世界的なホテルチェーン「ヒルトン・ホテルズ&リゾーツ」がウェブ上で公開した日本向けのPR動画が「旅館を貶すような内容」であるとして炎上し、動画が非公開にされる事態となった。
問題となっているのは、ヒルトンが10月24日に公式YouTubeチャンネルなどで公開した動画。「とまるところで、旅は変わる。予定でいっぱいの休暇」篇と題した30秒ほどの動画で、カップル風の男女が休みに旅館を訪れるという設定だ。
旅館では、女将とみられる女性が受付で「次にご入浴は5:00~23;00までになります」「ご夕食は18:00にお部屋にお持ちいたしますので、必ず21;00までに食べ終えてくださいませ」「朝食は7:00から10:00まで、ラストオーダーは9:30。8:00ごろは大変混み合います」「チェックアウトは朝10:00、こちらが部屋の鍵になります」と早口でまくしたて、カップルは困惑の表情に。そこに「せっかくの休みなのに、まったくゆっくりできないとき」とナレーションが入り、ヒルトン系列のホテルの中でも上級ブランドであるコンラッドホテルに場面が切り替わる。
どこかこぢんまりとしていた旅館から一変。夜景がのぞめる豪華で広々としたラウンジで先ほどの男女がくつろぎ、写真を撮って盛り上がっているところにホテルマンが「ごゆっくりされるならディナーの時間をずらしますよ」と柔軟に提案。男女が「いいんですか!」と感動の声を上げ、「とまるところで、旅は変わる」というナレーションと共に動画は終了する。
これに対して、ネット上で「旅館は融通きかなくて、ホテルは顧客に寄り添うみたいな演出が悪質すぎる……」「気分悪くなった。ヒルトンって世界的企業なのに旅館を落とさないとPRできないの?」「これにOK出すってことは、ヒルトンは日本人や日本文化馬鹿にしてるんだろうな」「レストランで食べるホテルと部屋に食事持ってきてくれる旅館を比較しても意味がないし、宿泊価格も全然違うでしょ」などと批判的な意見が続出。旅館業を営んでいるという人たちからも「ただのルール説明なのに旅館はサービスレベルが低いみたいに見せてるのはホントに悪質だし、イチ旅館オーナーとして遺憾に思います」などと抗議のコメントが寄せられ、炎上状態となった。
単にヒルトングループのホスピタリティをアピールするだけなら問題なかっただろうが、まるで旅館はサービスの質が低く、くつろげない場所であるかのように描かれたことで反発が大きくなったようだ。また、旅館のシーンでは照明が切れかけてチカチカと点滅しているなど、豪華なコンラッドホテルと比較するための「過剰演出」が見受けられ、それも印象を悪くする要因となった。
この事態を察してか、ヒルトン側は問題の動画を非公開とし、現在は閲覧できない状態となった。
今回の動画については、アメリカなどの海外でよくある「比較広告」の一種だとも指摘されている。有名な「ペブシコーラvsコカ・コーラ」のバトルをはじめ、ライバル企業を貶めるような演出で自社商品をアピールするCMは海外だと決して珍しくない。だが、日本人にはなじみがなく、自社の優位性を示すために他社を貶すような内容は「不愉快」と感じる人が多いようで、あまり露骨な比較をしている広告は見かけない。これは国民性の違いといえるかもしれない。
しかも、ヒルトンは「日本に進出してきた」という立場であり、本来なら日本人に寄り添って信頼関係を築いていくべきなのに、日本の伝統である旅館を悪く描いてしまうと、「本心では日本文化をバカにしているのでは」と疑われかねないだろう。また、ネット上では「ヒルトンが比較広告をやりたいならリッツ・カールトンやハイアットとかを対象にすべきで、旅館相手じゃ弱いものいじめに見える」という指摘もある。今回の結果を見ても、外資系ならではの発想である「比較広告」を日本で展開するのは難しい部分があるようだ。