ビジネスに加え、家族関係の改善や介護にも活かせる!?「心理的安全性」実践のススメ

近年ビジネスの文脈での頻出キーワード「心理的安全性」。地位や経験に関わらず、誰もが意見を言い合える環境を作り上げ、組織を前進させるために重要な概念だ。この心理的安全性を、日本人にフィットする形で実践できるよう尽力してきたのが、石井遼介氏だ。2020年出版の著書『心理的安全性のつくりかた』、2022年出版の監修書『心理的安全性をつくる言葉55』は、合わせて20万部を突破。名だたる有名企業からコンサルティングや役員研修・トップ対談を依頼される石井氏に、身近なところから心理的安全性を取り入れる方法や、介護への応用について伺った。
みんなの介護 心理的安全性というワードを最近頻繁に聞くようになってきました。なぜ、これほど広がったのか、伝道師ともいえる石井さんはどうお考えですか?
石井 変化が激しい環境の中で、組織・チームで成果を出す重要性がこれまでになく高まっています。急速に広まった理由は「そのための協業の土台となるのが心理的安全性」であることが広く理解され始めたからだと思っています。
具体的には、心理的安全性が高い組織では「誰もが率直に意見を言い合える」環境や、「どんな疑問も聞き合える」環境が保たれています。自由闊達な議論が出来ることに加え、「叱責されるかもしれない……」と考え、言い出すのを躊躇ってしまうようなネガティブな情報も速やかに共有される環境をつくることで、組織運営の健全化も期待できます。
みんなの介護 「忖度」が多い日本にこそ必要な概念ですよね。石井さんのご著書が出版された2020年に比べると、人々の受け止めは3年間でどう変化しましたか?
以前は「心理的安全性」とは何かという、WHATを知りたいという声が多かったのですが、最近はどんなふうに心理的安全性に取り組めばよいか「実践」を求める人が増えました。さらに一歩進めて、サーベイや対話、複数の研修やプロジェクトを組み合わせて大組織の全体を変える「伴走型支援」のご要望も増えてきています。
会社全体で取り組む企業のケースでは例えば、社員数1万人を超える複数の上場企業で、社長や取締役との対談を、管理職や全社員に配信することで、トップから心理的安全性に取り組む後押しを行っています。また、世界的に有名な日系製造業では、全世界の社員の心理的安全性への取り組みを推進するため、私の講演に英語字幕をつけ「輸出」しているケースもありました。
また、当社ZENTechでは、2022年から心理的安全性に取り組む企業や団体を表彰する「心理的安全性アワード」を行っています。ビジネスの世界をこえて、介護福祉施設等も保有する医療法人や、学校法人、NPO法人などにも参加頂いていて、改めて広がりに驚いています。
みんなの介護 老人ホーム検索サイト「みんなの介護」にも、心理的安全性についての質問が寄せられます。例えば、介護現場にお勤めのエッセンシャルワーカーの方からは直球で「介護現場で心理的安全性を高めるにはどうしたら良いですか?」という質問も来ます。
石井 確かに、介護の現場は様々な方への配慮が必要で、一筋縄ではいかないですよね。心理的安全性は、実は「チーム単位」で考えるとうまくいきやすいんです。いつも一緒に働く数人のメンバーとの心理的安全性から、まずは目を向けてみるとよいと思います。
気付いたことを、お互いに気兼ねなく指摘できるのが心理的安全性の高い状態です。この指摘がお互いに言いやすい状態になるためには「同僚や先輩・後輩を責めるため」ではなく「同僚・先輩・後輩とともに、利用者さんにより良い介護を届ける」という目的を置くことが大事です。
チームの中で、誰かが厳しく責められていたら、多くの人は自分が責められないように守りに入ったり、余計なことを言わないようになったりしてしまいます。
何より、介護施設の職員さんは、一人ひとり状態の違う利用者さんに関わる、マニュアルには落とし込みきれない、難しい仕事をされています。だからこそ、職員さん一人ひとりの気付きが共有され、チームとして助け合い、対応しあえることが大切です。
みんなの介護 残念ながら、ニュースで施設内での事件が報じられることもあります。心理的安全性が保たれていれば、変わったのかもしれませんね。
