政府が推進する地域共生社会 孤立防止のために必要な支援とは

政府は「地域共生社会」という理念を掲げ、地域住民同士の助け合いを推進するべく、さまざまな施策を打ち出しています。介護業界で言えば、地域包括ケアシステムも地域共生社会の理念に基づいています。
その背景には、世帯構造や意識の変化による地域社会における孤立化という問題があります。
1世帯当たりの人員の推移を見ると、1990年には2.99人だったのに対し、2020年は2.21人まで減少。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年には1世帯当たり人員が2.08人まで減少するとされています。
一方、2人以下の世帯の割合は年々上昇。1990年には43.7%でしたが、2020年時点で64.1%を占めています。そのうち単独世帯は38%を占め、2040年に向けて60歳代の単独世帯が大きく増加すると見込まれています。
こうした単独世帯や高齢夫婦だけの世帯は、地域社会からの孤立が問題視されています。
NHK放送文化研究所は1970年代から「日本人の意識」のなかで、親族・近所・職場の3つの関係性について、「形式的つきあい」「部分的つきあい」「全面的つきあい」※のいずれが望ましいと考えるかを調査しています。
形式的つきあい:親族では「一応の礼儀をつくす程度のつきあい」、近所では「会ったときに、挨拶する程度のつきあい」、職場では「仕事に直接関係する範囲のつきあい」部分的つきあい:親族では「気軽に行き来できるようなつきあい」、近所では「あまり堅苦しくなく話し合えるようなつきあい」、職場では「仕事が終わってからも、話し合ったり遊んだりするつきあい」全面的つきあい:なにかにつけて相談したり、たすけ合えるようなつきあい
この調査によると、いずれの関係においても「全面的つきあい」を望ましいとする割合は大きく減少。その一方で、「形式的つきあい」を望ましいとする割合は増加しています。
例えば、近所との関係では、1973年時点で「全面的つきあい」は35%、「形式的つきあい」は15%でした。しかし2018年調査では「全面的つきあい」が19%に減少したのに対し、「形式的つきあい」は33%と、逆転現象が起きています。
このような変化によって、高齢単独世帯は、地域社会から孤立化するケースが多くなっていると考えられています。
このように、地域でのつながりが薄くなり、孤立化した高齢世帯が増えると、強い孤独感から精神疾患にかかったり、孤独死につながるケースもあります。
政府は、これらの問題を解決するには単に法律や制度を設けるのではなく、「その人を支えるために何が必要か」という視点が必要だとしています。
そこで世代や属性といった垣根を超えた「つながり・支え合い」の共同社会を構築することが大切だと訴えています。
厚生労働省が取り組みの方向性として示したのは、次の3つです。
ここでいう包括的な支援体制とは、これまで介護や障がい、生活困窮などと分野において分けられてきた支援窓口ではなく、各自治体で相談内容にかかわらず、幅広く受け止めることです。
また、アウトリーチとは相談や事案発生後に動くのではなく、積極的に支援が必要な人を見つけて、支援者が主体的にかかわっていくことを指します。
地域共生社会の実現のためには、自治体による主体的な施策を柱として、さまざまな関係機関が連携することが大切になります。
なかでも、包括的な支援体制の構築にいち早く動いたのが岡山県岡山市です。同市では、「どんな相談でもまずは受け止め、必要な支援につないでいく」ことを重視し、庁内のどこに相談があっても市全体で受け止めるワンストップ窓口の体制づくりに取り組んでいます。
これまでのように、相談窓口がそれぞれ分かれていると、本当に必要なサービスを届けられないケースが発生します。例えば、ある高齢者が認知症だと診断されて、介護の相談窓口を訪れたとしましょう。その相談者が生活に困窮しているため、就労継続に強い意欲があった場合、介護の窓口だけでなく、生活と就労支援も必要になります。
しかし、これまでは窓口をたらい回しにされ、さらにそれぞれの担当から個別的に支援を受けることになってしまいます。
そこで、同市では各相談支援機関の担当者が、相談者をどの関係機関につなぐべきか困らないように、分野ごとに相談機関を整理したうえで担当者名を明記し、役割を見える化。個人が抱える複合的な問題に対し、市全体で支援していく体制を構築しました。
さらに、2022年からは重層的支援体制事業を開始。包括的な相談支援に加え、訪問などを行うアウトリーチによる継続的な支援を行っています。
社会的な孤立や在宅介護などの問題を抱える人には、一時的な支援ではなく、長期間継続して支援する「伴走型支援」が有効だと考えられています。
ポイントとなるのは、課題を抱える人と支援者が継続的につながること。例えば、認知症を発症したばかりの人と、10年経過した人では状況が異なります。
断続的な支援では、そうした状況変化に対応するのが難しくなり、適切な支援につなげにくくなるのです。
継続的な支援を実現するために必要なのは、社会福祉法人やNPOなどの職員といった地域の支援者の確保。また、医療・介護・福祉の専門職による職種や分野を超えた連携が求められます。
今後は支援者の人材が不足すると見られており、専門職に学び直しの機会を設け、分野を超えて共通の基礎的な知識や素養を身につけられるような制度的な工夫も必要になるでしょう。
では、介護従事者は地域共生社会を実現するために、どのようなかかわりが求められるのでしょうか。
介護サービスの目的の一つに、利用者本人が可能な限り自立した生活が送れるように支援することが挙げられます。
例えば、ショートステイを利用しながら、在宅と施設入所の併用で支援するケースでは、利用者の在宅中の生活において、どのようなことに不便を感じ、何を本当に必要としているのかを知る必要があります。
また、認知症の方の場合は、本人の声にしっかりと耳を傾けることが大事になります。
例えば、本人ミーティングの実施。これは、認知症の本人が集まって自らの体験や希望、必要としていることを語り合う場を設けることです。
施設内でのレクやイベントとして本人ミーティングを活用し、認知症の方の視点から本当に必要な支援を考えるといった取り組みが求められています。
各自治体では、社会福祉協議会などが中心となって、各機関の連携が図られています。
藤枝市の認知症施策推進会議は、医師、地域包括支援センター、認知症の本人と家族、地域のお店や企業、民生委員等多様な立場で委員が構成されており、認知症の人が外出や社会参加を続けるための備えや必要な体制について検討を進めています。
その目的は、認知症の方でも地域での行事やイベントに参加できるように支援をすること。
このような場にも介護従事者が積極的に参画して連携力を深めていけば、さまざまな困りごとを抱えた高齢者の支援につなげることができます。
認知症をはじめとして、社会的に孤立することの多い高齢者の支援には、分野を超えた地域の連携が不可欠です。
近所との理解を深めるために、介護従事者もお祭りなどにも積極的に参加して、まずは支援者同士が「顔の見える付き合い」をすることが大切ではないでしょうか。