ICTリテラシーに対応した教育資格制度が必要か。日本ケアテック協会が社保審で提言

10月2日、社会保障審議会・介護給付費分科会の場で、日本ケアテック協会が介護のICT化に向けて新たな教育資格制度を設けて、取得状況に応じて加算で評価していく制度の導入を提言。その内容に注目が集まりました。
それに加えて、求められるICTリテラシーと、現行の介護分野の資格との間にあるギャップも指摘。介護福祉士、社会福祉士、ケアマネージャーといった既存の資格の取得過程では、ICTリテラシーは身につかないと問題視しています。
日本ケアテック協会は会議の場で、このような現状を変更し、介護現場にICTリテラシーに関わる新資格制度の設立を提言。さらに介護現場を支援するため、ICTに関わる補助、加算の強化・設置も提案しました。
介護人材が不足し、現場における生産性向上が求められている現在、ICTの活用は介護分野では不可欠です。しかし、具体的にどのような形で介護職のICTリテラシーを向上させていくのかについては、まだまだ議論が重ねられている段階。本格的な仕組みづくりもこれから、という状況と言えます。
ICTとは、Information and Communication Technoligyの頭文字を取った言葉で、日本語に直すと「情報伝達技術」という意味です。
ITが情報技術を意味し、インターネット・ネットワークに関わる技術そのものを意味するのに対し、ICTはIT技術を活用して、情報のやり取りをする技術を指します。Web会議システム、クラウドサービスなどがその一例です。ICTリテラシーに対応した教育資格制度が必要か。日本ケアテッ…の画像はこちら >>
介護分野であれば、管理業務へのクラウドサービスの活用、介護現場における見守りセンサー、バイタルセンシング、排泄予測システムなどがICTに該当します。
現在、IoT(Internet of Thingsの頭文字で、様々なモノがインターネットに繋がる仕組みのこと)による見守りセンサーは介護分野でも普及しつつあります。これは老人ホームなどの居室内(ベッドなど)にセンサーを設置し、ネット経由でいつでも生活状況を確認できるというもので、導入により夜間の見守り・巡回の負担を減らすことが可能です。
こうしたICTの活用により、介護業務を大幅に効率化できるのは間違いないでしょう。国は現在、あらゆる業界でDX化を進めていますが、介護業界は重要対象の1つと考えられています。
※DXとは「Digital Transformation」の略称で、 経済産業省ではDXを以下のように定義しています。 「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
現実として介護業界全体を見渡した場合、ICT化は進んでいるとは言えない状況です。
総務省の「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究」(2021年)によると、DXの取り組み状況を業界ごとに見た場合、介護事業者を含む「医療・福祉」では、現時点で実施していない事業者の割合は約9割に上っていました。
「情報通信業」「金融業、保険業」では取り組みが進んでいるのに対し、「医療、福祉」「運輸業、郵便業」「宿泊業、飲食サービス業」などでは取り組みが進んでおらず、特に「医療、福祉」は、DX化を実施していない事業者の割合が全業界内で最多です。
「医療、介護」業界では、2018年以前からDX化を実施している事業者は5.4%に過ぎません。これも全産業の中で最も低い数値です。
マスコミなどでは、ICTを活用している介護施設などが取り上げられることも増えてきましたが、そのような施設は全体としてみるとまだまだ少数であると言えます。なお、2番目に低いのは「宿泊業、飲食サービス業」ですが、それでも10.0%と「医療、福祉」の倍近い数値。「医療、福祉」は全産業の中で、特に取り組みが進んでいないという状況です。
DX化・ICT化が進んでいない現状に対し、日本ケアテック協会が提言したのは以下の4点です。
中でも注目点の1つが、「ICT教育・運用サポートの充実」の中に含まれている新資格制度の創設を含む教育体系の刷新です。「管理職」「ケアを担う職員」「事務職員」それぞれの役職に取得すべき資格を定め、取得を促すための補助・加算の設定も提言されています。
日本ケアテック協会の資料では、IoTを介護現場に導入したことで、ケアマネの業務にどのような変化があったのかを調べる調査結果(N=27)も掲載されています。
調査対象となったのは、東京電力パワーグリッド株式会社、株式会社ウェルモが開発したセンサーです。このセンサーはAIを内部に搭載し、在宅介護を受けている要介護者の生活リズムを把握し分析できる装置。その利用によりケアマネの業務にどのような変化があったのかを、アンケートにて尋ねています(複数回答)。
調査結果によると、ICT機器の活用によって「ケアプランの質向上」(67%)「ケアプランの見直しの効率化」(59%)「モニタリング訪問の時間削減」(22%)など、業務効率化につながるとの回答が多数見られています。
さらに直接ケアマネの声を聞いたインタビューの内容も掲載され、「担当者数の上限が撤廃されて50~60名を受け持つことになる場合、毎月利用者宅を訪問するのは困難。こういったシステムで代替できれば有難い」「データを見て自分で確認できるので、(状態変化などの)気付きが早くなる」などの意見があったと言います。
さらに日本ケアテック協会によると、介護領域でICTを活用する取り組みは、諸外国においても進んでいると言います。
日本以外の国でも、ぞくぞくと介護領域のICT化は進められているわけです。諸外国に比べて特に高齢化が進んでいる日本。そうした日本こそ率先して介護分野のICT化に資する技術開発、普及を進め、各国の模範・モデルとなれるようなケアシステム作りを進めていくことが必要ではないでしょうか。
今回は社会保障審議会・介護給付費分科会の場で出された日本ケアテック協会の提案をもとに、介護業界のICT化について考えてきました。ICT化を全国的に浸透させるには、介護業界のニーズに合わせた技術の開発と同時に、介護事業者がコスト面の問題をクリアして導入可能で、かつ介護職が問題なく技術を活かせるようなスキルを持つことも必要です。この点、まだまだ課題は多いのが現状とも言えます。