石井 もし、ある介護施設で心理的安全性が低かったとすると、何かに気付いて報告しても、「あなたはそれを解決したの?」と問い詰められたりするでしょう。せっかく気付いても、まるで叱責されたように感じれば、職員は報告を避けるようになります。
そして、管理職側は、その構造に気付かず「なんでみんな放っておくんだ」と感じる。そして、また部下を責めはじめる……。このような負の連鎖に陥ってしまいます。
「言わない」のではなく「言いたくても、言えない」状態が続くと、誰もが「危険だ」と思っていることが状態化し放置されたり、誰かがひとこと「そのような対応はやめるように」といえば止まるような不適切な対応が、止まらないままエスカレートしてしまい、知らぬ間に火種が広がっていき、手を付けられなくなってしまうのです。
このような負の連鎖に陥らないためには「気付いたことを言ったら喜ばれるんだ」と思えるようにすること。言ってくれた人に感謝した上で問題解決に向かう姿勢が大切です。
まずはあなたから「丁寧につたえ、しっかりと聴いて、相手の話を受け止め歓迎する」ことで、法人や施設全体は急には難しくとも、まずはあなたの周囲のチームの心理的安全性がつくられていきます。
みんなの介護 家族で在宅介護をされている方の場合はどうでしょうか?
石井 その場合は、施設よりも心理的安全性を高めるのが難しいでしょうね。もう少し具体的なケースを教えて頂けますか。
みんなの介護 例えば、認知症の方と同居して介護をされている方のケースです。年末年始など同居していない兄弟や親戚が集まった時には、認知症の症状を全然感じさせない振る舞いをされることがあって、同居していない方々に介護の大変さを理解してもらえないことがあります。
また、病状の深刻さを理解しない状態で介護方針へ意見を持たれることもあるため、施設側も無関係ではいられません。
石井 そうですね、家族と言っても、同居して介護をしている当事者の方と、遠方にお住いの兄弟姉妹の方では全く温度感が違いますよね。
それでも、伝えることを諦めないことです。
「どうせ、理解してもらえないんじゃないか」と思って、最初から伝えることを諦めてしまう方もいらっしゃいます。諦めずに伝える方法をお伝えしたいと思います。
みんなの介護 どうすれば良いのか、誰でも実践できる最初の一歩を教えて頂けませんか?
石井 最も大切なのは「共通の目的を持つ」ことです。例えば職員の方なら「利用者さんが安心して過ごせる施設にする」、在宅介護中の方なら「本人も家族も無理なく暮らしていける」というような、関係者全員が共感できる目的を持つことが大切です。
決して、最初から愚痴大会や、負担の押し付け合いの会議にするのではなく、関わる私たちが何を大切にしたいかを話し合うのです。
みんなの介護 目的を共有する、というわけですね。
石井 そのとおりです。目的を明確にした上で、「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」の実践をおすすめします。
みんなの介護 「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」、具体的にはどんな言葉でしょうか?
石井 「きっかけ言葉」は「〇〇してください」と依頼すること。漠然と「良い感じにしておいて」と言うのではなく、「ここはこうしてほしい」と具体的に意図を伝えることです。
「なんとかしてー!」と言われてしまうと拒絶したくなるものも、「このために、これだけでいいから、まずこうして、次にこうしてもらえる?」と具体的な意図と行動をセットで伝えることで、わかりやすくなります。依頼する行動は、相手のレベルや習熟度に応じて、ちょうどよいレベル感を選びましょう。
「おかえし言葉」は「〇〇してくれてありがとう」のように、相手の行動や結果を受け止める言葉です。例えば承認や感謝を伝えること。もう少し踏み込んでいえば、行動した人が「やって良かった。またやろう」と思えるような言葉を言います。
「きっかけ言葉」で行動を促して「おかえし言葉」で受け止める。大切なのは、相手が「動きたい」と思える言葉をかけられているかどうかです。
みんなの介護 職場だけではなくて家庭においても使えますか?
