一体どこまで国民を金づる扱いする気なのか。2025年に開催予定の大阪・関西万博の会場建設費について、日本国際博覧会協会(万博協会)はこれまでの1850億円からさらに500億円増となる最大2350億円に増えると見込みであると公表したからだ。
そもそも、当初発表された大阪万博の会場建設費は1250億円だったにもかかわらず、2020年に1850億円に増額。このとき吉村知事は「コストを上げるのはこれが最後だ」と言い張っていたのだ。いや、そればかりか、今年7月12日の会見でも吉村知事は「できるだけ1850億円の中でやるというのが今の予定で、今はその範囲に収まると聞いている」と言っていた。それが、当初から1.9倍にもなる2350億円にまで増額とは……。当初の説明から費用がどんどん膨れ上がっていく構図は、「コンパクト五輪」を謳いながら関連予算が膨れ上がっていった東京五輪にそっくりだ。
今回の増額について、吉村知事は「3度目はありえない」としながらも、「費用がかかる部分はあるが、それを超える2兆円の経済効果があるのも事実」「イノベーションが生まれることは府民にとって十分メリットだ。目に見えない効果もある」などとも発言。ようするに、普段「身を切る改革」を喧伝しておきながら、万博の規模縮小や計画見直しはハナから頭になく、大阪府民・市民や国民に負担を押し付ければいいと考えているのだ。
しかも、吉村知事は万博の負担増をめぐる批判を、“不当なバッシング”だと考えているらしい。
それは15日におこなわれた奈良県橿原市長選の街頭演説でのこと。応援に駆けつけた吉村知事は、「万博の件でいろいろ言われてるでしょ? ちょっとだけ言わせてください」と前置きすると、こう述べたのだ。
「まあ、さんざん万博で叩かれていますよ。『吉村お前大丈夫か』って叩かれてますけど、結構です。どんどんどんどん叩かれるかもしれないけど、僕は立ち上がりますから! 何回踏まれても立ち上がります」
雪だるま式に膨らむ負担増を国民が批判するのはごく当然だし、批判を受け止めて規模縮小や計画の見直しなどを検討するのが政治家であるはずだ。その国民の声を、吉村知事は「叩かれている」などと言って被害者ポジションをとり、「何回踏まれても立ち上がります」と宣言したのだ。
経済効果だのイノベーションだのとさんざん「夢」を語っては大風呂敷を広げ、見通しの甘さによって発生した負担に国民が声をあげると、国民を反対勢力に仕立て上げて「叩かれても負けない」という歪んだ物語をつくり出す……。これは橋下徹氏や安倍晋三元首相そっくりのやり口だが、あまりに下劣であり、無責任としか言いようがないだろう。
だが、吉村知事のこうした態度が露呈したのは、会場建設費の問題だけではない。「空飛ぶクルマ」の問題も同様だ。
「空飛ぶクルマ」は吉村知事が大阪万博の目玉に掲げてきたもので、大阪万博では一般客を乗せた「商用運航」を目指すと宣言。今年8月に開催されたファッションイベント「KANSAI COLLECTION」でも、制服コスプレで登場した吉村知事がこのように喧伝していた。
「大阪のベイエリアを、普通の人が自転車に乗るみたいに、空飛ぶ車に乗ってぐるぐる回っているのを、万博でやります。だからぜひ、若い世代の人も空飛ぶ車に乗ってもらいたい」 ところが、今月中旬になって、商用運航に向けた機体量産が万博開幕に間に合わない見通しであることが発覚。万博で「空飛ぶクルマ」を運航する事業者として発表されていたJAL、ANA、丸紅、スカイドライブの4社のうち、丸紅は商用運航を断念し操縦士のみが乗る「デモ飛行」を目標にすると説明とし、ほか3事業者も万博での商用運航は「検討中」であることが判明。機体数もANAで数機、JALも1機の予定であることが報道されたのだ。ようは、実態は商用運航の目処も輸送力の確保も不透明な“絵に書いた餅”にすぎなかったというわけだ。
