渋谷「TSUTAYA」10月31日で一時休業に。「映画好きやその世界を志す人たちの夢が詰まっていた」レンタルサービス終了に惜しむ声、続々。改装後はカフェ・ラウンジに

「TSUTAYA」の閉店ラッシュが止まらない。昨年も今年も、それぞれ100店舗以上の閉店が発表されている。そんななか、10月16日、TSUTAYAの旗艦店「SHIBUYA TSUTAYA」がリニューアルの改装工事に伴い、休止となった。決して閉店するわけではないが、この決定を惜しむ声が映画業界から数多くあがっている。役者と監督に話を聞いた。
渋谷のスクランブル交差点の名所として、国内のみならず多くの海外観光客も訪れる「SHIBUYA TSUTAYA」。運営会社のカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の広報担当者が話す。「来年春のリニューアルに向け、現時点で決定、発表をしております情報としては、『SHIBUYA TSUTAYA』がリニューアルに伴い、2023年10月31日から全フロア改装工事に入るため、(レンタルサービスだけではなく)全フロアで提供しているサービスの営業が来春まで休止となることです」
1999年にオープンした「SHIBUYA TSUTAYA」(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社提供)
渋谷の地に生まれ育ち、渋谷の街を撮り続けている写真家の佐藤豊氏はいう。「もともと、渋谷は駅前だけでなく今のヒカリエのあるところには『パンテオン』という映画館、ビックカメラの周辺には松竹と東映など3つの映画館が、さらに百軒店にも3つの映画館があるなど、渋谷は映画の街だったんですよ。そんな渋谷に1999年12月、『TSUTAYA』の旗艦店がオープンしました。当時は映画をDVDで見るスタイルが浸透する時代の転換期で、その品揃えを見るだけで楽しい空間でしたよね」「売れない芸人時代『SHIBUYA TSUTAYA』が救いの場だった」と話すのは時代劇の名脇役、山岡徹也氏の孫で最近は朝ドラ『らんまん』に出演した俳優の山岡竜弘氏だ。
山岡竜弘氏
「20代で20軒以上の事務所に応募するも落ちまくり、ようやく拾ってくれた事務所の社長に“お前みたいな役者はゴマンといるから芸人でもやって名前を売れ”とコンビを組むことに。歯を食いしばりながらM-1に出てたころに、いろんな芸人さんのライブDVDを『SHIBUYA TSUTAYA』で借りて勉強してましたね。店内の検索機で祖父の名前を検索し、そこに出てくる作品もすべて借りました。僕の名前で検索しても作品が出てくるわけないのに“いつかここに載りたい”という思いでいましたね。人生で最も辛い時期のひとつでしたが『SHIBUYA TSUTAYA』に来れば役者の世界に近づける気がしてました」
現在、最新作『勝手に死ぬな』が公開中の映画監督、天野大地氏は「『SHIBUYA TSUTAYA』でバイトして手にしたお金で映画を作った」という。「高校時代に足繁く通っていたのは新宿TSUTAYA。新宿も渋谷も邦画の品揃えは他に類を見ませんでした。昔の邦画やアジア映画、ヨーロッパの作家の映画の品揃えは群を抜いていました。高校卒業後、僕はアメリカの映画学校に留学しましたが、卒業制作映画を撮るために一時帰国し、2010年から2011年の10カ月間に『SHIBUYA TSUTAYA』でバイトしました。僕は当時の人出の多かったレンタルコーナーではなく、DVD販売コーナーのレジ打ちを任されてました」
10月31日より全フロア改装にはいるという
当時の『SHIBUYA TSUTAYA』のバイト仲間には映画好きやこの世界を志す人たちが集まっていたという。「ここでバイトをすると50円でDVDを借りられるとい特典もあり、週4、5日はシフトに入ってお金を貯めまくってました。それで70万円ほど貯めて52分の卒業制作映画『まぼろし』を撮ったんです。ここのバイト仲間は役者志望や映画美学校に通う子もいて、クリエイター志望も多かった。今も付き合いのある脚本家の畠山隼一さんは元々はここで出会ったバイト仲間です。映画に携わる仲間を『SHIBUYA TSUTAYA』で集めたって感覚は今もありますね」また、『SHIBUYA TSUTAYA』といえば数々のイベントが行われてきた。2002年2月22日に発売されたマイクロソフトのビデオゲーム機『Xbox』発売日には、同社の創設者、ビル・ゲイツ氏もやってきた。当日のイベントゲストとして出演したのはX JAPANのリーダー、YOSHIKI。記者は3日間ほど『SHIBUYA TSUTAYA』前に寝泊まりし、何千人もの行列のなかで2番目をゲットし、あまりの興奮にYOSHIKIの目の前を素通りして『Xbox』を持つゲイツ氏に駆け寄った。司会進行していたDJの赤坂泰彦氏に『おっとお、YOSHIKIは無視かあ!』とつっこまれたのが、今となってはいい思い出だ。
Xboxをビルゲイツに手渡され歓喜した筆者
10月31日から、『SHIBUYA TSUTAYA』は全フロア改装工事に入るため、一旦休業となる。来春のリニューアルオープン後は500席を有するカフェ&ラウンジとなり、さまざまなイベントが行われる空間になるという。令和の『SHIBUYA TSUTAYA』もまた、多くの人々が思いを寄せる場となってほしい。取材・文/河合桃子集英社オンライン編集部ニュース班