石井 もちろん、家庭でも使えますよ。ただ、家族同士だと気恥ずかしかったり、妙な心理的な壁があったりして、意外と難しいかもしれませんね。「この記事を読んで、きちんとお礼を伝えることにしたんだ」なんて、最初に伝えておくと始めやすいです。
問題解決や気の利いたコメントをしようとしたり、「自分の方が苦労をしている!」と張り合ったりするかわりに、たった一言「大変だったね」と相手を受け止める「おかえし言葉」を伝えて頂くと、ご家庭の心理的安全性は飛躍的に高まります。
みんなの介護 ちなみに、石井さんご自身が使われる「おかえし言葉」のバリエーションがあったら教えていただけますか?
石井 「〇〇してくれてありがとう」というように、理由とセットで感謝を伝えるようにしています。これって、小手先のありがとうテクニックのようで、実際にやろうとしてみると意外と難しいんですよ。相手がしてくれたことや、相手の状況をよく見ていないと、理由ってつけられないですから。これを実践することで「人のことをよく見るようになる」副産物もあります。
みんなの介護 相手もそんな温かい言葉をかけてもらえると嬉しいですよね。「きっかけ言葉」や「おかえし言葉」の有効性は、科学的にも裏付けられているのでしょうか?
石井 実は認知行動療法等にも応用されている「行動分析学」の知見に基づいて、シンプルに整理したのが「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」なんです。行動分析学には「きっかけ→行動→みかえり」で人々の行動を分析します。“きっかけ”があるから“行動”し“行動”したあとの“みかえり”が次の行動に影響を与えるというものです。
このときの“みかえり”が本人にとって幸せを感じられるものであれば、「またやろう」と思えますよね。しかし、がっかりするような“みかえり”であれば、「次はやめよう」と行動が減ってしまいます。
ちなみに、企業のリーダーや管理職の中には「きっかけ言葉」で依頼はするけど「おかえし言葉」は不十分という方が割といらっしゃるのですよね。自身の使っている言葉のバランスを振り返って見るだけでも、学びがあるものです。
みんなの介護 シンプルな中にも理論があるのですね。もし相手がやってくれたことが良い結果にならなかった場合はどうしたらいいでしょうか。
石井 その場合も「おかえし言葉」で受け止めた上で、リクエストをします。例えば、作成してくれた資料が不十分だった場合「資料を作ってくれてありがとう。この観点を入れて修正をお願いしても良い?」などのようにです。
あるいは、挑戦したけれども失敗やミスの報告をしてくれた時は「教えてくれてありがとう。一緒に確認してみようか」のようにです。
みんなの介護 仕事でも介護でもトラブルはつきものですよね。どうすれば良いでしょうか?
石井 例えば、トラブルが起こったときには「報告ありがとう。課題が分かって良かった、と割り切って考えよう」のように冷静な「おかえし言葉」で受け止めることを習慣化する。その上で、「じゃあ、こうしよう」と「きっかけ言葉」を相手に掛けるのが良いでしょうね。
私たちは“やらかした人”を詰めがちですが、詰めたところで問題はなくなりません。“やらかした”本人もどうしたらいいか分からず、困っているわけですから。
また、ミスが起きた場合、手順やプロセス、仕組みの問題であることも多いものです。重要なのは人を責めることではなく、何がどうなって、そのミスが起きたのかを分析し改善することです。そのとき、「なぜ?」と問い詰めるのではなく、「何が」「どこで」という聞き方をした方が、実際に起きていることを捉えやすくなります。
誰かの責任を問うのではなく、起きた事象をつぶさに見つめて、改善策を全員で考えられるようになるのが理想です。
みんなの介護 「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」は、職場の空気をつくるリーダーは特に持っておくべき知恵だと思いました。実は、介護の当事者の方の中には、50代で企業の部長クラスを務めている方も多いんです。企業の「マネジメント」を介護に持ち込んで失敗してしまうケースも少なくないのですが、そういった方々へのアドバイスはありますか?