だが、酷かったのが、こうした「空飛ぶクルマ」をめぐる報道に対する吉村知事の開き直り、“逆ギレ”ぶりだ。
まず、吉村知事は13日、「飛べば十分だ」などと開き直り、「(空飛ぶクルマの)数とか回数とか決めているわけではない。地下鉄のようにすごく飛び交うようなイメージにはならない」と発言。17日には、旧ツイッターにこう投稿した。
〈万博で空飛ぶクルマを諦めたんですかと今日聞かれたが、一切諦めてません。共同が「量産」断念とか記事を出し、朝日もコメント切り抜きで乗っかってたけど、政府も大阪も、もともと事業者に万博時の「量産」を求めてない。目標は万博会内と兵庫や大阪等に複数のポートを設置し、一般の人を乗せてニ地点間飛行、移動手段とし商用運航すること。空飛ぶクルマは将来必ず空の移動革命になる。最後まで絶対に諦めない。〉
つまり、吉村知事は、つい最近まで「万博では普通の人が自転車に乗るみたいに空飛ぶクルマに乗ってぐるぐる回る」とPRしていたというのに、「地下鉄のようにすごく飛び交うようなイメージにはならない」と言い出し、挙げ句、マスコミ批判にすりかえたのである。
まったくふざけるな、という話だろう。たとえば吉村知事は、新型コロナ対策そっちのけで「都構想」に邁進した結果、人口比で東京を上回る全国最悪レベルの感染拡大を招いたが、そうした最中におこなわれた2020年11月の会見で、コロナ対応の説明は後回しにして「空飛ぶクルマ」構想を大々的に打ち出し、こんな大言壮語を吐いていたからだ。
「大阪・関西万博では、空飛ぶクルマがどんどん大阪湾上を行き交うような風景をぜひつくっていきたい」「万博のときには、自由にたくさんの空飛ぶクルマが行き来する」「2023年に事業としてスタートすることを目標に、2025年の大阪・関西万博のときにはもう多くの方が万博会場に、この空飛ぶクルマでアクセスできるような、そういった環境を整えたい」
この会見自体、新型コロナ対応に不安と不満が噴出している状況を糊塗するために「空飛ぶクルマ」を打ち出したようにしか見えなかったが、吉村知事は「イソジン騒動」や「大阪産ワクチン」のときと同様、「空飛ぶクルマ」問題でも、さんざん大風呂敷を広げておいて、暗雲が立ち込めると過去の言動などなかったもののように振る舞い、マスコミ批判にスライドさせたのである。
しかも、問題は吉村知事の開き直り、逆ギレだけにとどまらない。というのも、この万博における「空飛ぶクルマ」構想実現のために、本来はコロナ対策に使われるべき予算が横流しされたからだ。
「しんぶん赤旗」2022年9月22日付記事によると、コロナ対策のために国が交付した2021年度分の「地方創生臨時交付金」のうち、大阪府は約1358万円を「空飛ぶクルマ」に支出。全国最多のコロナ死亡者を出すほどの惨事を引き起こすなか、コロナ対策ではなく「空飛ぶクルマ」に国からの交付金を注ぎ込んでいたのだ。
いや、それだけではない。大阪万博の会場建設費を500億円増額すると公表されたのと同じ20日、経産省は大阪万博で「空飛ぶクルマ」の運航に向けて〈機体開発や量産に必要な「型式証明」の取得に向けた飛行試験などを後押し〉すべく、開発事業者2社に計134億円を補助すると発表したのだ(読売新聞20日付)。
物価上昇で庶民が厳しい生活を迫られているにもかかわらず、吉村知事と維新によって政治利用されてきた一過性のイベントのために、さらなる負担増を強いられる。こんな理不尽がまかり通っていいはずがないだろう。