介護職のテレワークは可能か!? 議論が進む “柔軟な働き方”とは

厚生労働省では、2024年に控える介護報酬改定に向け、さまざまな制度改正の議論が行われています。
議題の一つに挙げられているのが、柔軟な働き方。フレックスタイム制や時短勤務などを導入している施設はありますが、介護業界ではテレワーク化がなかなか進んでいません。そこで、介護施設・事業所の管理者や専門職などのテレワークを推進するかどうか検討されているのです。
この議論は2023年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」にも盛り込まれており、実現の可能性は高いと考えられます。
背景にあるのは、介護人材の有効活用です。介護現場で人材不足が叫ばれるなか、限られた人員で業務を遂行しなければならないため、効率化の必要性に迫られているからです。
手始めに着手されると見られるのが、事業所の管理者や施設長。現在、介護事業所には管理者にかかわる人員配置基準が厳格に定められているので、基本的に管理者の兼務は認められていません。
そこで、こうした人材配置基準を緩和して、経営能力を持つ限られた人材が複数の事業所を効率的に運営できるような制度改正について議論が進められています。
政府は人材不足を招いている少子高齢化対策を打ち出していますが、その効果がすぐに出るわけではありません。中期的には、ほぼ確実に介護サービスに携わる人材が減少すると見込まれています。
さらに、育児・介護を理由にフルタイムでの勤務が困難な労働者が増加傾向にあることも踏まえ、「非常勤あるいは兼任でもサービスの質には問題が生じないのではないか」という議論が起こっています。特に一定以上の技能を持った人材は、地域で“共有”することで、より効率的に質の高いサービスを提供できるのではないかという指摘もあります。
例えば、医療行為を行うことができる特定看護師は、一定の研修期間を経る必要があるため、人材の絶対数が限られています。重度化した利用者の多い特養などでは、医療行為を行う必要があるので、なかなか常駐できない医師に代わって特定看護師が欠かせません。
しかし、こうした特定技能を持つ人材に対して、人員配置基準で常勤を定めてしまうと地域内のほかの施設で勤務できなくなります。そのため、複数の施設内で勤務可能な“柔軟な働き方”が提案されているのです。
介護業界は、テレワークに不向きだと言われています。医療現場と同様に、利用者に直接介護行為をしなければならないからです。
実際に国土交通省の「令和4年度テレワーク人口実態調査」によると、介護サービス職を含むサービス職のテレワーク普及率は20.1%と平均(約26%)を下回っています。最多とは研究職(64.5%)とは大きな開きがあります。
しかし、介護現場でもテレワークを導入する可能性はあります。例えば、次のような「間接業務」は必ずしも現場で行う必要がありません。
※市区町村などの保険者に介護報酬を請求する業務
こうした間接業務は管理者やケアマネージャーが担うことが多いため、今回の議論でも管理者などから導入を進めていこうとしているのではないでしょうか。
一方、今回の議論では、人員配置基準の緩和によって労働環境が悪化するリスクが懸念されています。
人手不足の中で(専門職などの)兼務を進めていくと、管理者が現場にいないことが多くなり、職員の負担が増えたり、利用者の安全やサービスの質に影響する可能性があると指摘。
そのほか、兼務が常態化すると、特定の専門職などに業務が集中し、有給休暇などを取得しづらくなったり、業務過多になる可能性もあります。そうなれば結果的に離職につながるかもしれません。
確かに、特定技能を持つ人材はそもそも絶対数が少ないので、必然的に施設や事業所からのニーズが高くなります。そのため地域内で多数の施設を受け持たなくてはならないような状況になる可能性も否めません。
また、実際にテレワークを導入した一般企業の中には、人材育成に課題があるという声も挙がっています。
介護の若手人材は、初期における研修が定着率に影響を与えるという研究報告もあるため、仮に管理者があまり現場にいないような状況で労働環境が悪化した場合、人材の定着率に悪影響を及ぼすリスクも検討する必要があるでしょう。
厚生労働省は、「介護事業所等の管理者は、事業所の管理上支障が生じない範囲内において、テレワークを行うことが可能だ」という見解を示しています。
ただし、それぞれの管理に支障が生じない範囲内であること、利用者やその家族からの相談対応なども含め、利用者に対するサービスの提供や提供されるサービスの質などに影響が生じないようにすることなどの条件をつけています。
例えば、利用者や従業者と管理者の間で適切に連絡が取れる体制を確保することを一つに挙げました。そのためにはSNSなどを活用したコミュニケーションツールなどの導入が考えられます。
また、事故発生時などの緊急時の対応の流れなどをマニュアル化するなどの準備が必要だと言及しています。
コロナ禍において、一般企業を中心に普及したテレワーク。実際に導入した企業アンケートなどで、そのメリットや課題も見えてきています。そのなかで問題視されているのはコミュニケーションです。
例えば、新人が仕事上で何か悩みを抱えたとき、オンラインだけでは相談しづらく、かえって精神的な負担になることもあるといいます。
介護現場では職員が協力して利用者の直接介護にあたるため、こうした心配はないかもしれないが、仮に管理職がほとんど現場にいないような状況になったとき、職員の不満や負担が把握しづらくなるかもしれません。
そこで、管理者の下でミドルマネジメントを行う人材と管理者との連携を今よりも密にするなどの対策が必要になるでしょう。
まずはコミュニケーションツールの導入など、簡単なことから始めてみて、課題を見つけることが大切です。完全なテレワーク化は困難だとしても、貴重な人材を活用し、育成していくためにも試行錯誤を繰り返すことは大切な試みではないでしょうか。