石井 もし、「私がすべて完璧な方針を決めるので、君たちはその通りにやってくれ」というスタイルのリーダーだとすると、職場でも心理的安全性を高めるのは困難でしょう。
このようなリーダーがつくる心理的安全性がない職場では、現場の従業員は意見を言ってくれません。また、このスタイルを家庭に持ち込んでしまったら、家族が連帯することも難しいでしょう。
すると、問題のタネがあったとしても、早めに摘み取ることができなくなります。世の中の変化へのキャッチアップも遅れてしまいます。企業なら、本当はもっと良いサービスを生み出す力を持っているかもしれないのに発揮できないことになりますし、介護でも事態を悪化させてしまうリスクが高まります。
みんなの介護 「他人からの意見を聞けない」ことに悩まれている方も多いです。どうしてそうなってしまうのでしょうか。
石井 そうですね。ついつい「私 vs. あなた」のような敵味方に分ける考え方になっているのではないでしょうか。それを、「目標 vs. 私たち」、あるいは「問題 vs. 私たち」と考える。すると、部下が反抗しているのではなく、問題に対する別の見方や解決方法・アイデアを出してくれているんだと気付きやすいです。何より、そう捉えたほうが管理職の孤独さが癒やされます。
ひとつTipsがあるとすると「自分の意見も、数ある意見のうちのひとつ」と捉えてみると、相手の意見にやたら反対したり、イライラしたりすることが減っていきます。
例えば、Aさん・Bさん・Cさん・Dさん……と、さまざまな部下の意見がテーブルの上に乗っているとします。あなたは管理職として、テーブルの上の意見を眺めながら「筋が良い意見はあるかな」とか、「これとこれを組み合わせると、もっと良い解決策になりそうだ」「この意見は荒削りだが面白いぞ」といった視点で、俯瞰的に捉えるとうまくいきそうですよね。
自分自身の意見も、このテーブルの上に乗った意見のひとつ、いわばEさんの意見だと捉えるのです。つまり、「自分の意見は、自分に見える景色から提案する、数ある意見のうちの一つ」くらいの感覚でいる。すると、「なぜこの人は私に反対するんだろう」と思う必要がなくなります。問題を解決するために自分も含めてたくさんの意見がテーブルの上にのる、要するに「問題 vs. 私たち」の構図になりやすいからです。
メンバーやフォロワーの側は、リーダーへの伝え方に工夫するとうまくいきやすいでしょう。これは、単に気を遣うということではなく、伝え方の問題です。例えば、「部長が言っていることは間違っていると思います」「反対です」という言い方をされると、部長も「なんだ?」と身構えてしまう。
そうではなく、それぞれが持っている観点を提示するやり方で会議を進めると良いでしょう。例えば、「その問題を解決するために、こういう考え方はできませんか?」、「私が見ている利用者さんのケースでは、こういうことが起きたんです」というように……。
この辺りの詳しい実践については、私が監修して、弊社のシニアコンサルタント・原田将嗣さんが執筆した『最高のチームはみんな使っている 心理的安全性をつくる言葉55』を参考にして頂きたいですね。「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」の実例を豊富に紹介しましたので、すぐ取り入れて頂けるはずです。
みんなの介護 最近は、心理的安全性を高める取り組みが、介護現場で成果を上げているそうですね。
石井 例えば、「心理的安全性AWARD2022」でゴールドリングを受賞され、『日経ヘルスケア7月号』にも掲載された大阪国際がんセンターさんの事例があります。大阪国際がんセンターさんでは、病院の外来看護師の心理的安全性を高める取り組みをしたところ、自発的な挑戦が増えました。
看護師さんが、医師に代わって抗ガン剤の静脈ルートを確保するための資格(IVナース)があるのですが、心理的安全性の実践を始める前は、3割程度しか資格を取れていませんでした。心理的安全な組織・チームをつくった結果、資格取得者が9割まで上がったのです。
みんなの介護 具体的には、どのような取り組みをされたのでしょうか?
