〈甲府・放火殺人〉交際を拒否されて「激しい怒りを募らせた」…その両親を殺害し、住宅に放火、全焼させた”陰キャ“な生徒会長の素顔〈初公判では黙秘を貫く〉

甲府市で50代の夫婦を殺害後に住宅に放火、全焼させたとして殺人と現住建造物等放火などの罪に問われた同市の無職、遠藤裕喜被告(21)の裁判員裁判初公判が10月25日、甲府地裁(三上潤裁判長)であり、被告は無言のまま起訴内容の認否を明らかにしなかった。弁護人は起訴内容の一部を否認、心神耗弱を理由に刑事責任能力について争う姿勢を見せた。
被告は2021年の犯行当時19歳で、従来は氏名が公表されない「少年」。しかし、事件を起こした18、19歳を「特定少年」と位置づけて起訴後の実名公表を解禁する改正少年法が昨年4月に施行されており、これが初めて適用されたケースとなった。甲府地検はその理由について「2人を殺害し、家屋に放火するなど地域社会に与える影響が深刻な重大事案」とし、実名公表に踏み切った。
放火された被害者の自宅(近隣住民提供)
起訴状によると遠藤被告は2021年10月12日午前3時半ごろ、甲府市の民家に侵入、会社員・井上盛司さん(当時55歳)と妻の章恵さん(同50歳)の胸をナイフで刺すなどして失血死させ、同居していた次女を殺害しようとナタで殴りつけ、頭に1週間のけがをさせた。さらに、室内にライター用のオイルをまいて火を付け、住宅を全焼させた。検察側は冒頭陳述で、遠藤被告が同じ高校に通っていた井上さんの長女に一方的な好意を寄せて交際を申し込んだものの、断られたことに「激しい怒りを募らせた」と犯行の動機について言及。その逆恨みから長女に精神的なダメージを与えるために「家族を皆殺しにしようと考えた」と述べ、精神鑑定の結果、完全責任能力があったと主張した。これに対して弁護側は、被告は複雑な家庭環境で育ったため精神状態が不安定で、事件当時は不本意な進路もあって感情をコントロールできず、刑事責任能力が大きく減退した心神耗弱状態だったと主張。また次女に対する殺人未遂罪の殺意を否認し、傷害罪にあたるとした。甲府地裁によると、期日は12月11日の第26回公判で論告と最終陳述をし、判決言い渡しは追って指定するという。
そもそも、「逆恨み」でここまで凄惨な犯行を遂行してしまうに遠藤被告とは、どんな人物なのか。事件当時、現場を徹底取材した記者に答えてくれた同級生はこう証言していた。「遠藤は授業態度が真面目で、勉強熱心。学校を休むこともなくほぼ皆勤で、教員からの評価も高いが友達は少ない、いわゆる『陰キャ』でしたね。自分は席が近かったので筆記用具を借りたり、勉強を教えてもらったこともありました。貸してくれるのは決まって、サンリオのキャラクターのイラストが描かれたペンで、数学が得意でした。生徒会選挙に立候補し、在学生の信任を得て、生徒会長に選ばれました。うちの学校は毎年、明るくて目立つタイプの“陽キャ”が生徒会に立候補するので、遠藤が出馬したのは意外でした」
放火された被害者の自宅(近隣住民提供)
この同級生によると、被害者の井上夫妻の長女も同じ生徒会選挙に立候補し、役員に選ばれたという。「遠藤は生徒会長に選ばれたものの“キャラ変”はしませんでした。友達同士で冗談や下ネタを言い合ったり悪ふざけする姿は見たことがないし、休み時間は常に一人でいて、ニンテンドースイッチをしていました。学校が終われば緑色のママチャリでそそくさと下校していく姿が印象的でした」生徒会だけでなく、遠藤被告は部活でも、井上さんの長女と同じ将棋クラブに所属していたという。長女は演劇部にも所属し、脚本も手がけるなど多才ぶりを発揮していた。演劇を通じて仲良くなったという女性はこう語っていた。「井上さんは誰にでも優しくて人気があって、演劇仲間でも彼女を好きな人はいたけど、彼氏はいなかったと思います。彼女とは9月にLINEで話したのが最後で、会ったのは8月が最後。なにか悩んでいたとかいう話は聞いたことがないし、特に変わった様子もありませんでした」しかし、井上さんの長女が「ストーカー」から意味不明のプレゼント攻撃に遭い、困惑していたことを別の友人は知っていた。彼女は当時、怒りで声をふるわせながら記者にこう語った。「井上さんには彼氏もいなかったし、そもそも過去に遠藤くんと付き合ったことなどないはずです。ただ、事件の少し前から『ストーカーにあっている』と聞いたことがあります。『ティファニーなどのブランド品を勝手に家に送りつけてきて、LINEをブロックしても執着してくる人がいて困っている』と暗い表情をしていました。その人の名前を聞いても、相手を気遣って私には教えてくれませんでしたが、ひょっとしたらそれが遠藤くんだったのかもしれないです」友人はさらにこう続けた。「井上さんは誰にでも明るく接する優等生で犯人から見れば苦労知らずの『陽キャ』だったのかもしれない。でも、もともと彼女はコミュニケーションをとるのがすごく苦手で、高校入学後に人一倍努力してそれを克服したんです。演劇部では、主要キャストを務めながら脚本も担当するなど、本当に頑張っていました」
事件が発生した10月12日には、山梨県内の高校に通う生徒による「意見発表会」が開催され、井上さんの長女は学校を代表して、スピーチをする予定だった。しかし、遠藤被告がすべてをぶち壊した。遠藤被告は逮捕後の山梨県警の取り調べに「事件を起こしたことを後悔している」と供述したが、放火され全焼した井上さん宅から見つかった遺体の状況はあまりにも悲惨だった。当時、捜査関係者から聞き取ったメモにはこう綴ってある。「遠藤はもともと一家全員を殺害するつもりで、刃物も複数持参していたとみられる。焼け跡から見つかった夫婦の遺体には10箇所以上の刺し傷があり、深いものは臓器にまで達していた。遠藤は最初、1階の寝室で寝ていた井上さんを殺害し、続いて逃げた井上さんの妻に手をかけたようで、近隣住民が『やめて』という女性の叫び声を耳にしていた」
被害者の自宅に供えられた花や飲み物(写真/共同通信社)
遠藤被告は県警の調べに対し「井上さんの長女に好意を寄せていた」「長女とLINEができなくなった」と供述していた。一方的な好意を寄せ、思い通りにならなかったことで逆恨みを極限まで募らせたようだ。身勝手極まる動機で彼女の両親と家を奪い、妹を傷つけた遠藤被告。はたして国民から選ばれた裁判員たちはこの事件をどう受け止めるのか。その行方に注目が集まる。※「集英社オンライン」では、今回の事件にまつわる情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected]X(Twitter)@shuon_news取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班