ホストの沼にハマり、人生を狂わされた元保育士の大山マナミさん(27歳。仮名、以下同)。現在、彼女はホストクラブでつくった借金を返すために定期的に海外の風俗へと出稼ぎに行く生活を送っている。悪徳ホストは当人はもちろん、その家族の精神をもズタズタにすることを、前編で母、チカコさんの訴えとともに紹介した。後編では父親のシゲルさん(54歳)に話を聞く。
会社員のシゲルさんは仕事が忙しく、娘の教育は妻にまかせきり。それでも娘のマナミさんが「ホストと付き合っている」と聞いたときは、衝撃を受けた。「マナミは妻の教育もあって、幼いころから穏やかで優しく、女の子らしい子どもでした。それだけに、妻からホストと付き合っていることを聞いて、騙されているのではと心配になりました」(シゲルさん、以下同)
ホストの沼にハマってしまったマナミさん(両親提供。以下同)
その心配が現実のものとなるまで、そう時間はかからなかった。「マナミがホスト通いで朝帰りが多くなってしばらくして、今度は名古屋に引っ越すと言い出しました。もちろん反対しましたが、あるとき娘からの電話でR(ホストの彼氏)も電話口に出て『娘さんのアパートの保証人になってほしいので、お父さんお願いします』なんて堂々とした口調で言うんです。そのときは突っぱねましたが、結局『Rが家賃を一部負担する』という条件で丸め込まれてしまいました」
マナミさんとR
Rの影響で髪を染めるなど、どんどんと派手になっていくマナミさんを見て、シゲルさんは「水商売の女性のようになっていった」と振り返る。事実、そのころのマナミさんは保育士を辞め、“副業”と称して風俗で働いていた。
その後、クレジットカードの未払いの督促状が実家に届くようになったことは前編で触れたとおりだが、それと同時に、Rと半同棲していた名古屋のアパートの家賃が3、4ヶ月滞納されていることが明らかになる。「私がアパートの様子を見に行くと、Rがひとりで部屋にいたので、『家賃払ってねぇじゃねーか!』と怒りました。するとその後、家賃は支払われるようになったんですが、今度はふたりで保証人不要の物件に無断で引っ越して。新しい住所を調べて部屋に向かうと、再びRがひとりでいたのでつい頭にきて『ホストなんて社会のゴミだろ!』と怒鳴ったんです。さすがにそのときばかりはRは不服そうな顔をしてましたね。それをマナミに告げ口したようで、実の娘から着信拒否とLINEのブロックをされてしまいました」
取材に応じてくれた大山さん夫婦
以降、父娘でしっかりと言葉を交わしたことはないが、愛娘を思う気持ちは変わらない。だからこそ娘の人生をメチャクチャにしたRが許せない。「小さいころから仕事ばかりで『いまさら父親ヅラするな』というマナミの気持ちもわかるのですが……」と前置きして、シゲルさんは言う。「マナミの使わなくなったスマホ端末などから風俗勤めの決定的証拠となる写真などを目にしてしまったときは、心の中でガラガラと何かが崩れていくような思いでした。Rと出会って一番許せなかったのはこのことだったかもしれません。大切に育ててきた娘を食い物にされたのですから……」
風俗嬢をするマナミさんの紹介ページ
マナミさんは現在、日本より稼ぎがいいという理由で定期的に海外の風俗へ出稼ぎに行っている。「最初に家を出たときに、私はお金がパンクすれば家に戻ってこざるをえないだろう、という甘い考えがありました。しかし、まさか海外の風俗に出稼ぎに行くなんて…。娘にそんな行動力があるなんて知りもしませんでした。Rと出会って2年半で娘の人生は180度変わってしまった。私もこれが詐欺や刑事罰にあたらないことはわかってます。でも、詐欺じゃないからいいのか、という思いがあるのも事実なんです」
実際、このような悪徳ホストを法によって取り締まることはできないのか。ホストやキャバクラなど風俗業界のトラブルに強いグラディアトル法律事務所の若林翔弁護士は、このような見解を示す。「仮にマナミさんに、Rやその知人が直接的に風俗店や海外の風俗の出稼ぎ先を紹介していたとしたら、売春防止法違反(売春の周旋)や職業安定法違反(有害業務の紹介)に該当する可能性があります」では、マナミさんが抱えているであろう莫大な売掛金に支払い義務はあるのか。若林弁護士は続ける。「具体的な金額や、ホストとのやりとりの状況によっては、公序良俗に反するとして支払義務が否定される可能性もあります。その場合、マナミさん、ご両親としては、弁護士にホストクラブ側との交渉を依頼して、売掛に至った経緯やその総額、海外出稼ぎに関する斡旋行為の有無などを明確にする必要があると思います」
マナミさんはいつか目を覚ますときがくるのか
若林弁護士の元にもここ2、3年、ホストトラブルに関する相談は一定数あるという。しかし、売掛金を直接的に規制する法整備はまだない。一刻も早く法整備がなされないと、今後も大山さん一家のように人生を、家庭を壊されてしまう人たちが後を絶たないだろう。取材・文/河合桃子集英社オンライン編集部ニュース班