現役の静岡大学生のホストTさん(当時23歳)を集団リンチで“なぶり殺し”にし、逮捕者6人を出した静岡市葵区のホストクラブ「RE:MAKE(リメイク)」。イケメン揃いと評判ながら、ホストにテキーラなど度数の高い酒の一気飲みを強要したり、女性客の求めに応じて全裸接客を強いたり、高額の罰金を課するなど、乱倫営業を繰り返していた実態が浮かび上がった。これらを指揮していたのは、代表取締役の海野智哉容疑者(30)=源氏名・八神雅人=で、酒と暴力と罰金でホストたちを恐怖支配していたという。
「RE :MAKE」が前身の店名「INcentive」だった時代から常連だという30代の女性は取材に「いつかこうなると思っていました。ここで膿を出し切らないと、また同じことが繰り返されてしまう」と答えた。女性によると「RE :MAKE」に店名が変わったのは2020年ごろで、女性の担当ホストは今回の逮捕者に名を連ねているあるホスト。女性は「RE :MAKE」へは今年の夏ごろまで、ほぼ毎日通っていたという。
ホストクラブ「RE :MAKE」のエントランス(撮影/集英社オンライン)
「『RE :MAKE』は、誰も代表取締役の八神雅人に逆らえない絶対王政でした。ヒエラルキーでいうとその下に八神の弟の一条恋=海野和哉容疑者(28)=が位置し、今回亡くなったTくんを含め、他のホストは全員雅人を恐れていました。雅人は酒に酔ったり、機嫌が悪くなると本当に手がつけられなくなります。一部(午後19時~24時までの営業)ではわりと普通だけど、二部(午前4時~10時同)になり酒が回ってくると、その日のターゲットのホストを決めるんです」標的にされたホストは客が入れたシャンパンのボトルや、名物の「テキーラ観覧車」などで、延々と飲まされ続けたという。「酔い潰れてトイレで寝てしまっても、雅人の『おい! あいつ呼んでこいよ』の指令でターゲットは他のホストに羽交締めにされて連れ戻され、ふたたび酒を飲まされて“卓ゲロ”してしまうんです。もちろんTくんも例外ではなく、さんざん飲まされて気絶寸前のところに無理矢理テキーラやシャンパンを流し込まれ、“卓ゲロ”は日常茶飯事。さらに失禁や脱糞までしてしまうことも珍しくありませんでした」
八神雅斗こと、海野智哉容疑者(本人SNS)
もはや酒を凶器にした暴行である。だが、鉄拳を用いた暴力でも、「雅人」は限度を知らなかった。「雅人は酔っ払うと暴力も当たり前で、後ろからホストを蹴り上げたり、マイクで思いっきりぶん殴ったりする光景を何度も見ました。ホストに『おい、あいつやっちゃえよ』と他のホストを殴らせるように指示することも。去年の11月ごろには、キッチンのほうから『痛い!やめて!』という声が聞こえてきて、ホールに戻ってきたTくんの顔がパンパンに腫れ上がっていたことがありました。それを見た雅人は、殴ったホストに『ちょっとお前、やりすぎだって』とヘラヘラ笑っていました」
標的になったホストはTさんだけでなく、今回逮捕された容疑者たちも軒並み被害にあっていたようだ。根性焼きに加え、熱湯をかけられたり、肛門に爆竹を突っ込まれて点火されたり、目元を殴られて失明寸前になった者もいたという。
死亡したTさん(知人提供)
「それだけエグいことをされているのに、ホストたちに『え、大丈夫!? 何されたの?』と聞いても、雅人を恐れて『いやまあ、ちょっとね……』と答えてくれないことも多かったです。Tくんも『雅人さんが酔っ払うと、何されるかわからん』と怯えていました。それに加えて『RE :MAKE』のホストは寮に入って相互監視させられるので、とにかく自由がないんです」今年の2月ごろ、雅人が突然『ホストたる者、常にかっこよくないといけない』と、営業後にホストたちをジムに行かせたり、ロードバイクで何十キロも走らせる“強化”を始めたという。ここでも相互監視が恐怖政治をさらに強固にしていた。「ペアで監視し合っているので、泥酔していたとしても走らないといけないんです。営業が長引いた日は、そのまま寝ないで出勤する人たちも多かった。そんな過酷な日々が続いてみんな正常な判断ができなくなり、今回のような悲しい事件が起きたんじゃないかなと思いますね。