〈富山・70代女性を襲ったクマが逃走中〉「頭と顎に深い傷で、家族に見せるには心苦しい状況で…」増える人里のクマ出没、2年前にも近所で捕獲されていた

10月17日21時40分ごろ、富山県富山市郊外の住宅敷地内で身元不明の女性の遺体が発見された。富山南警察署によれば、現場の状況からこの家に住む70代女性がクマに襲われて死亡したとみて調べている。事故当時の様子と、現場となった富山市江本(えのもと)のクマ出没状況について取材した。
事件当日の様子について、県警関係者はこう話す。「17日20時55分ごろに、この住宅に住む男性から『夕方から妻の姿が見当たらない』との通報があり、駆けつけた警察が自宅周辺を捜したところ、女性が敷地内の屋外に倒れているところを発見。女性は頭と顎に深い傷があり、ご家族に見せるには非常に心苦しい状況であったため身元確認は行いませんでした。今後、司法解剖を行なって身元と死因を特定します。同日17時30分ごろに現場から数百メートル付近の別住宅の敷地内でもクマの目撃情報が寄せられ、警察もそのクマを目撃していたため、周辺をパトロールしていた矢先の事件でした」
ツキノワグマ(※写真はイメージです)
富山市役所の森林政策課の担当者は「県ではツキノワグマ出没警報を9月末から2度発令していました。クマの目撃情報は10月に入ってから、江本周辺だけで10件はあった」と言う。「事件のあった江本に近い同市大沢野町付近でも10月には28件、大山町付近でも20件ほど、足跡やフンを中心としたクマに関する目撃情報がありました。警察の発表では岐阜県との県境周辺も含めて、今年に入って3件ほどの人的被害があったとのことです。事件のあったエリアは平地で小中学校だけでなく養護施設などもあるのですが、昨今はクマが確実に人間の生活圏内へと近づいてきていると感じます」(森林政策課)今年は富山県内全域でブナやコナラのドングリが不作。同県では「クマが餌を求めて人里に出るかもしれない」と注意喚起をしていた。
今回、被害にあった女性宅の近隣に住む男性は、2年前に遭遇した恐怖体験を思い出したという。「10月は冬眠前のクマがうろつくことがある。自分も2019年10月2日にツキノワグマと直面しました。その年も近所で目撃情報があり、子どもたちの登校を見守ったあとの出来事でした。クマの捜索の合間にいったん帰宅すると、自宅付近にツキノワグマが丸まって座ってたんです」クマと目が合ったが、叫ぶことはしなかった。「あまりに突然のことだったので、声を出しそうになりましたがこらえました。目を合わせたまま、ソロソロと後ずさりして、家の中に入りそのまますぐに通報。クマはその日の昼過ぎに仕留められました。体長1m20㎝ほど、体重140kgのオスでした」
2年前に男性が遭遇し、その後、駆除されたツキノワグマ
男性は死亡した70代の女性とは幼少期からの顔見知りだったという。「ここ10年くらいは顔を見れば挨拶する程度でしたが、あのお宅には同じ小中学校に通っていた僕のひとつ年上の息子さんがいて、ご近所さんという感じでした。お母さん(70代女性)は気さくな方でしたよ。そのお母さんはクマに驚いて、つい声を出して刺激を与えてしまったのかと想像します。幼いころから顔を知ってるだけに、本当にいたたまれません」そして今回の事件も他人ごとではないと、男性は身を引き締める。「市役所も猟友会の方々も懸命に動いてくれてますが、やはりクマが出没する危険のあるこの地に住む者として、自分で自分を守る行動は取らないといけない。家の周辺はできるだけ藪にならないよう、草刈りを小まめにやって見通しをよくし、柿の実がついたらすぐに刈り取ってクマに狙われないようにするなど、今後も気をつけていきます」
他の周辺住民も一様に「山は遠いのに、なぜこんな平らな場所まで出てくるのか」「5年程前から人里に降りてくるようになった」と話す。ちなみに女性を襲撃したと思われるクマの足取りは今もつかめていない。今後のクマ対策について富山県庁の生活自然保護課の担当者はこう答える。
岐阜県にある奥飛騨クマ牧場のツキノワグマ
「現在、富山県内には1460頭ほどのクマがいるとされています。同課ではクマ管理計画として年間の捕獲上限数を設定しており、令和5年は162頭減らすことが目標で、現在56頭を仕留めました。今後も市町村で警察を中心にパトロールを強化し、個体が確認されれば檻での捕獲や銃での駆除といった対処をしていきます」環境省によると、今年4月から9月までのクマによる人的被害は全国15の道府県で109人。国が統計を取り始めて以降、過去最悪と言われていた3年前を上回るペースとなっている。行動範囲を広げる本州のツキノワグマ。自治体の駆除作業は急務、かつ命懸けとなってくるだろう。※「集英社オンライン」では、特定動物の駆除に関する苦情について、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected](Twitter)@shuon_news取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班