「防災」と「eスポーツ」をテーマにSDGsを学ぶ – 石川県珠洲市で「SDGs合同学習会」を開催

石川県珠洲市内の小学生を対象とした「SDGs合同学習会」が、9月15日にラポルトすず(多目的ホール)にて開催され、「防災」や「eスポーツ」をテーマにしたSDGsに関する授業が行われた。

「SDGs未来都市」に選定されている珠洲市において、市全体のSDGs学習を充実させることを目的に開催される「SDGs合同学習会」。珠洲市教育委が主催、能登SDGsラボが運営、アステナホールディングスの協力の下、令和4年度より開催されることになったと話すのは、珠洲市教育委員会事務局 参事兼次長の太佐真一郎氏。

「市内の小学校の全中学年、全高学年による合同学習の開催により、市全体のSDGs学習を充実させる」と力を入れ、さらに今回の合同学習会に協力するNTT西日本にも感謝の念を送った。
○■「防災」と「eスポーツ」をテーマにSDGsを考える

今回の「SDGs合同学習会」は、二部構成となっており、第一部は小学3・4年生、第二部には小学5・6年生が参加。それぞれおよそ1時間30分の授業に熱心に取り組んだ。

まず授業では、NTT西日本 北陸支店 地域活性化推進室の鎧塚典子氏が登壇。「電話の会社として始まり、今は技術が発展して、ICTで人々をつなぐ会社」と、NTT西日本の会社概要を紹介する。

そして、「ICT」について、小学生にもわかりやすいように説明。地域のスマート化に向けて、同社が提示するICTソリューション「Smart10x」より、スマートインフラ・エネルギーから「防災」、スマートライフから「eスポーツ」といった、今回の「SDGs合同学習会」におけるテーマを紹介した。

続く「防災」に関する授業では、ほくりくアイドル部のキャプテンを務める松井祐香里さんが登壇。アイドル活動とは別に、防災士の資格を取得する松井さんならではの視点で、小学生たちに「防災」の大切さを説明していく。

「もしも災害が起こったときに備えておくこと」として、「大事な人と連絡方法を決めておく」「自宅近くの避難所を確認しておく」などの例を挙げつつ、安否情報を確認できる災害用伝言サービス「171」を紹介。

そして、参加する小学生たちを2~3人のグループに分けて、防災に関するクイズを出題。シンキングタイム中には舞台上から降りて、子供たちに声を掛けながらコミュニケーションを楽しむ。今回のクイズは、大人でも即答できないような難問もあったが、次々と答えていく子供たちに驚きの声を上げていた。

続いて行われた「eスポーツ」の授業では、NTT西日本の社員としてだけではなく、eスポーツ選手、YouTuber、教職者といった多彩な顔を持つ、NTT西日本 イノベーション戦略室 ソーシャルプロデューサー/福岡eスポーツ協会会長の中島賢一氏が登壇。ユーモアを交えた自己紹介で、小学生たちの興味を惹きつけながら、「eスポーツ」の魅力を紹介していく。

そして、「eスポーツのお仕事をみんなで考えてみよう」のテーマでは、子供たち同士での話し合いの時間を確保。ただ知識を伝えるだけではなく、小学生たちにも一緒に考えてもらう“参加型”の授業形式で、小学生たちの参加意欲を高めていく。そして結果発表では、ひとつひとつの発言にしっかりと耳を傾けながら、想像を超えた回答の数々に称賛の言葉を送っていた。

さらに、eスポーツとSDGsの関連については「町を元気にするeスポーツ」「心を元気にするeスポーツ」などの例を挙げて解説。「eスポーツで珠洲を元気にする、そして自分が毎日楽しくなるということを、遊ぶだけではなくて、少し考えてみてください」と語りかけ、授業を締めくくった。
○■授業を終えた講師陣のコメント

授業を終えて、開口一番「すごく楽しかったです!」と満足げな表情を浮かべる、ほくりくアイドル部の松井祐香里さん。「小学生の皆さんが本当に元気で、私もパワーをいただきました」と話す。

講師の話をもらったときには「うれしい! やりたい! と即答しました」という松井さん。「保育士を目指したこともあるぐらい、子供たちと触れ合うのが大好き」とのことだが、実際に授業を行ってみて、珠洲市の子供たちの防災意識の高さに驚き、「今日、家に帰ってから、家族と防災についてあらためて話をしてくれたら」と目を輝かせる。

