[大弦小弦]足元を知る

琉球王国時代の石畳道や沖縄戦当時の収容所を示す跡、拝所-。宜野湾市の野嵩1区自治会が先月開いた、地域の歴史を学ぶウオーキング大会は参加した住民も驚きの連続だった
▼公民館前の道路を歩いてすぐの住宅で、ガイドの桃原正秀さん(78)が足を止めた。建物脇には小さな香炉。集落の火の神を祭っていると聞いた住民は「いつも車で通る道だけど知らなかった」と目を丸くした
▼集落の中を歩くと、桃原さんが再び立ち止まった。その住宅のヒンプンには「32」と刻まれていた。収容所を管理する米軍が当時付けたハウスナンバーで、唯一現存しているという
▼桃原さんは「沖縄戦で米軍は上陸後、野嵩を収容所として戦時中は攻撃対象とならなかったため、さまざまな歴史遺産が残っている」と語った。約2時間で4キロメートルを歩いたが、紹介できたのはごく一部だ
▼目的地へと急ぐ車窓からでは気付けない。ゆっくりと歩を進め、立ち止まることで知ることができる。足元の歴史を学びながら、それは社会でも同じではないかと、ふと思った
▼浮かんだのは「慶良間や見いゆしが まちげぇ見いらん」という黄金言葉。せわしなく生きていると、つい見過ごしてしまうものもある。一度立ち止まることで、身近な大切なものに気付ける。歩きながら、そんなことを考えた。(伊集竜太郎)