ある日突然、自分だけ割引クーポンが届かなくなった… そんな悲劇の経済学的「裏事情」

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「あれ? おとうさんにも15%オフクーポンが届いているでしょ?」
「え? 届いていないけど」
恐れていたことが始まっているようです。いつも安く買い物をするために通っていた近所のドラッグストアなのですが、うちの家族に届くはずの割引クーポンが、ある日を境にわたしにだけは届かなくなりました。
わたしの本職は経営戦略コンサルタントなので、このことが意味することを知識としては知っていました。収益性の低い顧客をITがはじき出し始めているのです。
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最初のきっかけはコロナ禍だったと記憶しているのですが、近所にある全国チェーンのドラッグストアが毎日のように15%オフのクーポンを配るようになりました。最初はチラシのクーポンを配っていたのですが、やがてスマホアプリでもクーポンの配布が始まりました。
コロナ禍で暇だったこともあり、ちょうど職場からの帰り道の途中にあるドラッグストアに毎日の習慣として立ち寄り、何らかの日用品を買うようになりました。今日はティッシュペーパー、明日はインスタント麺という感じです。
そのクーポンは、購入する商品の中から単価が一番高いものを一品だけ15%オフにしてくれるクーポンです。レジに並ぶとわたし以外の大半のお客さんはカゴに数点の商品を入れています。しかしわたしだけは違って、毎日ひとつだけ商品を手にレジに並びます。
これはある意味賢い買い物の仕方で、日々の積み重ねになりますが、そのお店で購入するすべての買い物が15%オフになります。その日のクーポンで購入するものは一品だけと決めておいて、他に欲しいものがあれば次の日に買えばいいのです。
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こうしてわたしは近所の誰よりも賢い買い物をするようになりました。しかしお店から見るとこの行動の見え方は逆です。わたしはそのお店にとって、近所の誰よりも儲からないお客さんになっていたのです。
さて、スマホで配布されるクーポン券はみなさんにとってもお馴染の仕組みだと思います。この仕組みには裏側があって、みなさんの会員情報と購買履歴を巨大なITシステムが管理をしながら、お店を儲けさせてくれる常連顧客を日夜チェックしています。
会員の顧客がどのようなキャンペーンに反応するかをITシステムは毎日試しています。お得なキャンペーンに惹かれて来店してくれて、それでたくさん買い物をしてくれる顧客が見つかればお店にとって成功です。そういう顧客にはコンピュータ上で「よい顧客」というフラグがたちます。
一方でいつも激安商品だけを買うお客さんがいたとします。お店としては集客の目玉商品にしている特売品なので、その商品だけを買って帰られると儲かりません。そういった目玉商品を15%オフで購入したりする人はなおさらです。
そこで最新のシステムはそういう顧客を見つけて「よくない顧客」というフラグを立てます。お店としてはあまりそういう顧客には来てほしくない。そのためにどうすればいいかというと、そういった顧客にはお得なクーポンの送付を停止すればいいのです。
企業にアドバイスする側だったので知識としては当然、こういう仕組みだと知っていたのですが、うっかり自分がその判定に引っかかってしまったようです。もうこのお店からお得なクーポンが届くことはないかもしれません。
教訓としては「お互いがウィンウィンになる関係でなければ、一方的にお得な状況はいつか破たんするものだ」ということでしょう。まさか自分がと思っていたのですが、これから先、AIの性能が上がれば上がるほど、皆さんにもこういった経験がある日突然訪れるかもしれません。怖い話ですね。

Sirabeeでは、戦略コンサルタントの鈴木貴博(すずきたかひろ)さんの連載コラム【得する経済学】を公開しています。街角で見かけるお得な商品が「なぜお得なのか?」を毎回経済理論で解説する連載です。
今週は「突如届かなくなった割引クーポン」をテーマにお届けしました。