〈クマもキョンも殺すな〉「動物園をつくればいい」役所に鳴り響く「かわいそう」の声…それでも「ローストにして食べるとおいしい」と千葉県が打ち出した、ふるさと納税とキョン駆除大作戦

ここ10年で、千葉県内の推定生息数が3倍に爆増しているキョン。住民への被害もあり、自治体は駆除が急務となるなか、動物保護派からのクレームも少なくない。そして、ついに千葉県がキョン対策に本腰を入れた。
キョンの見た目は確かにかわいらしい。まるでバンビのようで、つぶらな黒い瞳をしている。千葉県いすみ市に別荘を持ち、ここで週末だけ過ごすという60歳の女性は言う。「娘や息子家族が遊びに来たときにバーベキューをしていると、キョンが現れることがあるんです。小さな孫たちはそれを見て喜ぶし、キョンはこちらから近づかなければ逃げないので、微笑ましく見てるんですよ」
一見かわいいキョンだが…(写真提供/HuntPlus)
しかし、かわいいだけではない。「キョンは昼夜とわず現れて庭の花もみかんの葉も食べちゃうから、庭が寂しくなるけど何もやらなくなりました。動物も生きていくためにしかたがないとはいえ、もう少し全体の数が減れば悪さも少なくなると思うけど……」(同)もちろん自治体も手をこまねいているわけではない。千葉県環境生活部自然保護課鳥獣対策班は県内から野生のキョンを完全駆除すべく、毎年8500頭の駆除を目標に活動している。しかし、このような取り組みがテレビのニュース番組などで報道されると、たちまち一部の動物保護派からクレームが殺到した。県内のとある市役所関係者は言う。
庭に侵入させないためにそれぞれの家で柵をつくるなどしてキョン対策をしている(撮影/集英社オンライン)
「昨今、クマ駆除のニュースが流れるたびに『クマがかわいそうだから殺すな』という非難が自治体に集中するのと同じですよね。こちらにもキョンに関するクレームが一日中ひっきりなし鳴りやまないこともあり、『キョンを捕獲して動物園をつくればいいじゃないか』『人間ではなくキョンの市にしたらどうか』とか突拍子のないことを言ってくる人もいます。ですので、キョンに関する取材は猟友会も含めて基本的に受けていません」
住民の生活を守るために、駆除はいたしかたない部分はある。しかし、前編でも触れたとおり、増加数に比べて捕獲が追いついていないのが現状だ。いすみ市で狩猟体験ツアーを行う合同会社「Hunt+」代表、石川雄揮氏は、ハンターの数や若手の少なさを嘆く。「いすみ市猟友会80名の会員の中で、市からの依頼で有害鳥獣を捕獲する『有害鳥獣駆除隊』は30代が3、4人いるだけで、ほとんどが60代の方です」
「Hunt+」代表、石川雄揮氏(撮影/集英社オンライン)
そんな中、県内のキョン根絶に本腰を入れたのが千葉県だ。千葉県君津市でキョンをはじめとしたジビエ専門店「猟師工房」を営む原田祐介代表は言う。「千葉県はキョンの食肉化にはこれまでずっと否定的でしたが、2021年に初当選した熊谷俊人千葉県知事が今年7月に、有害鳥獣対策における幅広い担い手を確保するために『千葉県有害鳥獣捕獲協力隊』を募集するなど、対策にも積極的です。キョンの肉もふるさと納税の返礼品とするなど、食肉化への考え方も変わりました。キョンって、ローストやコンフィとして食べてもおいしいし、アヒージョにも合うんです」千葉県環境生活部自然保護課鳥獣対策班は言う。「あくまで、我々としては『キョンの肉はおいしい』などと二次的な価値をつけて、それを産業として定着させずに根絶することが第一優先。ふるさと納税の返礼品にしたのは、命をいただいた以上、それを有効活用したいと始めたことです」
「キョンの肉はおいしいですよ」(「猟師工房」代表の原田祐介氏。撮影/集英社オンライン)
キョンの成体は7キロから12キロほど。そこから取れる食肉は2キロほどとかなり少なく、もともとの生息地の台湾では高級食材とされている。日本でも邪馬台国の時代からキョンの皮が工芸品に使われているなど、日本人とは密接な関わりのある生き物だという。その歴史の重みに触れつつ、今後も増殖防止に励んでもらいたい。
※「集英社オンライン」では、キョンや野生動物に関するトラブルの情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected]X(Twitter)@shuon_news取材・文/河合桃子集英社オンライン編集部ニュース班