米撃墜の気球10~12日の3つは「商用や研究用など完全に無害だった可能性がある」

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は14日の記者会見で、米軍が10~12日に米国やカナダの上空で撃墜した3つの飛行物体は「商用や研究用など完全に無害だった可能性がある」との情報機関の見解を明らかにした。中国籍かどうかなど「他の政府機関の情報収集を示す兆候は何もない」と述べた。
残骸について「物体の目的を特定するために大きな意味がある」とし、回収や分析を急ぐ考えを示したが、落下地点の厳しい気象条件で回収は難航。全てを集めるのは不可能だとの見方も出ている。
3つの物体撃墜に先立ち、中国の偵察気球が1月下旬から米国やカナダ上空を飛行。米軍戦闘機が今月4日に撃ち落としたが、対応の遅さを批判された。その後、確認された3つの物体はいずれも発見後、24時間以内に撃墜した。無害の可能性が生じたことで「過剰反応」(ワシントン・ポスト紙)との指摘も出ている。
一方、日本政府が、領空侵犯した気球や無人機を撃墜できるよう、武器使用の要件緩和を検討していることが15日、分かった。自民党国防部会などで、自衛隊法の解釈を変更し、空路の安全確保や国民の生命、財産を守るための使用を認める案が浮上した。
自衛隊法84条は外国の航空機が領空侵犯した場合、着陸や退去を促すため「必要な措置」を講じられると規定。警察権の行使に準じ、武器使用は正当防衛や緊急避難の場合に限り認めてきた。ただ、戦闘機など有人の航空機への対処が前提で、気球は想定されていない。法的整合性などに懸念の声も出そうだ。

技術面のハードルもある。気球が高高度を飛行し、材質に金属が少ない場合、地上レーダーでは探知しづらい。熱源がなければ、音速で移動する戦闘機から赤外線レーダーで狙いを定めるのも容易ではなさそうだ。撃墜したとして、落下した破片による被害が出ないよう考慮する必要もある。「そもそも高高度を飛行する気球を自衛隊機で撃墜するパイロット教育はしていない」と航空自衛隊幹部は話した。
◆領空内飛行物体を偵察気球と推定 日本発表に中国「侮辱」
中国外務省の汪文斌副報道局長は15日の記者会見で、日本領空内での飛行物体が中国の無人偵察用気球だと推定されるとした日本政府の発表に「確かな証拠もないのに侮辱した」と反発した。米軍が中国の気球を撃墜したことを念頭に「米国に追随し、大げさに騒ぎ立てるべきではない」との認識を示した。
岸田文雄首相は衆院予算委員会で「外交ルートを通じて中国政府に対し、このような事態が生じないよう強く求めた。領空侵犯は断じて受け入れられない」と強調した。防衛省によると、無人偵察気球と推定される飛行物体は2019年11月に鹿児島県、20年6月に宮城県、21年9月に青森県でそれぞれ確認された。