ヤマハの新型バイク「XSR125 ABS」は20歳の大学生に最適? 企画担当に聞く

ヤマハ発動機はネオレトロな外観が特徴的な「XSRシリーズ」の最小排気量モデル「XSR125 ABS」を発表した。初心者でも扱いやすくて運転が楽しいバイクを目指したというが、具体的にはどんなバイクに仕上がっているのか。販売戦略を含め商品企画の担当者に話を聞いた。

○丸型ライトで「ネオクラシック」を表現

「XSR125 ABS」は「ネオクラシック」のデザインを採用している。スーパースポーツとクラシックを融合させた、近年人気が高まっている外観だ。ヘッドライトとリアテールランプは丸型で統一。最新モデルでありながら、どこか懐かしさを感じさせる姿となっている。

走行性能には抜かりがない。車体フレームには縦、横、ねじれ剛性の相互バランスに優れ、操作性向上に寄与する「デルタボックス型フレーム」を採用。また、アクセルの開け具合に応じて全域で良好な出力とトルク特性を発揮する「Variable Valve Actuation」(VVA)を搭載している。さらに、クラッチレバーの引っかかりや重みなどを低減する「Assist&Slipper(A&S)クラッチ」を実装することで、ストレスなくシフトチェンジを楽しめるような設計となっている。

二輪車は移動手段でもあり、趣味性が高い乗り物でもある。XSR125 ABSの凝ったデザインと運転そのものが楽しめる設計は、購入者の所有する楽しみ、乗る楽しみを増幅してくれるに違いない。

○20歳の男子大学生がバイクデビューするのに最適?

ヤマハの商品企画担当者は、XSR125 ABSを市場に投入する理由を次のように説明する。

「二輪車の世界では速さを極めた『スーパースポーツ』、レトロな外観を持つ『クラシック』、さらにはスーパースポーツとクラシックを融合させた『ネオレトロ』の3つの人気が高まっています。ヤマハでは日本国内での原付二種(排気量51cc~125cc以下の二輪車)の変速ギア付きモデルの出荷台数が2019年以降増加傾向にあり、その中でも20代を中心としたお客様が増えています。そこで、ネオクラシックな原付二種を投入することにしました。それが『XSR125 ABS』です」(以下、カッコ内はヤマハの商品企画担当者)

XSR125 ABSが若いライダーに刺さるというのがヤマハの読みだ。

「XSR」はネオクラシックな外観を特徴とするシリーズで、700ccや900ccなど、乗るのに大型二輪免許が必要なモデルはすでに販売中。いずれも購入者層は若い傾向にあるそうで、XSR700でいえば10~20代の購入者は全体の25%に達するとのことだ。XSR900も同様だという。

XSR125 ABSの投入にあたっては「具体的なターゲットを設定することで、バイクの魅力をより明確に伝えられるようになったと思います」と前述の担当者は話す。

「開発のコンセプトは『Arouse One’s Freedom』(自由を呼び覚ませ)です。さまざまな走行シーンに耐えうる車体とエンジンを搭載し、旅にでかけたくなるようなデザインをバイクに込め、自由度の高さを表現しました。大型二輪車よりも価格を抑えられる125ccクラスなので、バイク初心者にも最適だと思います。そのため『20歳の男子大学生が初めて買うバイク』をひとつのモデルケースとして想定しています。旅だけでなく、通学や買い物などにも気軽に使えて、これまで行けなかった場所に行けるようになり、行動範囲が拡大し、生活がより豊かになる。そんなバイクを目指しています」

では、XSR125 ABSのこだわりは?

「見た目のカッコよさはもちろん、パーツの精密さ、バイクとしての質感の高さにもとことんこだわりました。特に、所有するモノにこだわりのある若いライダーにも十分に満足してもらえる質感を目指しました。それと同時に、気軽さも感じとってもらうため、ライダーに圧迫感を与えないようスリムな燃料タンクを採用するなどの工夫も盛り込んでいます。ただし、小排気量だからといって、頼りがいのないバイクになってしまっては商品価値がありません。そこで、フレームやマフラー、アンダーガード、フロントフォークなどを太く大きめに設計し、大排気量モデルと比べても遜色のないたくましさを表現しました」

○バイクブームの現状は?

