『ヤンキー母校に帰る』のモデル、北星余市高校の先生が2005年赴任当初「すげぇな!」と驚いたこととは?「昔の子らはパワーがすごかったけど今は…」この20年での生徒たちの変化とは

中退・不登校生徒を積極的に受け入れる北海道の北星学園余市高校をモデルに、2003年にドラマ化して大ヒットとなった『ヤンキー母校に帰る』(TBS系)。あれから20年、北星余市高校は今、どうなっているのか。“ヤンキー先生”こと義家弘介氏(現、自民党衆議院議員)が2005年3月に退職した翌月、同校に着任してそのド派手な服装と、まっすぐに生徒と向き合う姿が話題となった本間涼子先生に、北星学園余市高校の現在を聞いた。
――ドラマの影響で、北星学園余市高校は“ヤンキー高校”の印象が強かったかと思いますが、なぜ兵庫出身の本間先生が北星余市で働くことに?本間涼子先生(以下、同) 大学を卒業後、地元の大阪で午前中は小学校の非常勤の理科の先生、午後から学童保育の指導員というダブルワークをしていたんです。その生活を2年ほど送ったタイミングで、何気なく北星余市のホームページを見たら化学の教員を募集していて。義家先生の本やドラマを通して北星余市は知ってたから、「免許も持ってるし、ちょっとおもろそうやな」と思って応募して、北海道に面接に行ったんです。――すごい行動力ですね。面接では変な質問をたくさんされましたね。なかでも覚えてるのが「胃は丈夫ですか?」とか「お酒を飲んだり、ストレス解消法はありますか?」といった質問(笑)。「北海道に骨を埋める気はありますか?」って言われたから「それはちょっとわからない」って答えたり。
北星学園余市高校で教鞭をとる本間涼子先生
――入る前から嫌な予感がすごい(笑)。そして見事採用され、2005年4月から教壇に立つことに。ドラマが放送されてからそこまで年数もたってないですし、その年の3月まで義家先生が同校にいたということで、ちょっとした語り草みたいになっていたりは?いや、別にそんな感じではなかったですよ。――赴任した当時、ヤンキー生徒は多かった?ヤンキーなのか……まあ、元気な子が多かったです。ただ、当時北星余市は“最後の砦”と言われていて。もともとヤンチャしてたんだなって子たちも「このやり方では生きていけへん。北星で変わらなあかん」と親元を離れてやってきて、ここで寮生活を送っている。だから、荒れてるって感じはなくて、やっぱりどこか前向きな姿勢はありましたね。ヤンキーだけでなく、さまざまな理由でよその高校を中退したり、不登校になってしまった生徒も多くいました。そうした「過年度生」(中学を卒業してから1年以上たってから入学する生徒)の中には、最年長で30歳の生徒もいて、当時24歳で赴任した私より年上の生徒も普通にいましたよ。
――学級崩壊のようなことは起こらなかった?赴任当初は授業を聞いてもらえなかったり、ヤジが飛んできたことはあって、職員室に戻ってひとりで泣いたこともありましたよ。でも、それは赴任1年目で自分の力不足なところがありますからね。ただ、3年生はすごく大人でした。授業は受け持ってなかったんですけど、向こうから気にかけてきて「どんな感じ?」って声をかけてくれるんですよ。生徒会も先生が決めたことを生徒におろすだけのただの“行事屋”じゃなくて、「何のためにどんな行事をしたいのか、するのか」「その目的を達成するためにはどんなことに気をつけて、取り組むのか」みたいなことを自分らで話し合って決めて、下級生をどう楽しませるかっていう視点を持っていた。それを見て「すげぇな!」と思いました。――ドラマのイメージとはだいぶ違いますね。生徒同士のケンカやトラブルもあまりなく?
北星学園余市高校の卒業式の日の様子
ケンカは暴力的なものはたまにしかなく。言い争いならしょっちゅうありましたよ。それが今の生徒たちと全然違う。――といいますと。たとえば1年生だと、ヤンキーかどうか関係なく、同級生が何を考えているのかってよくわからないじゃないですか。そういうなかで、昔の子らは自分のことを「わかってよ!」というパワーがすごかったんです。それがヤンキーだと不器用だからケンカしたり大きな声で威圧したりってマウント行為になっちゃうけど、根底にあるのは「俺のこと、わからしたる」って相手に理解を求める行動でもあるんですよね。――承認欲求みたいなことだと。そうですね。入学式でも式次第を紙飛行機にして飛ばしたり、大きく舌打ちしたり。それもある意味自分の居場所をつくろうと虚勢を張ってるんですよね。
――それが今の子は?それがほんとにないんですよ。入学式もほんとに大人しい。だから、最近は「喧嘩せえ」って言ってます。殴り合えって意味じゃなくて、「言わな、わからんねんから」と。やっぱり昔に比べると、今の子はこっちで細かいフォローが必要になってきた気がします。体感的にヤンチャな生徒が減って、それまで引きこもっていたような生徒が割合的に増えているのもあるけど、自分の思っていることを声に出せない子が多くなっているように思います。
月に一度の恒例イベントだったクラスの生徒の誕生日会。本間先生の自宅にて。
――それはなぜだと思いますか?情報伝達手段の変化もあるかもしれません。たとえばLINEにしても『既読無視なんてできへん!』って子はめっちゃいるんですよ。あんなもん、じっくり考えて返すもんじゃなくて表面的なラリーじゃないですか。読めるときに読んで、返せるときに返すでええねん。でも子どもたちからすると「誤解されたら終わり」という感覚があるんです。これはLINEだけではないですが。そうやなくて「誤解されたら解けばいい」っていうことを知らない子が多いんです。※後編では、北星余市高校の教師・本間涼子先生の教育方法を聞く。取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班