でも、『RE :MAKE』のオーナーは、Tくんが亡くなって1週間も経たないうちに、知り合いのSNSに『イェーイ!』と楽しそうに飲んでいる姿が上がっていて、同業者たちも呆れていました」また、ほかの客の1人は「全裸営業」を間近に見たときの驚きを、こう振り返った。「8月ごろだと思いますが、古参の常連客が2人揃って来たことがあって、そのテーブルだけ、ついたホストが全員全裸で接客してたんですよ。その席には亡くなったTくんや逮捕された『それいけ!流星』=高野稔基容疑者(26)もついていて、今にして思えば肛門に挿したマドラーを使って水割りを作っていたような気がします。ちなみに雅人はその席にはいなかったし、裸にもなっていませんでした」
それいけ!流星、こと高野稔基容疑者(知人提供)
また、「RE :MAKE」の元従業員の20代の男性は、あらゆることに高額の罰金を設定してホストたちを苦しめる雅人の“悪魔的所業”をこう振り返った。「Tさんは卓ゲロして罰金5万円を取られたり、売掛をやってたお客さんが飛んじゃった(ツケを支払わずに行方不明になること)ときは、リメイクの系列の中華料理屋で出勤前に働かされていました。そのときの罰金は100万円はあったって聞いてます」売掛金を100万円もためていたのは、Tさんの優しい性格と営業スタイルによるものかもしれない。元従業員の男性が語る。
死亡したTさん(知人提供)
「Tさんは人がよすぎでしたね。売掛の客に飛ばれたのも非情になれなかったからだろうし。彼は一生懸命やって大学は卒業したいと言っていました。リメイクの営業は二部が午前11時ごろに終わるんですが午前7時に早く抜けて大学行ったあとに、また一部の午後8時から出たりとかしてましたね。本当にすごい真面目で、ナンバー(指名上位)に入ろうとがんばってたし、僕もめちゃめちゃ優しく教えてもらったんです」Tさんの客はおもに同じ静岡大の女の子だったり、「友営(友達営業)」が中心で、約15人のホストのうち、最高で6位にランキングされたことがあったようだ。しかし、そんなTさんを、雅人は意味もなくどつき回すのが常だったという。
「長年、店にいると、たいていの人は雅人さんに理不尽にぶっ飛ばされてますよ。捕まった寛さん(渡邊寛之容疑者)も、トイレで寝てしまって出てきたら目の周りが青あざになってたことがあって、まわりの人に聞いたら『あれ雅人さんだよ』って。雅人さんはお酒を飲んでいないときはまあまあ普通なんですけど、やっぱ“酒ヤクザ”なんで、飲んでるとけっこう手をあげちゃうんです。弟の恋さん以外の従業員はほとんど手をあげられていましたね」雅人と恋の海野兄弟、そして「それいけ!流星」こと高野容疑者の3人は、Tさんが命を奪われたマンションとは別の、葵区のアパートの一室を寮にして同居していた。元従業員によれば下戸で滅多に酒を飲まない流星が白いアルファードを運転して送迎していたという。近くに住む女性はこう語った。
海野兄弟容疑者と高野容疑者が住んでいたアパート(知人提供)
「彼らは2021年ごろからこのアパートに住んでいたと思います。ふだんから4~5人が出入りしていて、被害者の方も見たことありますよ。近くで夏祭りがあったときに十数人のホストの方たちと来ていましたから。そのときはみんな仲よさそうだったけど、昨年末から今年の春にかけて何度もアパートから『お前何やってんだコラ』という怒声や暴力を振るうような打撃音に加え、男性の『やめて』という悲鳴が聞こえたことがありました。9月に入って警察の方が尋ねに来るようになってからは、ぱったりと人の出入りはなくなりました」配下とともに捕らえられた暴君は、秋の夜長の留置房で何を思うのか。※「集英社オンライン」では、今回の事件について取材をしており、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected]X(Twitter)@shuon_news取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班