自治体のタクシー運賃補助を支援するクラウド型精算管理システム「DTaM」- 全国拡大へ向けた連携協定が締結

伊那市が住民の移動支援事業として運行している「市街地デジタルタクシー」。そこで運用されている精算管理システム「DTaM (Digital Taxi Management)」(以下「DTaM」)の横展開に関する連携協定が、伊那市・マイティークラフト社・NTT東日本長野支店の3者の間で締結された。

10月20日に実施された締結式では、伊那市がマイティークラフトに開発を委託した「DTaM」や、同市の交通弱者に対する移動支援の取り組みなどが発表された。

○■交通弱者に対する伊那市の移動支援の取り組み

高齢化、核家族化の進行や人口減少に伴うバス路線減少などにより、移動手段を持たない免許返納者などの高齢者に対する移動支援が求められている地方自治体。買い物や通院といった日常生活に必要な移動の支援として、タクシー代を助成する自治体も多い。

そうしたことを背景に伊那市では昨年8月からの実証を経て、本年4月から「市街地デジタルタクシー」などの事業に取り組んでいる。

「DTaM」は一般タクシー利用時の運賃補助のために同市が考案したクラウド型精算管理システム。利用区間に応じたタクシーメーター運賃と、利用者が自己負担する運賃との差額(売掛金)を、車載のタブレット端末のカメラで読み取るだけで自動集計して、タクシー事業者の市への請求事務処理を円滑化する。

伊那市市長の白鳥孝氏は、同市の移動支援の取り組みについて次のように説明した。

「伊那市では従来の路線バスに加えて、AIを活用した自動配車乗合タクシー『ぐるっとタクシー』、そして一般タクシーの運賃補助による『市街地デジタルタクシー』を組み合わせ、市民の移動支援を行っています。『市街地デジタルタクシー』では伊那市が考案した運賃精算や利用管理のためのシステム『DTaM』を運用することで、利用者の利便性を向上させ、事業者や伊那市のスムーズなサービス提供を実現しました」

伊那市・マイティークラフト・NTT東日本の3者が推進する本協定は、同様の課題を抱え、一般タクシー利用時の運賃補助を通じた住民の移動支援を行おうとする地方公共団体に対し、「DTaM」の運用拡大を図るもの。交通弱者に関する社会的課題の解消に寄与することを目的に、三者が連携して「DTaM」の情報提供と導入支援を行なっていく。
○■シンプルな操作性と導入のしやすさを追求

令和2年4月から3年間、伊那市に出向したNTT社員が在任中に設計し、伊那市がマイティークラフト社に開発を委託したという「DTaM」。その最大の特徴は利用者・地方公共団体・タクシー事業者それぞれにとっての利便性の高さと、同様の課題を抱えている自治体での導入のしやすさだ。

本協定により、NTT東日本長野支店はマイティークラフトと連携しながら、地方公共団体やタクシー事業者への「DTaM」導入の支援を担う。

同支店長・茂谷浩子氏は「『DTaM』の特徴は使いやすさ。タクシー利用者にとっても、タクシー会社さんにとっても、操作がシンプルでわかりやすく簡単という点だと思います」と、その使いやすさをアピールした。

続いて伊那市企画部長の飯島智氏は、運転に不安を抱える高齢者であっても、運転免許の返納になかなか踏み切れない地方の公共交通の実情などを紹介。「DTaM」事業について説明した。

「伊那市では令和2年4月から周辺地域と中心市街地をドアtoドアで結ぶAI自動配車乗り合いサービス『ぐるっとタクシー』の運行を開始し、多くの方々にご利用いただいます。一方、民間タクシーへの影響を避けるため、その稼ぎどころである中心市街地にお住まいの方々は『ぐるっとタクシー』が使えませんでした。『市街地デジタルタクシー』は強い住民要望と公平性の観点から本年4月より本格運行を果たしています。『ぐるっとタクシー』と同額運賃で利用でき、かつ民間タクシーの利用促進にもつながる仕組みです」

「ぐるっとタクシー」が公共乗り合い運行なのに対して、「市街地デジタルタクシー」は民間貸切運行の取り組みだが、両タクシーとも運用規則は共通で、運行時間は平日午前9時~午後3時まで。利用対象者は65歳以上の高齢者や運転免許の返納者、移動が困難な障害者などで、運賃の自己負担額は500円(免許返納者と障害者は250円)とし、利用可能範囲は居住地と市街地となる。

「高価な乗り物という意識が定着している民間タクシーを『ぐるっとタクシー』と同額で利用でき、より身近な移動手段として利用者の裾野が広がっています。高齢者などの外出機会の増加やタクシー事業者の経営の安定感にも寄与するものと考えてるところです」(飯島氏)
○■タクシー運賃の助成事業の事務負担を大幅に軽減

それまで送迎を担っていた家族の負担軽減や高齢者の運転免許の返納にも貢献するタクシー助成事業。その精算管理で「DTaM」を活用すると、ドライバーが客の乗車時・降車時にタブレット端末のカメラで利用登録証のQRや運賃メーターを読み込むだけで、利用者の運賃負担を差し引いた額を自動集計される。タクシー事業者は少ない事務負担で伊那市へ毎月の請求が可能だ。

「設計段階で『DTaM』はセンサーやAIを組み込んだ高コストなシステムではなく、タブレット端末のカメラをインターフェースとする簡便な仕組みとしました。タクシー料金の補助は各自治体で行われていますが、デジタル技術で紙チケットによる煩雑な手続きの必要がなく、低コストかつ操作が簡単なアプリとして開発されています」(飯島氏)

伊那市はマイティークラフトによる地方公共団体への「DTaM」提供の許諾(横展開の容認)、地方公共団体に対する情報提供や問合せ対応にあたる。一方、マイティークラフトは方公共団体の「DTaM」活用環境の構築と安定的な提供などを主に担当していく。

同市はDTaM利用許諾に関する契約により、マイティークラフトが他の地方公共団体にDTaMを提供する場合、1地方公共団体につき1月当たり1万1000円(年額13万2000円)の対価が得られ、財産収入の確保にもつながると期待する。

「すでに県内外の複数の地方公共団体などから問い合わせをいただいており、この10月から長野県・箕輪町では『まちなかタクシー』の名称で『DTaM』を活用した事業を開始されています。我々、行政がそうした普及活動を直接行うことは業務スキルやマンパワーの面からも難しい面もあり、NTT東日本様に導入支援業務を全面的にご担当いただくことで『DTaM』の全国展開を目指していきたいと思っています」(飯島氏)

伊藤綾 いとうりょう 1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催 @tsuitachiii この著者の記事一覧はこちら