令和4年度版の「介護労働実態調査」が発表。介護離職率、人手不足感、平均給与額の最新動向は?

8月21日、公益財団法人介護労働安定センターは、「令和4年度(2022年度)版介護労働実態調査」の結果を公表しました。
毎年調査・発表されていますが、調査結果の中でも注目度の高い指標が介護職における離職率、人手不足感、平均年収などです。
今回の調査結果によると、2022年度時点では、介護職全体の平均離職率は14.4%で前年度調査から0.1ポイントの上昇。人手不足感は職種全体の平均だと66.3%で、ここ数年は60%台で推移しています。平均年収は職種全体の平均で376万1,881円。訪問介護員(ホームヘルパーとして働く介護職)は約340万円、介護職員(介護事業所に勤務する介護職)は357万円、介護支援専門員(ケアマネージャー)は約393万円、看護職員は約431万円でした。
今回発表された介護労働実態調査では、感染症に対する取り組みが入所系(施設系)の事業所で進んでいること、ICTの活用状況が昨年より進んでいること、外国籍労働者の新たな採用・活用が増加傾向にあること、なども示されています。
以下では、介護労働実態調査における離職率、人手不足感の現状に注目し、その内容について深掘りしていきます。
「介護労働実態調査」は、公益財団法人介護労働安定センターが毎年実施し、介護分野での優れた人材の確保・育成、介護職の働く環境の改善、より質の高い介護保険サービスの提供に資することを目的としています。
調査内容は事業所調査と労働者調査で構成され、事業所調査は2002年度から、労働者調査は2003年度から毎年行われてきました。
今回発表された2022年度(令和4年)の調査は、事業所調査では有効調査数が1万7,125事業所で、そのうち有効回答は8,708事業所。回収率は50.8%です。
一方、労働者調査は、有効対象労働者数は5万1,375人で、有効回収数は1万9,890人。回収率は38.7%でした。
毎年実施・公表される介護労働実態調査において、もっとも注目される指標の一つが離職率です。離職率とは、調査時点の在籍者数に占める過去1年間の離職者数の割合のこと。例えば現時点で10人在籍していて、過去1年間に2人離職していれば、離職率は20%になるわけです。
離職率が注目指標となる理由は、介護職における数値の高さゆえです。実際、2007年時点のデータで比較した場合、厚生労働省の「雇用動向調査」によると、当時の全産業平均離職率は15.4%。一方で同時期の介護職の離職率は21.6%。介護職の方が6ポイント以上も高くなっていました。高齢化が進み、介護職不足が懸念される中、介護職の離職率の高さは、介護業界全体が直面している大きな問題として考えられてきました。
しかし近年、介護職の離職率は目に見えて減少しつつあります。最新の2022年時点のデータでは、介護職全体の離職率は14.4%。約15年の間に、約7ポイントも低下しています。全産業平均は2021年時点で13.9%。こちらも2007年当時に比べると減ってはいますが、介護職の方が大幅に減っています。
介護職の離職率が減った要因としては、介護事業者が介護報酬として受け取る加算の中に、介護職の処遇改善を内容としたものが増え、待遇が良くなったこと(介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算など)がまず挙げられるでしょう。また、処遇改善加算を取得する条件でもある労働環境、教育環境、評価システムなどの改善も、理由として考えられます。令和4年度版の「介護労働実態調査」が発表。介護離職率、人手不…の画像はこちら >>
介護職の離職率が低下する一方で、採用率も低下しています。採用率とは、調査時点の在籍者数に占める過去1年間の採用者数の割合のことです。
介護職の採用率は、2007年時点で27.4%でしたが、2022年時点で16.2%。10ポイント以上低下しています。2007年時点は離職率が高く(21.6%)、さらに採用率も高い状態であり、これは離職する人が多い一方で、転職する人も多かったことを意味します。2022年時点は2007年時点に比べて離職率も採用率も下がっているので、より安定して長く勤務し続けている人が増えているとも言えます。
しかし、介護業界はもともと人手不足の状況が続いていることから、理想的なのは離職率が下がる一方で、採用率がなお上昇している状況です。採用率が高まらないということは、人手不足感がなかなか減少しないことを意味します。
介護業界で人手不足の状況が続いていることは、今回の調査結果でも明らかにされています。
調査結果によると、介護事業所に対して「人手不足感」を問うアンケートでは、「不足している」「大いに不足している」と回答した事業所の割合は全体の66.3%。7割近い事業所が人手不足を感じています。介護事業所全体では、過去5年間の人材不足感はおおむね60%台で推移。過半数の事業所において人手が足りない状況が続いています。
人手不足感を職種別でみると、「介護職員」は69.3%。特に不足感が強いのは「訪問介護員」で、83.5%に上っています。また近年、「介護支援専門員」の不足感も上昇。2018年当時は30.9%でしたが、2022年度時点では37.7%まで上がっています。
介護支援専門員は資格試験の受験資格が変更したことにより、2018年に受験者数が激減しました。その影響もあってか、ここ数年、人手不足感が徐々に増え続けています。
介護労働実態調査では、「労働条件等の悩み」、離職経験のある介護職への「前職を辞めた理由」のアンケートも毎回行われています(複数回答)。
2022年度調査では、「労働条件等の悩み」の最多回答は「人手が足りない」(52.1%)で、以下、「仕事内容のわりに賃金が低い」(41.4%)、「身体的負担が大きい(腰痛や体力に不安がある)」(29.8%)が続いていました。
また、前職を辞めた理由としては、「職場の人間関係に問題があったため」(26.9%)が最多回答。以下、「法人・事業所の運営の在り方に不満があった」(20.8%)、「他に良い仕事・職場があったため」(18.5%)などが続いています。
これらの調査結果は、人手不足解消のヒントにもなり得ます。労働条件の悩みを減らすこと、辞めた理由を踏まえてその対策を考えることは、離職者を減らし、人材確保に直結するからです。アンケート結果を踏まえると、待遇を改善すること、身体的負担を減らす取り組み(ロボット、ICTの活用)に取り組むこと、コミュニケーションを活発にすること(同僚や上司とはもちろん、法人・事業者側とも)などが、人材確保のポイントになりそうです。
今回は2022年度版の「介護労働実態調査」の内容について考えてきました。調査結果からは介護職の就労状況に関わる様々な問題を読み取れるので、介護業界に関わる人は、ぜひ一読することをお勧めします。