先日、公益社団法人日本介護福祉士養成施設協会が、2023年度における介護福祉士養成施設の入学者数を発表しました。
今年度の総入学者数は6,197人で、そのうち外国人は1,802人。日本人の入学者数は、新卒者で3,930人、離職者訓練受け入れ数が465人となっています。総入学者数、新卒入学者数は、調査が開始された2006年以降で最も少ないです。
新卒者で介護福祉士養成施設に入学する日本人の数は、10年前(2014年)の8,464人の約半数。15年前(2006年)の1万9,289人の約5分の1程度です。
日本の高齢者人口は年々増え続け、要介護認定者数も増加しています。内閣府『令和3年版高齢社会白書』によると、65歳以上で要介護認定を受けている人の数は、2009年当時では469.6万人、2018年には645.3万人まで増加しました。その一方で同時期、介護福祉士養成校への入学者数は、右肩下がりえ減り続けていたわけです。人材ニーズが年々高まっているのに、介護福祉士を目指そうという学生は年々減っているのが現状なのです。
入学者減にともない、養成施設としての役割を果たす大学、専門学校の数も減少。今年度の養成施設数は296施設で、昨年度よりも18校減少。令和元年度からの5年間で79校も減っています。定員数も2006年以降で最小となる1万2,089人。それでも定員充足率は51.3%と約半数に過ぎません。
なぜこのような事態が生じているのか、以下で考えてみましょう。
介護福祉士は、介護分野における日本唯一の国家資格です。ケアマネージャーの資格は介護福祉士の上位資格に位置づけられていますが、国家資格ではありません。介護職として働く場合、介護福祉士の資格取得は一つの目標になるとも言えます。
介護福祉士は豊富なスキル・知識をもとに、介護のプロとして要介護者、介護者の双方を支える専門職であり、介護現場ではリーダー的存在としての役割も求められます。具体的な仕事内容は以下の通りです。
介護現場で実際に介護を担うことから、きつい、大変とのイメージをもたれやすいです。しかし利用者から感謝されることが多く、やりがいのある専門職でもあります。
介護福祉士の資格を取得するには、最終的に介護福祉士の国家試験に合格しなければなりません。しかし誰でも受験できるわけではなく、受験資格を得るには「養成施設ルート」「実務経験ルート」「福祉系高校ルート」「経済連携協定(EPA)ルート」のいずれかを経る必要があります。
そして今回注目されているのは、これらのルートの一つである「養成施設ルート」における養成施設への入学者減です。
介護福祉士になるための「養成施設ルート」では、養成施設への入学が必要です。養成施設は、大学や短期大学における介護・福祉専攻の学部・学科、もしくは専門学校が指定されていて、大きく分けて以下の2種類があります。
メインの入学者となるのは、高校もしくは大学の新卒者です。それまで福祉の勉強をしていなかった新卒者は2~4年制養成施設に入学し、すでに福祉を学んで素養のある新卒者は1~2年制養成施設に入学する、という形になります。そこで学んで所定のカリキュラムを受講して卒業すると、国家資格である介護福祉士の受験資格を得るわけです。外国人の場合、在留資格「留学」にて養成施設で学ぶことができます。
介護福祉士養成施設への入学者減の要因として指摘されているのが、介護職に対するイメージの悪さです。
例えば、「十勝毎日新聞」(2015年1月22日)には、帯広市にある介護福祉士養成校である2つの短大に学生が集まらず、窮地に陥っていることがニュースとして取り上げられています。
その内容によると、学生が集まらない理由として両校の関係者が口をそろえて話していたのが、「介護はきつい仕事」などのマイナスイメージが先行していることです。そのマイナスイメージの要因としては、仕事内容がきついこと、そして仕事が大変なのに賃金が安いこと、が大きなポイントとして挙げられます。
また、若い新卒者にとっては、人を援助する仕事として「看護師」など選択肢が豊富にあります。記事によると、大学から高校に募集活動を行っても、高校側から「10人のうち9人は看護師を選ぶ」との声もあると言います。また、学生自体もさることながら、学生の親が自分の子どもに介護職を勧めたがらない、ということも起こっているようです。。
差し当たって国・自治体が取り組める対策としては、介護職に対するイメージ改善策の見直しです。
厚生労働省では以前から、介護職のイメージ刷新の取り組みを進めています。例えば令和3年度の場合、「介護のしごと魅力発信等事業(若年層向け)」として、専門家による学校への出張授業、映像・動画作成、オンラインイベント、マルチメディア展開による周知広報などを実施しています。
しかし、これら事業活動の成果が、「介護福祉士養成校への新卒者の入学者増」と直結していないのが現状です。「介護職はやりがいのある仕事」と訴えても、その場では社会に貢献できる仕事と理解しても、そこから「養成校に入学する」という実際的な行動につながりにくいのが実態と言えます。
イメージ改善への取り組みの量・質のあり方を、「介護福祉士養成校に入学したい」と思ってもらえる内容に改善・シフトしていくことが、入学者減に歯止めをかける一つのポイントと考えられます。
介護福祉士・介護職へのイメージ改善を図る場合、やはり大きなポイントとなるのが、「待遇が良くなっている」とのイメージです。
この点、データでも表れています。介護福祉士養成施設への入学者数は、2014年~2018年にかけて急速に減少していましたが、2019年~2022年度にかけて、多少ですが持ち直して微増していました。日本人の新卒入学者数は、2020年度で3,941人、2021年度で4,288人、2022年度で4,296人となっています。その後2023年度になって、再び急速に減少(3,930人)したわけです。
2019年に減少傾向を持ち直した要因として考えられるのが、2019年10月に新設された「介護職員特定処遇改善加算」の影響です。この加算は、勤続10年以上の介護福祉士などを対象に処遇改善を図るための加算で、「月8万円相当の処遇改善を図る」という方針で策定されました。
この介護職員特定処遇改善加算は、導入に至るまでのプロセスも含めてマスコミなどで大きく報じられ、「介護福祉士の給与額が上がる」とのイメージを少なからず社会にもたらしました。その時期と、養成施設への入学者増の時期は重なっているのです。
しかし、策定後3年経過してそのインパクトは減っているとも言えます。とはいえ実際に現在も介護福祉士の給与額は上昇し続けており、この点をもっと周知徹底できる活動が必要と言えるでしょう。
今回は介護福祉士養成校の入学者数が2006年以降最低となったニュースについて考えてきました。介護人材へのニーズが高まる中、若者に介護福祉士・介護職を目指してもらおうとすることは、日本社会全体における喫緊の課題と言えます。