[社説]空手の喜友名選手引退 キングが開いた新時代

県勢初の五輪金メダリストで、世界選手権4連覇、全日本選手権10連覇を果たし、「キング」の異名を持つ喜友名諒選手=劉衛流龍鳳会=がキングのまま現役を引退した。
空手発祥の地の選手として、私たちにいくつもの「新しい景色」を見せてくれた。残念な気持ちはあるが、「お疲れさま」「ありがとう」の言葉を贈りたい。
全日本空手道連盟が16日、引退を発表した。3月17日に県内で会見を開く予定だ。競技からは退き、今後は武道家として修行や後進の指導に力を注ぐという。
喜友名選手は5歳で空手を始めた。中学3年の時から劉衛流龍鳳会の佐久本嗣男会長の下で稽古を重ね、心技体を磨いた。
力強く繊細な動きから繰り出される突きや蹴り、周囲の空気を変える鋭い眼光と存在感。
世界王者に君臨しても稽古の手を抜かなかった。旺盛な探究心で重量挙げや短距離のトレーニングも取り入れ、琉球舞踊の所作にも着目した。師匠の佐久本会長が理想に掲げる「沖縄独特の深みのある空手」を体現したのだ。
その集大成が東京五輪で獲得した金メダルだった。出場者で唯一の28点台を全試合で記録。決勝では劉衛流で最も難度が高く繊細といわれる「オーハン大」を演武し、28・72点をたたき出した。
優勝が決まった後、正座して深々と一礼した姿、「たくさんの人の支えなくして、この舞台には立てなかった」と喜びより先に周囲への感謝を口にした姿が印象的だった。
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沖縄の空手文化や歴史を世界に発信してきた功績も計り知れない。

玉城デニー知事は「沖縄の伝統であり発祥の地である空手を、世界に広く知らしめた。大きな金字塔を打ち立てた」と労をねぎらった。
県民に希望と勇気を与えてくれたスーパースターが現役を終えることに、県内外から惜しむ声が上がっている。優勝が当たり前の重圧を乗り越えてきた中での自身の決断だろう。
喜友名選手と共に汗を流し、団体形で世界と戦った金城新選手と上村拓也選手=いずれも劉衛流龍鳳会=も引退する。2人の存在は大きな刺激になり、支えでもあったはずだ。
喜友名選手にとって空手は、生涯をかけて追究していく「道」だという。「空手の技を研究していくと、一日また一日と見えてくるものがある」との言葉通り、道に終わりはない。
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沖縄発祥の空手は自らを鍛えることが究極の目的で、「空手に先手なし」「平和の武」といわれる。
その精神性と技が世界中の多くの人々を引きつけ、今では国内外に愛好家が1億3千万人以上いる。
沖縄の空手の魅力をさらに広げるためにも、世界水準の空手家を沖縄から輩出する必要がある。
喜友名選手はまだ32歳と若い。空手の伝統の継承と発展のために、これまでの経験と知識を生かし、指導者の育成や空手家輩出の先頭に立ってほしい。