アメリカで戦闘機とともに戦うコンセプトの無人航空機が実現しようとしています。ステルス性で劣るF-15の代わりにミサイルを放つというコンセプトで。輸送機は空中空母のようになる――空対空戦が一変しようとしています。
空対空戦の主役である戦闘機も、無人機を駆使する日が近づいているようです。2023年9月11日、アメリカの無人航空機メーカー、GA-ASI(ゼネラル・アトミクス・エアロノーティカル・システムズ)がDARPA(国防高等計画局)との間で、戦闘用無人航空機システム(UAS)「ロングショット」の第3フェーズ契約を締結したと発表しました。 ロングショットは有人航空機の前方に展開し、搭載する複数の空対空ミサイルで空対空戦闘を行うUASと定義されています。
F-15の代わりに戦ってきて!? 「戦闘機の分身」無人機まも…の画像はこちら >>アメリカ空軍のF-15C戦闘機(画像:アメリカ空軍)。
DARPAは2021年2月にロングショット計画を発表し、GA-ASIとロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマンの3社と予備設計を行う第1フェーズ契約を締結しました。DARPAは3社から提出された予備設計案を吟味した上で、GA-ASIと詳細設計と地上試験を行う第2フェーズ契約を締結していました。
第3フェーズでは無人航空機の実物大デモシステムの製造と飛行試験が計画されており、今後GA-ASIはその詳細設計と製造に着手、2024年から飛行試験を行う予定となっています。
DARPAはアメリカ国防総省の傘下機関ですが、DARPAの資金で企業や大学などが行う軍用技術の研究開発は必ずしも実用化を前提としていません。このためロングショットも現在の形のまま実用化される可能性は低いのですが、それにもかかわらずロングショットは多方面からの注目を集めています。
その理由の一つは、「第4世代戦闘機の生存性と既存の空対空ミサイルの作戦効果を高める」という、GA-ASIが発表したロングショットのコンセプトにあると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
F-15戦闘機を代表格とする第4世代戦闘機は、開発された時期(1960~70年代)にその効能が実証されていなかったため、F-22A戦闘機やF-35戦闘機のような第5世代に分類される戦闘機に比べるとステルス性能では見劣りがします。第5世代戦闘機に比べれば敵のレーダーに見つかりやすいステルス性能の低さは、第4世代戦闘機を現代の空戦で使いにくくしていました。
ロングショットが実用化された場合、どの程度のステルス性能を持つ無人航空機となるのかは未知数ですが、GA-ASIが発表したイメージCGを見る限り、高いステルス性能を持つ無人航空機のように見受けられます。
ステルス性能の高い、すなわち敵のレーダーに発見されにくいロングショットを前方に展開させ、敵のレーダーに発見されない間に搭載するミサイルで攻撃を行うことができれば、後方でロングショットを統率する第4世代戦闘機の生存性は大いに向上します。
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AIM-120「アムラーム」を発射するF-35(画像:アメリカ空軍)。
自由主義陣営諸国が運用する戦闘機に搭載される標準的な中射程空対空ミサイルAIM-120「アムラーム」(AIM-120C型)の最大射程は105km程度で、攻撃を行う場合は最低でも敵の105km以内まで近づき、レーダーで敵を補足する必要があります。
レーダーを装備したロングショットにAIM-120を搭載すれば、ロングショットを統御する第4世代戦闘機は距離105km以上から敵を攻撃することが可能になります。GA-ASIが言う「既存の空対空ミサイルの作戦効果を高める」は、AIM-120のような中射程空対空ミサイルを長射程空対空ミサイルとしても使える柔軟性を意味するものと考えられます。
アメリカ国防総省はロングショットが実用化された場合、戦闘機であればミサイルや爆弾を懸吊するパイロン、爆撃機であれば機内の爆弾倉にそれぞれ搭載される可能性が高いと述べています。
ロングショットが爆撃機の爆弾倉に搭載できるサイズで実用化されれば、開発が進められているB-21「レイダー」と、改修を加えて長期に渡って運用される予定のB-52H「ストラスフォートレス」の両爆撃機は、多数の空対空ミサイルを搭載して空対空戦闘にも使用できます。
アメリカ空軍はC-17ならびにC-130輸送機の貨物室から多数の「JASSM-ER」長射程空対空ミサイルを発射するシステム「ラピッド・ドラゴン」の開発を進めていますが、DARPAとGA-ASIはこれと似た方法論で、C-17やC-130の貨物室にロングショットを搭載し、空中発進したロングショットで敵の航空戦力と渡り合う、という運用方も検討しているようです。
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A400M輸送機からの発進も想定されている「リモートキャリア」(竹内 修撮影)。
こうなると、もはや“空中空母”といってもよい概念かもしれませんが、貨物機を戦闘用無人航空機の母機にするというアイデアは、アメリカの専売特許ではなくなっています。フランス、ドイツ、スペインの3か国が進めている将来航空戦闘システム「FCAS/SCAF」計画においても、A400M輸送機を有人戦闘機と行動を共にする戦闘用無人航空機「リモートキャリア」の母機として使用する構想が示されています。
輸送機のお尻(貨物ドア)から投下された戦闘用無人機が、敵の戦闘機をバシバシ撃墜していく光景を想像するのは、オールドファンの自分には血沸き肉躍るものではありませんが、味方の将兵の生命を極力失わないよう配慮しながら、限られた資産をフル活用して戦う現代の空軍にとって、ロングショットのような兵器システムはますます必要になっていくのかもしれません。