『新婚さんいらっしゃい!』で初の同性婚カップルとして話題になった竹田純さん(34)、クリスさん(34)。竹田さんは床バレエ・エクササイズの考案者としてYouTubeや著書で人気のバレエダンサー。その彼が恋に落ち、結婚したのは、クリスさん、男性だ。二人はどこにでもいる、新婚さん。フランスで正式に結婚したカップルだ。彼らは仲睦まじく、ごく自然にゆったりと、誰の目も気にせず、腕を組んで寄り添って歩くーー。(全3回の第1回)
「それでは、最初の新婚さん、お呼びしましょう。新婚さん、いらっしゃーい!」
MCによる恒例のフレーズで始まった、6月4日放送の『新婚さんいらっしゃい!』。
観覧席からの盛大な拍手に迎えられ、スタジオに登場した二人はラブラブな雰囲気で、見ているほうが気恥ずかしくなるほど仲睦まじい。なれそめや日常生活などについてそれぞれが語りながら、手をいだり互いの体に触れ合ったり。ときにはMCからツッコミを入れられ、観覧席や視聴者の笑いを誘う。
その姿は、番組に出演するいつものカップルたちと、なんら変わらない。ただ一つ、違ったことといえば……。この日、出演した“新婚さん”竹田さんとクリスさん、二人がともに男性だということ。
竹田さんはバレエダンサー。「上品にボディメークができる」とSNSや動画サイトで話題の「床バレエ」の日本での第一人者だ。「美尻王子」の異名を持ち、10年ほど前から床バレエのエクササイズ本を何冊も出版。今年4月に出版した『マネしたらやせた! 30秒だけ床バレエ』(講談社)も好評を博している。
いっぽうのクリスさんは、リトアニア出身。国内外で活躍する、建築やインテリアのデザイナーだ。
フランス在住の二人は今年3月、パリから南に列車で2時間ほどの距離にあるブロワ市で、結婚した。彼らが暮らすフランスでは、ちょうど10年前の’13年から、同性婚が正式に認められている。
放送のなかで竹田さんは、今回出演が叶った番組への憧れを、笑顔で語った。
「小さいときから見ていたので、すっごい嬉しいです」
半世紀を越す長寿番組『新婚さんいらっしゃい!』に同性婚カップルがスタジオ出演するのは初めてのこと。それゆえか、この二人の出演は、放送前からインターネットを中心に大いに注目を集めていた。
■年齢も育った国も違う二人が感じた「周りの子と違う自分」
竹田さんは’82年、静岡県で中華料理店を営む両親のもとに生まれた。
「両親が共働きで、私と2歳上の姉は家で留守番か、父方のおばあちゃんに預けられることが多くて。バブル期でお店もすごく忙しくて、とにかく親の愛情に飢えている、私はそんな子でした。いま思えば、そこまで欲しかったわけでもないのに、きっと愛情を確認したかったんでしょう、お母さんと買い物に出かけたりすると『あれ欲しい!』と泣き喚いて困らせる、そんな子どもでした」
竹田さんの話を聞きながら「僕はもっといい子だった」とほほ笑んだクリスさんは’88年、リトアニア第二の都市・カウナスに生まれた。
「欲しいもの、買ってもらえなくても『しょうがない』って思える、そういう子だった。だから、そういうことで泣いたり、もちろんパニックとか絶対にならない。両親からしたらめっちゃラッキーな、いい子じゃない?(笑)」
年齢も育った国も違う二人。だが、それぞれが「周りの子と違う自分」を感じながら、少年時代を過ごしてきた。クリスさんは言う。
「幼いときから『自分はなんか周りの人と違うな』と思ってた。人を好きになるなら、皆と同じように女性じゃなきゃいけないと思ってたけど、僕はそれができなかった。だから、僕は“表向きの自分”という殻を作って、ずっとその中にいたし、家族とは少しずつ距離を取るようになった」
いっぽう、竹田さんは自身の幼少期をこう振り返った。
「厳密に、どこで自分が『周りの人と違う』と気付いたかは定かじゃないです。でも、保育園のとき『いいな』と思う人がいて。その人、見た目がボーイッシュな女の子だった。女性と気付いてすぐ『あ、違う』って思い直したんですけど(苦笑)。そのころかもしれないですね、自分は違うんだと気付いたのは」