石井 情報をオープンにすることで、職員同士がお互いを助けやすい環境をつくりました。具体的には電子カルテのカレンダー機能を使って、職員一人ひとりのスケジュールや配置場所をみんなが閲覧できるようにしたそうです。2022年なので、コロナ騒動の渦中です。とても忙しい状況でしたが、この仕組みによってお互いの応援体制ができ、うまく乗り切ることができたといいます。
さらに、肯定80%否定20%のコミュニケーションを意識されたそうです。医療現場では「ダメなことはダメ」と白黒はっきりさせることが命を守ることにもつながります。しかし、否定ばかりを行っていると、「指示待ちで、言われたことだけをやる」職員が増え「自分もチャレンジしてみよう」が生まれません。否定や罰は行動を減らす機能、「余計なこと」をさせなくする機能を持つからです。
大阪国際がんセンターさんの事例では実際に、心理的安全性の確保によって、挑戦する看護師が増えました。IVナースの資格を持っている看護師が9割になったことで、患者さんの持ち時間が解消。平均25分あった待ち時間が0分になりました。いわば心理的安全性が組織内の挑戦を増やし、さらには生産性の向上につながった事例です。
現場によって生まれる変化や目指したい変化は異なるでしょうが、これらの取り組みは参考にして頂けると思います。
みんなの介護 ほかにも介護現場で生かせそうな事例はありますか?
石井 「心理的安全性AWARD2023」でシルバーリングを受賞された平成医療福祉グループさんの事例があります。グループ内全26病院に勤務する複数の職種約310名(介護職種を含む)が1on1で話す取り組みをされています。本来は自発的に起きるべき「対話」も、忙しく緊急対応が日常である医療機関であえて「制度・ルールにした」点が面白い工夫だと感じました。
みんなの介護 忙しい医療・福祉の関係者に対して1on1を行うというのは、どのような目的だったのでしょうか?
石井 「チーム医療の質が病院の質を決める。良いケア・良い医療を提供するためにこそ心理的安全性が大事」という考えで、心理的安全性研修の実施はもちろん、バックヤードや休憩スペースへの心理的安全性ポスターを掲出。医療スタッフの制服を職種ごとに分けずにスクラブ1種類のみとすることで職種間ヒエラルキーをなくす工夫もされています。さらに特徴的だったのは、対話の機会を設けるために1on1を中心とした取り組みを推進されたことです。
その取り組みの結果1on1の有用性を感じる声が多く、導入から半年経っても9割以上の方が継続を希望されているといいます。
みんなの介護 例えば、ご家庭での介護における家族間の話し合いにも1on1は応用できますか。
石井 ご家庭でも組織でもそうですが、「いつか相手がこうなってくれないかな」と期待しても、自動的にそうなることは少ないのではないでしょうか。
そこで、まずは相手に助けを求めてみる。1対1で話そうよ、と声をかけてみる。そして、話してみる。すると、意外と相手が動いてくれることがあります。
それでもやってもらえなかったら、ある意味「前向きに諦める」ことができると思うのです。「やってくれて当然」と期待して「なのにやってくれていない」と、がっかりするより、このひとは実際に、言葉を尽くして伝えてみたけれどダメなんだな、と前向きに諦める方がストレスは軽減できます。
もちろん、自分が我慢して、自己犠牲をして、すべてを背負い込むことはありません。それぞれの人には、できることしかできないからです。誰かを頼る、誰かに限界を伝える……、公的な機関などに助けを求めるなど、上手に手放すことも大切です。
みんなの介護 一見、目に見えないものに思える「心理的安全性の確保」が、具体的な数字となって結果に表れていることが伝わってくるお話でした。最後に、石井さんが、日本社会に心理的安全性を広めたビジョンや目標を教えてください。
石井 たった1億人程度の人口の日本で、自動車産業をはじめ世界的なグローバル企業が何社もある国は、世界でも類を見ません。それぐらいの力があるのに、今は心理的安全性の低さや、過度な忖度といったものにフタをされてしまっています。
心理的安全な組織・チームをつくることで、そのフタをとっぱらっていきたいと思っています。この日本社会に「最高の仕事をする、しあわせなチーム」を増やしたいのです。
みんなの介護 日本の企業や団体は、まだまだ変われる余地がありますね。仕事以上に職場の環境が辛いという方の声も多く聞きますので、心理的安全性を実践する企業がさらに増えたらいいなと感じます。本日は、ありがとうございました。