「発想を変えてほしい。子どもの教育資金は7つのポケットを活用すべき」と話すのは、ファイナンシャル・プランナーとして、5000名以上のクライアントに運用指南を行ってきた杉原隆さん。
「必要になる教育資金」と、「生前贈与」「相続」の関係について、杉原氏がわかりやすく解説します。
○■令和時代の「教育費」事情
年間出生数は既に100万人を割り、今は80万人の時代になりました。少子化の原因の一つは、お子さんの「教育資金を払っていけるか」という不安があるようです。国、民間企業のリサーチによれば、大学卒業までにかかる教育費(下宿代、住居費等は除く)は、一人あたり以下の金額のようです。
・幼稚園から大学まで「すべて公立」の場合は、約770万円。
・「幼稚園は私立、小学校・中学校は公立、高校・大学は私立」の場合は、約1280万円。
・幼稚園から大学まで「すべて私立」の場合は、約2230万円。
大学の文系・理系の違いや、塾通いや習い事の多少でかかる費用は異なりますが、概ねの目安です。
上述の「すべて私立」でかかる教育費は、一部上場企業の部長クラスの退職金に匹敵します。ご夫婦共働きが増えているとはいえ、過去30年間ほとんど賃金が上がっていない日本で、子どもを育てていく経済的な負担は想像以上のものです。
加えて、塾や予備校、幼児期から習い事、学業とは別に部活の部費や合宿費もかさみます。さらには「留学費用」にも目を向けなければならない時代です。
とはいえ、愛する子どもの教育資金は待ってはくれません。
どうしたらいいのでしょう。
今回は「少子化時代の教育資金の作り方」を考えたいと思います。
○■「教育資金」は7つのポケットから
日本の個人資産2000兆円の60%は60歳以上の方がお持ちですが、天国へのパスポートで所持品は限られています。個人資産を守るための対策を何もしなければ、国家累積債務・1200兆円の元利返済に充てられる「相続税」と化してしまうでしょう。
旅立ちの時、棺桶の中に「遺品」としてお札の束を入れたという人を聞いたことがありません。銀行口座やタンス預金に遺して逝ってしまうということは、それと同じことです。まして生前で認知症になってしまったら、銀行預金や証券会社へ預けているお金は凍結され、不動産の処分もできなくなってしまいます。
こういった個人資産の問題を、生きたお金(教育資金)に転化してほしいと思います。
具体的に述べていきます。
幼児期から大学卒業、その後の生涯教育まで人生を5つの期間に分け、それぞれの教育資金を誰が、どのようにつくっていけばよいか、簡単にまとめてみました。
まずは、幼児期。資金力からして、この時期は祖父母のポケットに依存し非課税の範囲内で生前贈与を行ってもらうことにしましょう。ここで利用できるポケットは4つ。ご自身のご両親、配偶者のご両親のポケットです。
次に、義務教育期間。小中高の授業料は既に無償化されている自治体が多く、公のポケットを利用しましょう。習い事や部活費用、通学費用等は家庭(父母)のポケットから出してください。
そして金額も大きくなる大学や留学の費用は、家庭のポケットではなく、ここも幼児期同様に祖父母のの4つのポケットから出してもらいましょう。幼児期に生前贈与で資産移転して頂いた現金を、10~20年間運用してお金を育て、少なくとも元金を2倍に、できれば3倍に増やす努力が必要です。少しだけ金融リテラシーを高めれば、不可能なことではないと思います。
最後に、社会に出てからが本当の「教育」と言われるようになり、リスキリングや学び直しは、祖父母、ご両親のおかげで質の高い教育を受け、稼ぐ力も身に着けたお子さん自身のポケットから資金を捻出します。
○■三世代が笑顔になる教育資金の育て方
ご両親(祖父母)にそんなに頼れない。そういう方もいるでしょう。
一方で、こんな見方はできないでしょうか。
現金はなくても、家と土地はある。住宅ローンも完済していて、銀行の担保も外れていいて安心。この不動産は子どもへそのまま譲ることができる。60代以上の方に多い安堵の状況です。
さて、相続が発生した時、ほんとうに思い通りになるでしょうか?
子どもたちは、親になりそれぞれ自分で戸建てやマンションを購入し居を構え、相続で譲り受けてもそこには住まない。現金のように分割できない不動産の名義だけもらっても、いずれ兄弟姉妹で争いの種になる。空き家になってしまったら、その後も固定資産税を遺族が払い続けなければならず、「空き家税制」でその負担は割増しとなってしまう。
こういったことは数多く発生しています。
であれば、銀行担保を外れた土地に改めて担保設定し、金融機関から借り入れした現金(「リバースモーゲージ」※という制度)をお孫さんの教育資金として、生前贈与で資金移転していきましょう。
天国へ逝った後、ご遺族は不動産を売却して借入元金を返済します。残額の「現金」は法定相続人へ案分します(相続時の課税資産を減少させ、納税額は減少します) 。
お孫さんは、法廷相続人には当たりません。したがって、法定相続人の「もち戻し」※の対象外となります。
この方法は、お孫さんの教育資金を援助することができ、同時に親族間の揉めごとのリスクをあらかじめ取り除きます。
※リバースモーゲージ:自宅を担保に資金を借入れし、自らの持ち家に継続して住み続け、借入人が死亡したときに担保となっていた不動産を処分し、借入金を返済する仕組み。
※もち戻し:相続開始前3年以内に贈与されたものは、相続財産として戻して相続税を計算することになります。ただし、法定相続人以外は「もち戻し」の対象外となります。2023年の税制大綱では、この期間が7年間に延長されます(2024年1月から施行予定)。
ご家庭では、「義務教育期間」と「高校の授業料」は公のポケットが使えるにしても、それ以外の教育資金は自前で準備しなければなりません。
教育資金は、かならず発生する「相続」を見据えながら、祖父母、父母、子ども「三世代」で準備し、「生前贈与」という国が残してくれている優遇税制を活用しましょう。
資産の大きさも、子どもの人数、かかる教育資金も各ご家庭でそれぞれ異なります。「我が家では無理」と諦める前に、「仕組み」だけでも一度考えてみてほしいと思います。
文/杉原隆
杉原隆 すぎはらたかし ファイナンシャルプランナー(FP)。大学卒業後、商社にて海外事業開発や食糧貿易に従事後、生命保険の事業に参画。生命保険業界の世界的組織「MDRT(Million Dollar Round Table)」の終身会員。国際委員時代には、シカゴで開催された「Leadership Symposium」に世界の100人として招聘される。 国内に留まらず世界各地に散籍する駐在員に対し、資産運用や分散対策をアドバイス。各地の医師会、歯科医師会等で医療機関経営や事業承継、争族予防で講演多数、延べ人数は5000名超。金融最前線で20有余年の様々な経験値から法人、個人を問わず、個別コンサルティングは好評。ライフワークとして「医業経営をご支援し、間接的に地域の医療過疎を防ぐ活動」に取り組んでいる。
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