日本におけるE-2「ホークアイ」早期警戒機の運用が2023年でちょうど40年を迎えました。現在、航空自衛隊は最新のD型を導入している真っ最中。既存のC型との性能の違いや、判別ポイントはどこでしょうか。
青森県の三沢基地で2023年9月10日に開催された「三沢基地航空祭」。その最初のオープニングで飛行を行ったのは、航空自衛隊が運用する早期警戒機E-2「ホークアイ」でした。
このとき飛行したE-2には普段と異なる特別塗装が施されていましたが、これは航空自衛隊でE-2の運用を担っている警戒航空団の創立40周年を記念したものだそうです。
「領空侵犯!?」空自が青ざめた事件とは “空飛ぶレーダーサイ…の画像はこちら >> 三沢基地に配備されているE-2D「アドバンスド・ホークアイ」。外見上は塗装も含めて従来のE-2Cと非常によく似ている(布留川 司撮影)。
E-2の役割は、機体上部に搭載した円盤型のレドーム(レーダードーム。ロートドームとも)を用いて上空から広い空域の監視や、味方の航空機を管制することです。ゆえに「空飛ぶレーダーサイト」とも呼ばれています。
なお、本来レーダーサイトは地上に設けられるもので、航空自衛隊は全国28か所にレーダーサイトを設置・運用しています。しかし、これらは地上にあるため遠方の低空を飛ぶ目標などは探知が難しいという欠点があります。その弱点が露呈したのが、1976年9月に北海道で起きたベレンコ中尉亡命事件(別名MiG-25事件)でした。
この事件は、ソ連防空軍の現役パイロットであったヴィクトル・ヴェレンコ中尉がMiG-25戦闘機に乗って日本に亡命してきたというものです。ただ、彼が日本領空に侵入した際、低空飛行したため、航空自衛隊のレーダーサイトや、スクランブルで上がったF-4EJ「ファントムII」戦闘機のレーダーから見失うこととなり、対応できませんでした。
結果、MiG-25は単独で北海道上空へと侵入、函館空港に強行着陸しています。このとき当該機を見失った失態は航空自衛隊に衝撃を与えます。今回は単独での亡命だったからまだよかったものの、万一有事の際に同様のことが起きたら防空体制に穴が開いてしまうことを意味するため、その欠陥を埋める意味から早い段階で早期警戒機の導入が具体化され、事件からわずか2年後の1978年8月にE-2早期警戒機の導入が決定。それから5年後の1983年1月、最初のE-2が航空自衛隊に配備されました。
E-2はアメリカのグラマン社(現ノースロップ・グラマン)が、空母に搭載する艦載型の早期警戒機として開発した機体です。その高性能と、狭い空母の上でも運用できる便利さから、日本のように空母を持たない国で導入する事例も多く、台湾、エジプト、イスラエル(退役済)、シンガポール(退役済)、メキシコ(イスラエルの中古機を導入)で採用。また、フランスでも自国海軍の空母に艦載機として導入しています。
航空自衛隊が最初に導入したE-2はC型というモデルで、全部で13機が導入されています。しかし、40年間も同じ機体をそのまま使っているワケではなく、アメリカ海軍のE-2の性能向上型(ホークアイ2000)と同等のアップグレードを施しており、それら機体は「改善型E-2C」と呼ばれ2005年から運用されています。
また、アメリカ海軍では今後もE-2を「艦隊の目」として長く使っていくために、E-2のアップグレードモデルを開発しています。それが最新型のD型で、最初の量産機は2010年にアメリカ海軍へ納入されています。
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航空自衛隊のE-2D早期警戒機。特徴的な8枚プロペラは既存のC型にもレトロフィットする形で導入が進められている(布留川 司撮影)。
外見上はC型とほとんど変わりませんが、機内のレーダーやアビオニクスは一新されており、特にレーダーはAN/APY-9というAESA(アクティブ・フェイズドアレイ式)レーダーになっているのが特徴です。その探知範囲は300海里 (約555 km)といわれていますが、これは東京を起点にした場合、東は盛岡、西は大阪付近まで監視できることを意味します。
また、レーダーだけでなく、機内のコンピューターや機器などもアップグレードされており、D型は早期警戒機としてのすべての能力が向上しています。そのため、D型は既存のC型との違いをアピールするためか「アドバンスド・ホークアイ」という新しい名称で呼ばれています。
航空自衛隊でもC型の老朽化から、このD型の導入を決定しており、すでに4機のE-2Dが配備されています。じつは今回の三沢基地航空祭で飛んだ特別塗装機も、この新しいD型でした。
航空自衛隊では現在、E-2「ホークアイ」を三沢基地の第601飛行隊と那覇基地の第603飛行隊で運用しています。C型とD型両タイプともそれぞれの飛行隊に配備されており、南北の飛行隊でモデルを分けることなく新旧が混在する形で同じように使われています。
両機種は外見が非常によく似ているため、それがCなのかDなのかはパッと見判断しにくいかもしれません。しかし、よく見ると識別することが可能です。一番わかりやすい特徴は胴体上部と右側面にある空気取り入れ口でしょう。この穴は機内に搭載された電子機器を冷却するためのものですが、D型ではその能力を向上させるために取り入れ口が大型化しています。
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三沢基地航空祭で展示された航空自衛隊のE-2D早期警戒機。高性能化に伴い、既存のC型よりも電子機器の冷却用空気取り入れ口が大きくなっている(布留川 司撮影)。
また、機体上部のレドームも、C型は中央付近に円柱状の突起(GPSアンテナ)があるのに対して、D型は何もないフラットな形状となっています。レドームの塗装についてもC型ではフチ部分が黒で塗られているのに対して、D型は機体と同じグレー系の塗装で統一されています。
それら以外の外見的な特徴としては、プロペラがC型では4枚羽根なのに対して、D型では8枚羽根のものになっています。このプロペラはNP2000と呼ばれる複合素材でできたプロペラで、飛行時の騒音と振動が従来の4枚羽根よりも大きく低減されています。
NP2000では羽根1枚ごとで取り外しすることが可能なため、それによって整備性と信頼性も大きく向上しています。ただ、こういったメリットゆえにC型の一部機体も8枚羽根のNP2000に交換されていることから、羽根の枚数だけではE-2のモデルの違いを判断することはできなくなっています。
ほかにも、外見からはわからないものの、日本のD型だけに採用されている仕様としては、機内に機内食を温めるための電子レンジとトイレが装備されています。E-2は、その任務ゆえに一回離陸すると飛行時間が長くなる傾向があります。これまでのC型でも乗員の生理現象に対応するための器具はありましたが、D型ではより快適に利用できるトイレが設置され、乗員の機内環境が向上しています。
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機体上部のレドーム。C型では円盤のフチ部分が黒く塗られているが、D型ではこのように統一されたグレー系の塗装となっている(布留川 司撮影)。
また、今後導入される機体には、より飛行時間を延ばすために主翼内へ燃料タンクを増設するフル・ウェット・ウイングという改良が施される予定です。これによってD型の飛行時間は最大で約8時間(従来は約5時間)まで増えることになるそうです。このフル・ウェット・ウイングは現在配備されている航空自衛隊のD型には未搭載であるため、今後新たに生産される機体から適応される模様ですが、具体的な時期や採用機数などはわかっていません。
アメリカ海軍では、D型のアビオニクスを中心としたアップグレードを今後も続けていくそうで、ある海軍関係者によれば2040年代までの運用も考えているとか。航空自衛隊で40周年を迎えたE-2「ホークアイ」ですが、その歴史は今後もしばらく続きそうです。