「悪ふざけじゃなくて“犯罪”と伝えること」相次ぐ迷惑動画を防ぐためにすべき“親の務め”

2023年になって2カ月が過ぎようとしているが、喜ばしくない“トレンド”が連日取り沙汰されている。若者たちによる“迷惑動画”だ。
1月上旬から中旬にかけて、回転寿司チェーン「はま寿司」で「他人の寿司を横取りして食べる」や「他人が注文した寿司にわさびを乗せる」様子を撮影した動画がSNS上で拡散することに。これらを皮切りに、飲食店やカラオケ店などでの迷惑行為を撮影した動画が続出。
極めつけとなったのが、1月下旬に回転寿司チェーン「スシロー」の店舗内で、少年が醤油のボトルや湯呑みを舐め回す動画。この動画が拡散されると、ネット上から「もう行けない」といった声が相次ぎ、スシローは時価総額が一時170億円も下落するなど大打撃を受けることに。
スシローは少年とその保護者から謝罪を受けるも、警察に被害届を提出し、刑事と民事の両面で厳正に対処していく方針を発表している。
2月に入っても、牛丼チェーン「吉野家」で卓上の紅生姜を直箸でかきこむ動画や、はま寿司でガリを直箸で食べる動画などが相次いで報告されている。“ガリ食い”に関しては、当事者が所属しているとされている、富山県の高校がTwitter上で《現在、事実関係の解明に向かっております》とコメントを出すにいたっている。
約10年前にもアルバイトが店内での迷惑行為をTwitterに投稿し、“バカッター”や“バイトテロ”と話題になり社会問題化した過去が。そうした前例や今回の流れがあるにも関わらず、なぜ迷惑動画は後をたたないのか。そして、防ぐために親ができることはーー。

そこで、一般社団法人SNSエキスパート協会の代表理事を務める後藤真理恵さんに話を聞いた。まず後藤さんは、一連の迷惑動画について「やってはいけないことだとわかっていてやっていることが多い」とした上で、それでもやってしまう心理についてこう分析する。
「あれは一種の自虐行為とも言えて、なぜそんなことをするかというとウケ狙いだったりする。その行為をすることで本人が気持ち良くなったり、直接いい気分になるかというと、実はそんなことない行為ばかり。それでもやるのは、『仲間のなかでウケたい』『面白いやつだなと思われたい』という気持ちがある。ダンスや歌でアピールできる人もいると思いますが、そうじゃない子供の中には自虐に走ることで結果的に注目されたり、面白いと思われたいという傾向があるんじゃないかなと考えています」(以下、カッコ内は後藤さん)
仲間内での存在感を高めるための手段として、なぜ迷惑動画を選ぶ若者が絶えないのだろうか。
■迷惑系YouTuberの影響も
「特に子供たちの場合、知識不足があると思います。1つは、自分の行為が犯罪に該当するとは思っていない可能性。
もう1つは、これまでの私たち大人の対応にも問題があるかもしれないですが、万が一のことがあっても謝ったら許されると思い込んでいるところがあるのではないかと思います。子供のしたことだからと。子供らも過去の炎上とかを全く知らないわけではないと思うんです。けれども、そんな大きい裁判になったケースもあまりなく、“いたずら”とか“悪ふざけ”と呼ばれているので、犯罪であるという見え方ができてなかったのかなと思います」

また、ここ数年勢いを増している炎上することで注目を集めるYouTuberの影響もあるという。
「いわゆる“迷惑系YouTuber”と言われる人たちの人気が高まってしまっているので、『彼らだってやってるじゃん』みたいなことをどこかで考えていて、危機感がどんどん下がっていってしまうって言うのはあるかもしれないですね」
その上で、後藤さんはまずすべき“親の務め”についてこう指摘する。
「親御さんからお子さんにまずぜひ伝えていただきたいのは、『最近ニュースで流れているようなことは”いたずら”とか“悪ふざけ”じゃなくて、犯罪だよ』ということです。『世の中には謝っても、許されないことがちゃんとあるんだよ』と。
例えばいじめも謝れば許されるんじゃないかという誤った風潮が一部にありますが、謝っても許すかどうかは被害者側が決めること。ましてや今回の炎上についてはやってることは犯罪行為なので、『謝っても許されないよ』ってのは必ず伝えていただきたいことですね。
例えば営業妨害だったら『偽計業務妨害罪』に当てはまる可能性があるよと。お醤油のボトルをダメにしたり、食材を廃棄させてしまうと『器物損害罪』になる可能性もあるし、犯罪者になっちゃうんだよってことは伝えないといけないですね。
それでも『有名になりたいんだよ』って気持ちがあるかもしれないけど、いくら犯罪者として有名になっても一生を棒に振るだけなので、別のやり方で有名になったり、仲間にすごいね、面白いねと言ってもらえるように、他のことをがんばったほうがいいよと伝えていただきたいですね」

