陸自幹部候補生を待ち受ける「地獄の100km徒歩行進」 想像を絶する超過酷な訓練のリアル

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陸自幹部候補生学校には、代々伝わる「100kmを徒歩で歩く地獄の訓練」がある。どのような訓練なのか、幹部候補生学校で実際に経験した筆者が明らかにする。

陸上自衛隊幹部候補生学校(以下、陸幹候校)とは、陸上自衛官が幹部になるために入校する学校だ。防衛大学校(自衛隊の大学)や一般大学、防衛医科大学校(自衛隊の医師や看護師になるための大学)を卒業した隊員や、高校卒業後等から入隊したのち、選抜試験を通過により叩き上げで幹部となった隊員らが入校する。
在校中は幹部候補生という身分であるが、卒業して少ししたのちに3尉(諸外国軍の少尉に相当)という階級が付与され、幹部自衛官となる。筆者も一般大学卒業後に入校し、幹部として部隊勤務を開始した。
入校中は時間に追われる厳しい寮生活や訓練をしながら、自衛隊や戦術、軍事、戦史、国際情勢、英語等の座学なども行う。

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100km徒歩行進訓練は、陸幹候校の伝統的な訓練である。その名の通り、100kmを徒歩で移動する。単純に徒歩で100km移動するだけでも過酷さは想像できるが、ただ歩くだけではない。銃携行、ブーツにヘルメット、約20kgにもなる重たいリュック、各種装備品、無線機等のフル武装状態で歩く。
さらに、ときに数百人にもなる大勢で警戒や報告、指揮を行いながら歩くので、頭も休めることができず心身ともに疲労困憊となる。食事等短時間の休止はあるものの、基本的に歩きっぱなしとなるため、足のマメや靴擦れ、装具による皮膚の擦れ、リュックの肩紐の荷重、足腰の痛み、股擦れに襲われる。熱中症や脱水症状と隣り合わせの大量発汗や降雨により身体は濡れ、夜間は昼間の暑さが嘘のように寒くかなりつらい。

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この100km行進を語る上で欠かせないのは、終わったあとさらに待ち受ける訓練だ。陸上自衛隊にはこのように長距離を歩く訓練が多数あるが、それは全てあくまでも移動手段である。
道路破壊や行動の秘匿を意識して、徒歩での移動を余儀なくされているという前提のもとであり、歩いて目的地に到着したあと攻撃や防御といった任務に移る。
陸幹候校はこの訓練を学生にとっての総仕上げたる総合訓練としているので、100km歩いて演習場に到着したあとは、敵情の偵察や作戦の計画、攻撃と忙しく、さらに追い打ちをかけられる。
筆者は最後の敵陣への攻撃前に腹痛を我慢していたが、用便をする時間を確保することができずに悲惨なこととなった。詳細はあえて語らない。余談ではあるが、演習中の陸上自衛官は男女関係なく大自然の中で用便を行う。スコップで小さな穴を掘り、紙とともに埋める。

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この行進訓練は、徒歩行進の大部分を一般の市街地で行う。そのため、大人数で隊列を組んで歩く幹部候補生たちの雄姿や壮大な光景を実際に見ることができる。地元住民や子供たちからは激励の言葉がかけられたり、手を振られることがあり、該当地域では見慣れた光景である。
ただし一般市街地での慣習的行事とはいえ、訓練の細部を筆者の口から語ることは出来ないので、一目見たい読者はどうにか情報にたどり着き、激励や理解、認知といった目的で見学してほしい。
自衛隊は謎に包まれているものの、各都道府県に、募集や広報を行う専門部署である地方協力本部という機関があり、HPや各種SNSなどで情報発信を行っている。見学ツアーや音楽隊によるコンサート情報など、興味深いものばかりであるので、見てみることをおすすめする。

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安丸仁史(やすまるひとし):1994年福岡生まれ、福岡育ち。防衛大学校(人文・社会科学専攻)中退後、西南学院大学文学部外国語学科卒業。 2017年陸上自衛隊に幹部候補生として入隊。
職種は普通科で、小銃小隊長や迫撃砲小隊長、通訳などを務める。元レンジャー教官。自称お祭り系インスタグラマー。お祭りとパンクロックをこよなく愛する。