朗らかな口調で、思いの丈をまっすぐ語る現在の竹田さん。だが、少年期の彼はそうではなかった。
「お習字も水泳もサッカーも、何をやっても中途半端。というのも“皆とは違う”と気付いた瞬間から、ずっと心にあったのは『自分は決して成功する人間ではない』という思いでした。何をするにも、いつも端から諦めてしまっているというか。幼いときから教え込まれたこの世の中の“普通”、男性と女性というスタンダード。翻って自分を見れば『私は違うんだ、ダメなんだ』という気持ちに、どうしてもなってしまっていた。だから、本当の自分なんて出したくても出せない、出しちゃいけないっていう感覚がずっとありました」
そんな竹田さんが唯一、諦めることなく、没頭したものがあった。
「中学生のとき、当初はダンスでした。ジャネット・ジャクソン、それにスパイス・ガールズ……。テレビで見て『すごい!』って思って、振付をまねして、家で踊りまくって。そしたら、姉に『うるさい! 気持ち悪い!』って怒られ、蹴りまで飛んできて(苦笑)。それで、家で踊ることは諦め、電話帳で見つけたジャズダンス教室に通うようになったんです」
竹田さんにとって踊ることは、全身を使って本当の自分を表現することに、ほかならない。
「2年ほど通うと、ダンス教室の先生から『あなたはバレエのほうが向いている』と勧められ、17歳でバレエ教室に。バレエはダンスのように、好き勝手には踊れないんです。足の出し方一つにも、制約がたくさんある。でも、それすらも面白くなって、どんどんバレエにハマっていきました」
やがて高校3年生になった竹田さんだが、進路にあれこれ悩むことはなかった。目の前にあったのはバレエダンサーへの道、一択。
「自分の将来とか、あんまり真剣に考えてこなかったんです。でも、そのときバレエ教室の先生から『東京バレエ団のオーディション、受けてみたら』って言ってもらって。考えるより先にまず行動するタイプの私は、言われるまま受験して、入団が決まっちゃった」
キャリア、わずか2年足らずで、国内有数の名門バレエ団の一員になるという快挙を成し遂げた。
「入ってみたら、当然ですが私がいちばん下手。でもそれで、一気にやる気が強火になった(笑)」
日本屈指のバレエ団。環境にも恵まれていて、海外のバレエダンサーの姿も身近なものに。
「彼らを見ていたら、自分も海外でやってみたいと思うようになっていきました。『下手な私が上達するには、ゼロからちゃんと学び直さなきゃ』と思って、フランスの国立バレエ学校に行こうと決心して。それに、まったく違う世界に飛び込めば、本当の自分をもっと受け入れてもらえるかもしれない、そんな淡い期待もありました」
竹田さんは20歳で渡仏。ところが、目指した国立バレエ学校は通常、15~18歳が通うところで……。
「それ、知らなかったというか、調べてもなくて(苦笑)。年齢を理由に、何度も門前払いされましたけど、めげずに通ったら、4回目ぐらいに窓口の人が根負けしてオーディションを受けさせてくれて、無事合格(笑)。以降、15歳の子たちとレッスンに励みました」
基礎から学ぶこと4年。’06年には難関といわれる国際コンクール「Concours International de Danse Classique de Biarritz」で銅メダルを獲得。フランスのリモージュ歌劇場など多くのバレエ団で活躍した。そして’09年、竹田さんは27歳のときに日本に帰国することに。
「帰国後、収入を得るためにバレエの指導者になろうと。でも、ただの先生では面白くない。そこで思いついたのが、フランスで『バーオソル』と呼ばれる床バレエでした。それはバレエをベースにした床に体をつけたまま行うエクササイズ。フランスではバレエ経験の有無にかかわらず、美しい筋肉が手に入るととてもポピュラーなもの。私自身、日ごろ床バレエをやってきたことで、けがから早期回復できた実体験もあり、多くの人に勧めたい、日本でも広めたい、そう思ったんです」
【中編】床バレエで人気の“美尻王子”が同性婚!〈2〉ゲイである自分を押し殺していた2人の運命的な出会いと葛藤へ続く