier du Wissam Al Alaoui)に叙せられた。
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モロッコは観光が盛んで、首都ラバトの他、今回の震源地に近いマラケシュ、映画でも有名なカサブランカ、フェズなどは多くの外国人観光客を集めている。
モロッコは革製品が特産品で、フランス語で革製品のことをmaroquinerie(マロキネリー)というが、モロッコのものという意味である。私も、革ジャンバー、衣装ケースなどモロッコ製の革製品を多数持っている。
絨毯も作っており、私は国王から頂いた皇太子授業料で、フェズで7枚の絨毯を購入し、今も重宝している。フェズ・ブルーという青色のカーペットは、部屋の感じを清らかにする。
また、日本はモロッコから、タコやイカ、そして最近は松茸まで輸入している。私たちの食卓にも直結しているのである。
帝国主義の時代に、モロッコもイギリス、スペイン、フランスなどの諸国による植民地化の波に襲われた。その結果、1912年には国土の大部分がフランスの保護領となった。1956年にモロッコは独立するが、植民地時代には、多くの制度がフランス式になった。
独立後、ヨーロッパでは高度経済成長によって労働力不足が問題になり、モロッコ人も出稼ぎにフランスに移民していった。ドイツは、トルコから多くの移民を受け入れた。欧州先進国にすれば、人手不足に対応するために、アフリカなどに移民を求めたにすぎない。
しかし、定着すれば、家族を持ち、子孫を残していく。こうして、移民について、2世、3世の問題が深刻になっていく。アイデンティティー・クライシスに悩む2世、3世が増えているのである。
移民を親に持つ若者が、人種や宗教上の差別に怒り、テロに走るケースも増えている。そのため、テロ対策から、移民、とりわけイスラム教徒の受け入れを拒否しようとする動きが強まっている。最近のヨーロッパでは、移民排斥をうたう極右政党が多くの国で勢力を伸ばしている。
地震に襲われたモロッコに対して支援の手を差し伸べている国は多い。しかし、モロッコ政府は、支援国をイギリス、スペイン、カタール、アラブ首長国連邦の4カ国に限っている。
旧宗主国で関係が深いにもかかわらず、フランスの支援は拒否されている。なぜなのか。
それは、モロッコとフランスの関係が良くないからである。フランスは、2021年9月に、不法移民対策として、モロッコを対象にビザの発給を半減する方針を決めた。これにモロッコは反対している。今でも、多くのモロッコ人がフランスに出稼ぎに行っており、道路清掃などフランス人の嫌がる仕事をしている。
また、モロッコが領有権を主張する西サハラについて、フランスがその主張を認めていないことも、モロッコの反仏感情を強めている。
ニジェール、マリ、ブルキナファソで、軍事クーデターが起こり、フランス駐留軍を追い出して、ロシア、とくにワグネルに支援を求めている。旧宗主国フランスに対する反感は根強いのである。
モロッコでは、フランスに対してそこまでの拒否はないが、移民問題では利害が対立している。いずれにしても、ヨーロッパ諸国が植民地の負の遺産を解消するのは容易ではない。

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今週は、「モロッコ地震」をテーマにお届けしました。