そして「今日出会った子どもたちの中のひとりくらいが、ほくりくアイドル部のオーディションを受けに来てくれたら最高だと思います」と笑顔を見せた。

一方、「子供たちは、大人が思うよりもクリエティブなんです」と話す、NTT西日本 イノベーション戦略室 ソーシャルプロデューサー/福岡eスポーツ協会会長の中島賢一氏。「eスポーツは楽しさをフックに、難しい問題を意外と簡単に読み解きながら考えることができる」とeスポーツの魅力に触れ、「子供たちの創造性を引き出すために、eスポーツを題材にするのは、SDGsを知ってもらう上でも有効」との見解を示した。

2018年より、SDGsの文脈でeスポーツと関わってきた中島氏は「ようやく世間の人たちも、SDGs文脈でeスポーツを捉えることに理解を示すようになってきた」ことに感慨深さを感じるという。

「今後は、eスポーツが生活の中に当たり前にある文化に広げて行きたいと思っています」(中島氏)

そして「娯楽から文化になれば、親子間のコミュニケーションや地域活性化にも活用できる」との期待を込めつつ、「SNSのようなコミュニケーションツールとして、eスポーツを広げていければうれしい」と今後の展望を示した。

○■珠洲に拠点を移し地域課題の解決に取り組む

珠洲市の「SDGs合同学習会」に携わるアステナホールディングスは、2021年に東京・日本橋にあった本社機能の一部を珠洲市に移転。珠洲を拠点に様々な活動を展開している。珠洲市は、本州の中でも人口減少率がトップレベルの自治体で、「ここで何かしらの新しい課題解決ができる仕組みを作ることができれば、別の地域にも転用できるのではないか」と話す、アステナホールディングスの五月女将悟氏。

「我が社は大正時代に会社ができて、100年になるのですが、新しい100年の基盤になる事業としても、珠洲市の課題解決に取り組んでいこうと考えています」(五月女氏)

「珠洲市の学生さんたちはすごく地元が大好きなんですよ」という五月女氏。しかし、仕事がない、都会にあるものが全然ないという珠洲市の現状に、東京や金沢などの都市部へ移住する人が多い中、アステナホールディングスでは一貫して、地元に愛着を持ってもらうための取り組みを行っており、今回の「SDGs合同学習会」もその一環であるという。

「あくまでもメインは教育委員会さんで、我々はそのバックアップというスタンスですが、少しでも珠洲市に対しての愛着形成のひとつのきっかけになればと考えています」(五月女氏)

アステナホールディングスとしては、今後も小・中学校でさらに愛着形成を作れるようなプロジェクトを「SDGs合同学習会」以外でも展開予定。現在、高校生のアントレプレナーシップ教育も実施しており、同プロジェクトから実際に起業した実績も生まれている。「今後は、その人数、母数をもっと増やしていきたいと思っています」。
○■子供たちにSDGsやICTを直接伝える機会

NTT西日本が、昨年より「SDGs合同学習会」のサポートを行うことになった経緯について、「アステナホールディングスさんと珠洲の地域活性化について連携させていただいている中でお声がけいただいた」と話す、NTT西日本 北陸支店 地域活性化推進室 室長の沢本佳久氏。SDGsやICTについて、子供たちと直接ふれあい、伝える機会としても非常にありがたかったと振り返る。

今回の「SDGs合同学習会」において、「防災」と「eスポーツ」をテーマに選んだ理由については、「珠洲は地震が多い地域なので、防災意識が高い土地であるというのがひとつ。そして、子供たちに楽しんで授業を受けてもらうためにはeスポーツのような話題がふさわしいのではないかと思いました」と話す。

昨年の「SDGs合同学習会」では、NTT西日本の社員が、脱炭素やエコに関する同社の取り組みを紹介したとのことで、「参加する小学生たちがほとんど同じメンバーなので、テーマ自体はガラッと変えようと思っていました。そのうえで、私達がお話するとどうしても会社紹介みたいになってしまうので、今回は外部の方にもお願いして、もっとわかりやすく、楽しくをめざしました」。

小学生たちにとって身近なテーマや課題を通じて、SDGsを身近なものだと感じ、理解を深めてほしいという意図通り、今回の授業は「盛り上がりが全然違った」と手応えを感じる沢本氏は、「お声がけいただければ、来年もぜひサポートさせていただきたいですし、珠洲以外の地域でも同じようなことができれば」と今後へのさらなる意欲を見せた。

「弊社としても、小学生の皆さんと直接お話できる貴重な機会なので、皆さんにとっても特別な時間になってほしいと思っています。普段会うことのできない各界で活躍されている方を講師に招いて、ICTやデジタルについてSDGsに絡めてお話いただくことで、少しでもICTに興味を持っていただければ嬉しいです」(沢本氏)

糸井一臣 この著者の記事一覧はこちら