子供の友人関係も含めた迷惑行為への危機感を高めることも重要だという。
「もし自分の友達が目の前で迷惑行為をしようとしたら『勇気を出して止めて欲しい』と、伝えてあげてほしいです。やっぱり友人が炎上するとその友達にも影響が出ます。あと、もしお子さんが知らない人の迷惑行為を見かけたら、本人に直接注意するのは危険性もあるので、例えば、すぐお店の人に知らせるとか、警察になるべく早く伝えることで二次被害を止められるので。そうやって『世の中の安全を守れる立場の人間になって』っていうのは伝えてもらえたらいいなと思います」
■もし当事者になった時にできること
迷惑動画が話題になると、ネット上で投稿者の名前や通う学校といった個人情報を特定する動きが必ず起きることに。その結果、スシローで醤油ボトルを舐め回した少年は、一部では高校を自主退学したとも報じられている。
またスシローのように、投稿者に対して法的措置を検討する企業は相次いでおり、その流れは今後も加速していくことが予想される。
投稿した側にも取り返しのつかない代償が待ち受けている迷惑動画によるトラブル。防ぐためには、親子で炎上に対するリテラシーを高めることも大切なようだ。
「10代のお子さんも1回炎上してしまうと一生それは消えないので、今後就職活動だったりご結婚だったり、いろんなシーンで名前を検索されただけで何をやった人間かわかってしまうので、非常に大変なことになります。

親御さん自身がネットリテラシーが高くなくて、炎上に加担していたり、お子さんの顔写真を撮ってどんどんネットに垂れ流してしまうケースもあります。そういう姿をお子さんに見せてしまうとお子さんもネットの怖さが麻痺してしまう。
絶対に自分のお子さんの顔写真や個人情報は載せない、見知らぬ人とネットで喧嘩しないとか、インターネットの怖い部分を、一緒にいろいろ話し合いながら、どうやったら安全に楽しく使えるかなってのは、折に触れて親子でも会話できるようにしていただけるといいかなと思います」
それでも、もし子供が“加害者”になってしまったときはどうすれば――。
「当然子供の責任は親の責任と考えていただいて、誠意を見せて、謝罪をするっていうのは一つ、人間としてやるべきことだとは思います。ただ、それで許されるとは思わないほうがよくて、お子さんにもそこは理解をさせて、これからどうやって償っていくのかを本当に真剣に考えていこうと。お子さんと一緒にある意味背負っていく覚悟をしていただくことが大事だと思います。
起こしてしまったら、恐ろしいことになると思いますので、お子さんを守る覚悟も必要です。デジタルタトゥーが残る可能性もありますので、それから先のお子さんの人生において、お子さんがネットストーキングや誹謗中傷被害に遭うとかさまざまな可能性が考えられます」
身から出た錆とはいえ、デジタルタトゥーを消すことはできるのだろうか。

「例えば弁護士を通じて削除依頼を出して消してもらうことはできなくはないですが、正直いたちごっこなんですよ。コピーが世界中に広まってるので、いくら消してもらったところで、今度は海外のサーバーで管理されているようなウェブサイトに載せられちゃってどんどん手が届かないところで拡散するだけなのでおそらく消せば大丈夫って話には残念ながらならないです。本当になんとか普通に生きていくとすれば、極端な話を言うと、名前を変えて、住所を変えて、変えられるだけ風貌も変えて、本当にひっそり生きていくとか、本当にそれぐらいしかできなくなる危険性もあります」
最後に「だからこそ、予防が一番大事なんです。絶対的に」と締めくくった後藤さん。起こしてからではもう遅い迷惑動画のトラブル。親子の日頃のコミュニケーションが何より大切ではないだろうかーー。