「箱の中からミサイル発射!」コンテナにしか見えない新発射システム 戦術を一変か? 自衛隊にも大きな影響が

アメリカ海軍が画期的な戦闘システムの実射試験に成功しました。このコンテナ型のミサイル垂直発射システムMK 70が本格配備されると、海戦のみならず陸戦も含めて戦闘の様相が一変するかもしれません。
2023年10月24日(火)、アメリカ海軍はインディペンデンス級沿海域戦闘艦(LCS)の「サヴァンナ」で、艦対空ミサイルSM-6の発射試験を実施したと発表しました。
軍艦からミサイルを発射するのは普通のことでは、と思われるかもしれません。しかし、「サヴァンナ」を含めたインディペンデンス級LCSには、これまでSM-6のような長射程の対空ミサイルを収める垂直発射装置(VLS)がありませんでした。要は、こうしたミサイルを撃てる能力がなかったのです。
では、「サヴァンナ」は今回どのようにしてSM-6を発射したのでしょうか。その答えは、船体後部に位置する広大なヘリコプター用の飛行甲板にあります。ここに、コンテナ型VLS「MK 70」を設置し、そこからSM-6を撃ち出しました。このMK 70を軍艦に搭載し、実射を行ったのが今回、注目すべきポイントです。
「箱の中からミサイル発射!」コンテナにしか見えない新発射シス…の画像はこちら >>アメリカ海軍のインディペンデンス級沿海域戦闘艦の14番艦「サヴァンナ」(画像:アメリカ海軍)。
MK 70は、アメリカの大手防衛関連企業であるロッキードマーチン社が開発したコンテナ型VLSです。全長約12m(40フィート)あるコンテナ内部には、現在イージス艦などに装備されているMK 41 VLSが組み込まれており、コンテナ1つ当たりミサイル4発を装填できます。
加えてMK 70は、洋上の艦艇のみならず、トラックけん引式のトレーラーに搭載することで、地上からの発射機として用いることも可能です。実際、アメリカ陸軍では長射程の巡航ミサイル「トマホーク」などによる攻撃能力を獲得すべく、MK 70に若干の改修を加えたミサイル発射システム「タイフォン」を装備する部隊を新設します。
このように、MK 70を活用すれば、これまで長射程ミサイルの発射能力を持たなかった艦艇や地上部隊に、そうした能力を容易に付与することができるようになります。その点では、非常に革新的なシステムだといえるでしょう。
また、一定の大きさを持つ無人舟艇にMK 70を搭載すれば、有人艦艇の活動を積極支援するロボット戦闘艦へと昇華させることも可能です。すでにアメリカ海軍では、2021年に試験中の無人水上艦「レンジャー」にMK 70を搭載し、そこからSM-6を発射する試験を実施しています。
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戦闘艦「サヴァンナ」に搭載したコンテナ型VLS「MK 70」から放たれた対空ミサイルSM-6(画像:アメリカ海軍)。
MK 70が持つ意義は、単にミサイル発射能力を与えるということだけにとどまりません。これまでなら搭載がほぼ不可能だった艦艇でも、長射程ミサイルの発射能力が付与できるようになったことを意味します。
これは敵からすると、あらゆる艦艇の動向に注意を払う必要があるということに繋がります。そうしなければ、いつどこから巡航ミサイルや対艦ミサイルが飛んでくるか、把握できないためです。
しかし、このような動向監視を実行に移すためには、ISR(情報・監視・偵察)能力をフル活用しなければならず、これには極めて多大な労力を要します。従って、敵軍のISR能力に大きな負荷をかけることが期待できます。
また、艦隊内のイージス艦を始めとした防空艦を軸にMK 70搭載艦をネットワークで結ぶことができれば、状況に即して最適な位置に展開している艦艇からミサイルを発射できるほか、仮にイージス艦がミサイルを撃ち尽くしたとしても、MK 70搭載艦のミサイルをイージス艦が誘導することで、戦闘を継続することが可能になります。つまり、MK 70があれば、艦隊内における各種ミサイルの運用数を底上げできるのです。
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トレーラー搭載型のコンテナ式VLS「タイフォン」(画像:アメリカ陸軍)。
こうしたMK 70の意義は、おそらく防衛省/自衛隊にとっても無関係ではないと筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。たとえば、コンテナ搭載スペースを有する艦艇にMK 70を搭載すれば、あらゆる事態に対応する能力を幅広い艦艇に与えることができます。
加えて、今後自衛隊が整備する「スタンド・オフ防衛能力」(敵の射程圏外から長射程兵器により安全に攻撃する能力)に関しても、とくにトマホークの発射能力を艦艇のみならず陸上自衛隊の部隊にも比較的簡単に与えることが可能となり、運用の柔軟性も広がるでしょう。
とはいえ、もちろんMK 70にも問題はあります。たとえば「サヴァンナ」が良い例ですが、MK 70を飛行甲板に設置すると、ヘリコプターの運用能力に著しい制約が課されます。新しい能力を得るために既存の何かしらの能力を失うとすれば、そのどちらを選択するべきか、状況に即した判断が求められることになるでしょう。