段ボール製ドローンで戦果!? ウ軍の高コスパ兵器は有望か幻想か 長所は「チープすぎること」

ウクライナ軍のドローンがロシアの飛行場を攻撃、使われた機体はなんと段ボール製でした。1機3000ドル程度、ホビー用ラジコン飛行機のような簡素なつくりだそうですが、なぜチープな兵器で攻撃を試みたのでしょうか。
オーストラリアの日刊紙「The Age」が2023年8月29日、「ウクライナ軍がオーストラリアの段ボール製ドローンで、約170km離れたロシアの飛行場を自爆攻撃(kamikaze drone attack)し、ロシア軍の戦闘機5機を攻撃した」と報じました。
ウクライナ国防省の関係者は「キエフポスト」の取材に対し、クルスク・ボストーチヌイ空港のSu-30戦闘機4機、MiG-29戦闘機1機に命中し、パンツィリ対空システム2機とS-300地対空ミサイルのレーダーにも損害を与えたとしました。ドローン16機が発進して、撃墜されたのは3機だったといいます。これが事実とすれば、安価な段ボールドローンがロシア軍の防空システムをかいくぐり、高価な戦闘機や対空システムに被害を与えるという最高のコスパを発揮したことになります。
段ボール製ドローンで戦果!? ウ軍の高コスパ兵器は有望か幻想…の画像はこちら >>ロシア空軍のMiG-29戦闘機(画像:ロシア国防省)。
この段ボール製ドローンは、オーストラリアのSYPAQ社が製作した「コルボ・プレシジョン・ペイロード・デリバリー・システム」(PPDS)と呼ばれるドローンです。オーストラリア陸軍の援助で開発され、2019年にトライアルが実施。2023年3月からはウクライナに供与が開始され、毎月100機以上が供給されているといわれます。
ペイロードによって自爆攻撃だけでなく偵察・監視、通信中継、物資輸送などにも使えるとされていますが、SYPAQ社はウクライナ軍での用途や今回の「戦果」についてもコメントしていません。
特徴は段ボールドローンといわれるように安価で取り扱い易いということです。出荷時は縦760mm×横510mm×厚さ45mmの平面板状(フラットパック)であり、容量を取らず大量輸送が可能。型紙から部材を切り抜いて機体を組み立てます。一般的な工具と接着剤を使って組み立てができ、専門的な知識は必要ありません。大きく機体胴体と翼の2つのパーツに分かれ、太いゴムで固定されるというホビー用ラジコン機のような構造です。
価格は1機3000ドル(約43万5000円)~3500ドル(約50万7000円)と、ホビー用ラジコン機よりは高めですが、軍用としては破格の安さです。
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『CORVO PPDS』のパンフレットに記載された機体仕様。
自律飛行が可能で、GPS誘導はもちろん、GPS妨害を受けても自律飛行用ソフトウェアが搭載されており、速度と方向からおおよその飛行位置を特定して飛行します。操作は誰でもできるようAndroid端末を使ったインターフェイスになっています。
翼長2m、ペイロードは3kg、巡航速度60km/h、ペイロードによりますが最大飛行時間1~3時間、最大飛距離が40~120km、手投げでもゴムカタパルドでも発進できるとされます。基本は使い捨てですが、エンジン・モーターや操縦系、サーボは回収して再利用できます。前述の記事では約170km先を攻撃したとされており、カタログデータと辻褄が合いませんがこの差異は不明です。
では、PPDSのようなチープな段ボールドローンが、警戒厳重なはずのロシアの飛行場まで侵入できたのはなぜでしょうか。それは「チープすぎる」ことが最大の要因だと考えられます。
機体の素材は段ボールと発泡ボードであり、レーダー波をあまり反射しませんのでステルス性に優れます。また、遅すぎてレーダーは航空機と認識できないようです。結局探知は目視や聴覚に頼るしかなく、対処は遅れます。
最新技術にローテクでチープな手段で対抗したことが功を奏した例はほかにもあります。太平洋戦争の際、旧日本海軍が運用した九三式中間練習機、別名「赤とんぼ」です。旧日本軍は練習機を目立つように橙色に塗装していましたので、九三式に限らず練習機はその見た目から「赤とんぼ」と呼ばれていました。
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「赤とんぼ」こと九三式中間練習機(作者不明Unknown author, Public domain, via Wikimedia Commons)。
太平洋戦争末期、敗色濃厚な日本は現代でも自爆攻撃の代名詞として使われるまでなっている「神風特別攻撃隊」を編成します。いわゆる特攻です。飛べる飛行機は枯渇しており、複葉羽布張りの「赤とんぼ」まで特攻に駆り出されます。
これに250kg爆弾を積めば飛ぶのもやっとという状態で、常識では戦果は期待できないはずですが、1945(昭和20)年7月、7機の「赤とんぼ」による夜間特攻で、アメリカ海軍の駆逐艦を1隻撃沈、1隻大破、2隻小破という戦果を挙げています。当時の特攻の命中率としては驚異的でした。
アメリカ海軍はその要因を以下のように分析しています。
・羽布張りの機体はレーダーに映りにくく探知距離が短い。・飛行速度150km/h程度の低速では、レーダー員が飛行機なのか何なのか判断に迷った。・発見が遅れ、接近されすぎて対処時間が短かった上、頼みだった対空砲火のVT信管が、通常の機体なら半径約30mで作動するところ、「赤とんぼ」では約9mでしか作動せず効果が薄かった。・20mm機関砲では、エンジンやタンクといった金属部分に命中しないと信管が作動せずに貫通してしまい効果が薄い。「赤とんぼ」は非常に機動性が高く、巧みに操縦されていた。
ゆえにアメリカ軍はその後、高速の新鋭機だけでなく、低速の固定脚複葉機にも警戒しなければならなくなります。
現代の北朝鮮では、特殊部隊が同じ理由で「An-2輸送機」を保有しているといわれます。An-2は1947(昭和22)年、当時のソ連で初飛行した固定脚複葉、星形レシプロエンジンという旧型機ですが、信頼性が高く21世紀でも多くの機体が現役です。
機体は木製やキャンバス張の部分が多く、レーダーに映りにくいという“長所”があります。50km/hでも飛行できるので、韓国軍の研究では、低空飛行されるとレーダーが検知しても自動車と判断されてしまうほど。北朝鮮特殊部隊が隠密裏に韓国内に空挺降下するのに使われることを恐れ、韓国軍やアメリカ陸軍もAn-2を研究用に保有している有様です。
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アメリカデラウエア州の航空機動博物館に展示されている、ソ連製のAn-2輸送機。NATOコードネームは「コルト(小馬)」(画像:アメリカ空軍)。
しかし、チープ兵器は意外性がありますが過大評価は禁物で、嫌がらせ以上の意味はないでしょう。ウクライナ軍にしても旧日本軍にしても北朝鮮軍にしても、劣勢下の苦し紛れの策としかいいようがありません。
2023年3月から毎月100機ペースで供給されたといわれるPPDSが、「戦果」として話題になったのは今回が初めてですし、そもそもペイロード3kg程度の爆弾でどれほどの被害を与えたのかはわかりません。前出の記事でも戦闘機に命中したとありますが、破壊したとまでは言及されていません。「赤とんぼ」の特攻なども、戦法と論ずるにも値しないでしょう。