数年前まで、二輪車市場は縮小傾向にあるといわれてきた。地方での移動はもっぱら四輪乗用車(軽自動車含む)だし、都市部では公共交通機関が便利なので(駐輪場も少ないし)、わざわざバイクを買う人が減っていたからだ。もっといえば、都市部を中心に貸し出しスポットが急増している電動キックボードも合わせて活用すれば、移動には困らない。そんな事情もバイク需要を圧迫していた。

ところが、大型二輪を含む二輪免許の取得者はここ最近、増加傾向にある。警察庁の免許統計によれば、2017年に比べると2022年の国内二輪免許取得者数は31%も増加しており、10代から60代以上のすべての世代で取得者数が増えている。コロナ禍を経て、密を避けた移動手段としてバイクが注目を集めた結果だろう。

実際、一度目の緊急事態宣言が明けた直後、筆者が勤務していた教習所には多くの二輪免許取得希望者が殺到した。予約システムがパンク寸前となり、教習手続きを制限しなければならないほどの盛況ぶりだった。18歳の高校生、テレワークで何もやることがないという40代の管理職、定年を迎えた年金生活者など、あらゆる世代が二輪免許を取りに来ていた印象だ。

パンデミックが理由だとしても、結果として多くの人が二輪車の魅力に気付き、市場が拡大したことは間違いない。

行動制限がなくなった現在は、バイクを趣味にする人がコロナ禍前よりも明らかに増えている。販売台数も増加傾向で、日本自動車工業会の調査レポートによれば、2020年から2021年にかけて51~125cc、126~250ccといった小排気量モデルが多く売れているらしい。特に51~125ccは、年間12万台を超える勢いだ。

バイクは排気量が400ccを超えると、車検があるため維持費が高額になってしまう。ただ、原付一種(排気量50cc以下)だと物足りない。原付二種(排気量51cc~125cc以下の二輪車)は車検がなく(厳密には250ccも車検がない)、維持費が抑えられる一方で動力性能が高く、人気がある。こうした背景もあり、二輪車メーカー各社は125ccに注力しているわけだ。なお、ヤマハは「125ccクラスのバイク市場は今後、横ばいかわずかに微増となるのでは?」と分析している。

○250ccを検討しているライダーにもオススメ!

ただし、不安な要素がないわけではない。それは50.6万円というXSR125 ABSの価格だ。同じ排気量でライバルとなりそうなホンダ「CB125R」は47.3万円、スズキ「GSX-R125 ABS」は45.32万円。それらと比べるとXSR125 ABSは若干高い。それでいて、販売計画台数は年間3,000台(ヤマハの他モデルは1,000台前後が多い)と強気だ。この点について前述の担当者はこう説明する。

「125ccのバイクとしてみれば、確かに高いかもしれません。しかし、それに見合うだけの質感や走行性能があります。実車に触れて試乗していただければ、この価格でも満足いただけると思いますし、250ccクラスを検討している人にも振り向いていただけるモデルだと考えています。高速道路は走行できませんが、250ccクラスのバイクよりも安く購入できますし、見劣りのしない質感、走行性能、125ccならではの取り回しの良さなど魅力は豊富です。初心者ライダーには最適な1台といえるのではないでしょうか」

250ccのバイクを検討しているライダーにとっても、XSR125 ABSは絶好の選択肢になるとヤマハ。排気量という垣根を超えてライダーに訴求できる1台に仕上がったことへの自信が、価格や販売計画台数にも表れているのだろう。

筆者の肌感覚として、125ccは通勤や通学、近所の買い物などには重宝するが、長距離には向かないという印象が強い。実際に125ccの他社製ネイキッドバイクで東京~大宮間の往復約70kmを走行したことがあるが、それでもかなり疲れた。しかし、XSR125 ABSは、週末に1泊程度のひとりツーリングも余裕でこなせてしまう高い走行性能を有しているとの話だ。

室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら