アゼルバイジャンとアルメニア「泥沼の100年抗争」 均衡を崩したウクライナ侵攻

2023年9月19日、アゼルバイジャンがアルメニアに対して攻撃を始めました。両国はなぜいがみ合っているのでしょうか。実はこの2か国のあいだには、日本ではあまり知られていない領土問題が横たわっているのです。
2023年9月19日、アゼルバイジャンは同国西部のナゴルノ・カラバフ地方で、アルメニア軍の攻撃に対する局地的な対テロ作戦を開始したと発表しました。同地方は、かねてからその帰属をめぐって両国間の火種となっており、今回も緊張が高まっていたと伝えられます。
アゼルバイジャンとアルメニア「泥沼の100年抗争」 均衡を崩…の画像はこちら >>アルメニア陸軍のT-72戦車(画像:アルメニア国防省)。
ナゴルノ・カラバフ地方は、南カフカスのさらに南部に位置しており、古くからその帰属をめぐってイスラム教徒のアゼルバイジャン人と、キリスト教徒のアルメニア人のあいだで紛争が続いてきました。しかし1920年代初頭にソ連(ソビエト連邦)が成立してアゼルバイジャンとアルメニアが連邦に属すると、ソ連の力で同地方は前者に組み込まれ、同地在住のアルメニア人によるナゴルノ・カラバフ自治領とされて表面上の平静が保たれるようになりました。
ところが1980年代末に冷戦が終結し、ソ連中央政府の威光が弱まって連邦の結束力が緩むと、アルメニア人はナゴルノ・カラバフ地方のアルメニアへの帰属を求めるようになります。そして1991年にソ連が崩壊すると、それと軌を一にするようにして、アゼルバイジャンとアルメニアは独立。同時期に、同地をめぐって両国は衝突し、ナゴルノ・カラバフ戦争が勃発しました。
この戦争は、ロシアの仲介でいったんは停戦したものの火種はくすぶり続け、2016年と2020年に両者間で再び紛争が起きています。そして現在、ナゴルノ・カラバフ地方は、国際社会の承認は得られていないものの、「アルツァフ共和国」として独立しています。
長引いている両国間の武力対立ですが、旧ソ連に属していた国だけに、どちらの国の軍隊も旧ソ連・ロシア系の装備を運用しています。たとえば戦車はT-72系列のものが多く、航空機もアゼルバイジャン空軍はMi-8やMi-17のようなヘリコプター、MiG-29戦闘機やSu-25攻撃機を保有しています。一方、アルメニア空軍は規模が小さく、わずかな機数のSu-30戦闘機やSu-25攻撃機を保有しているにすぎません。
このように、兵力面で比べるとアルメニアはアゼルバイジャンよりも劣勢です。しかしアルメニア軍将兵の士気はきわめて高く、兵力は多くとも将兵の戦意に欠けるアゼルバイジャン軍に何度も勝利。かなりの数量の戦車や装甲戦闘車両、火砲などをアゼルバイジャン軍から鹵獲(ろかく)していると伝えられています。両軍とも同じ旧ソ連・ロシア系の兵器なので、整備・調整のうえで再使用できるというのが強みになっているようです。
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アゼルバイジャンとアルメニアの位置関係。青い方がアゼルバイジャン、赤い方がアルメニア。
このような情勢下、2022年9月にロシアがウクライナへ侵攻を開始し、事実上の戦争が始まったことで、ナゴルノ・カラバフ地方の緊張はさらに高まりました。それまでロシアはアルメニア寄りの姿勢を示し、一方のアゼルバイジャンはトルコなどが支持する構図となっていました。ところがウクライナ侵攻が勃発したことで、ロシアはそれまでのようにはアルメニアを支持できなくなっていました。
これに不満を表明していたアルメニアは、なんと2023年9月11日から20日にかけて、アメリカとの合同軍事演習「イーグル・パートナー2023」を自国領内で実施しています。この事態を受けたロシアは、よりにもよってウクライナ戦争で対立しているアメリカと合同演習するとは、との思いで不快感を表明。
今回、こうした状況下に、アゼルバイジャンが対テロ作戦を開始したわけです。そして早くも20日の時点で、ロシアの仲介によりアルメニアとの停戦が成立しました。しかし紛争の根本的原因が解消されたわけではなく、継続中のウクライナ戦争との絡みもあり、アゼルバイジャンとアルメニアは、今後も武力衝突する危険性をはらんでいるといえるでしょう。
両国の動向を注意深く見守っていく必要がありそうです。