いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、東京のスパゲティ屋さん「CHAYA」をご紹介。
○ヤエチカ奥のスパゲティ屋さん「CHAYA」(東京)
東京駅の八重洲地下中央口を出てそのまま直進すると、自動的に「ヤエチカ」こと八重洲地下街へとつながります。飲食店からブティック、コンビニまで、さまざまなお店がずらりと並ぶ広大なショッピングモール。
左右に広がる東京駅側の「外堀地下1~3番通り」を抜け、その先の「八重洲地下街2番通り」をさらに進めば、やがて左側に見えてくるのが以前ご紹介した「アロマ珈琲」。
そして、そのはす向かいに位置しているのが、今回ご紹介する「CHAYA」という小さなスパゲティ屋さんです。
東京駅から5分~10分弱と、無理なく歩ける距離ではあるものの、ぶっちゃけヤエチカのなかではいちばん奥。むしろ京橋駅のほうが近いということで、決して恵まれたロケーションだとはいい切れないかもしれません。
しかし、外観もちょっとレトロなこのお店、お昼どきには行列ができる人気店でもあるのです。この日も混雑を避けようと11時の開店直後に伺ったのですけれど、すでに数人のお客さんがいらっしゃいましたしね。
さすがだわ。
店内はカウンター20席がコの字型に並んでおり、その向こう側が厨房。つまりカウンターからは、調理の光景を眺めることもできるわけです。
参考までに書き添えておくと、左右の壁にはハンガーも並んでいるので、上着や荷物があっても安心だぞ。
ところでこのお店、専門店だけあってメニューのバリエーションが非常に豊富なんですよ。なにせ「トマトソースのスパゲティ」だけでも6種、「ミートソーススパゲティ」が3種、「オリーブオイルのスパゲティ」が4種、「和風味のスパゲティ」が5種、「クリームソースのスパゲティ」が6種もあるんですからねえ。
さらに「店頭には手書きによる「本日のおすすめパスタ」の表示も出ているので、必然的に迷ってしまうわけです。そのため入店前に、店頭に貼られているメニューをチェックしてアタリをつけておくほうがいいかも。
で、この日はたまたま目についた「クリームソースのスパゲティ」のトップに表示されていた「青菜とベーコン」をチョイスしたのでした。
これが気になっちゃったんだよ。
なお、ここは基本的に、ダラダラと長居をするようなタイプのお店ではありません(たぶん)。食べるためだけに訪れ、食べ終えたらサッと立ち去るという、利用法に関していえば立ち食いそばに近いスタイルだといえましょう。
事実、僕が待っている間にもお客さんはどんどん入ってきて、開店10数分で席はほぼ埋まってしまったような状態。その一方で食べ終えた人は、サッと外に消えていきます。
けれどもその反面、調理には少し時間のかかるお店でもあるのです。個人的には、出てくるまでに10分近くかかるという印象を持っているのですが、ただしそれはきちんとつくられていることの証でもあるはず。だから気にはならないし、フライパンからバッと炎が上がる光景を眺めていたりすれば、あっという間に時間が経ってしまいます。
サッカーのイラストが入った白い皿(なぜこれを選んだのか?)に盛りつけられた青菜とベーコンのクリームソースは、きわめてオーソドックスなスタイル。
たっぷりとクリームの絡んだパスタの上に、青菜とベーコンが乗せられており、どこまでも基本に忠実といったルックスです。
はいはい、こういうのを求めていたんですよ。
あ、そういえば、このお店のパスタには大きな特徴があるんですよ。毎日、生麺を工場から直送しているのです。それが人気の秘密でもあるのでしょうが、いただいてみればすぐに納得できるはず。
生麺だけあって、食感がモチモチしていて非常においしいのです。イマドキっぽさはないかもしれないけれど、流行のたぐいに左右されることのない”昔ながらの正しいスパゲティ”という感じで、非常に好感が持てるわけ。
これこそまさに、昭和グルメそのもの。東京~京橋エリアのサラリーマンやOLから多大な支持を得ていることにも、充分納得できます。
と書いて思い出しましたが、そうなんですよ。ここはサラリーマン風の男性のみならず、女性の単独客も多いのです。誰に気を使う必要もなく、ひとりでもふらっと入れるお店だということですね。
ただ前述したようにメニューがとても多いので、何度も通う必要はあるかもしれません。一度お邪魔したら、「次はあれを食べたい」みたいな感じで、別のメニューのことが気になってしまうだろうから。
そう思わせるところも、このお店の力量なのでしょう。
●CHAYA
住所: 東京都中央区八重洲2-1 八重洲地下街八重洲地下2番通り
営業時間: 11:00~21:00
定休日: 土日祝
印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)、『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)ほか著書多数。最新刊は『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)。 この著者の記事一覧はこちら