中央線「昭和グルメ」を巡る 第209回 昭和のいいところを令和の世にも「あしたば」(八王子)

いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、八王子の洋食店「あしたば」をご紹介。

○八王子の洋食店「あしたば」

賑わう北口とは違い、八王子駅南口には穏やかな空気が流れているように思います。大きな建物は駅に隣接したビックカメラとかJ:COMホール八王子程度だし、「とちの木デッキ」という名がついたペデストリアンデッキを降りれば人の姿もまばらだし。

でも、その正面の「とちの木通り」を少し進むと、魅力的なお店があるのです。左側に見えてくる「とちの木ビル」(とちの木だらけだな)というオレンジ色をした古い建物の一角にある、「あしたば」という名のお店がそれ。

「とちの木にあしたばとは?」という疑問はさておき、外見からしてレトロ感満点。以前から、一度お邪魔してみたいと思っていたのです。

「ピザ・サラダ・食事 あしたば」と書かれた、ちょっとすすけた頭上の看板もいい感じですねえ。

驚くべきことに朝の9時半から開いているようで、伺った11時過ぎの時点ではまだ店頭にモーニングサービスのディスプレイが出ていました。

でも11時からはランチメニューが食べられるらしく、ほどなくディスプレイはランチタイム仕様に変更されたのでした。

さて、茶色い木枠のガラス扉を開けて入ってみましょう。右側奥にはカウンターがあり、左側に4人がけのテーブルが2卓。

よく見てみると、そちらの席のテーブルは昔の喫茶店でよく見かけたゲームテーブルですね。ほら、インベーダーゲームとかができるアレ。

高校時代、学校帰りに寄った喫茶店でよくやってたよなー。懐かしいわ。ただし、もうテーブルとしてしか機能していないようで、側面のコントローラー部分はガムテープで塞がれておりました(残念)。

そちらの2卓にはお客さんがいたため、手前右側のテーブル席へ。

そして、さっそくメニューを開いてみます。

ちなみにメニューブック以外にもモーニングサービス用のメニューがあったのですが、よく見れば「モーニングンサービス」になってますねえ。

また、メニューブックのほうは、ページをめくるごとに「支払は現金で」という表示が目につく仕様。

おそらく過去に、カードで支払おうとしたお客さんとの間でなんらかのバトルが繰り広げられたのでしょう(すみません、推測です)。

メニューのバリエーションは豊富で、どれもがとても魅力的。なので迷って当然ですが、「ハーフ・2品盛り」のなかから「ハンバーグ・ナポリタン(コーヒー付)」をチョイスしてみました。初めてのお店では、オーソドックスなものをいただいてみようということで。

ママさんが奥の厨房内のご主人にオーダーを伝え、調理スタート。

カウンター席では常連さんらしき女性がずっと話をしており、ママさんは「うん、そうよね」と共感を示しています。素晴らしいのは、そんなときにも動きを止めず、てきぱきと働き続けていること。もちろん他のお客さんへの配慮も万全で、しかも物腰柔らか。万全のホスピタリティです。

ひと足先にみそ汁とチーズ、タバスコが運ばれてきて、

少しあとに大皿に盛りつけられた「ハンバーグ・ナポリタン」が登場。

大きめのハンバーグにはたっぷりデミグラスソースがかかっており、すぐ隣のナポリタンもボリューム満点。

つけ合わせのサラダもたっぷりとした量があるし、ライスの量も申し分ないし、なかなか食べごたえがありそうです。

ナイフを入れてみると、明らかに手作りのハンバーグは柔らかく、肉がみっしり詰まっています。デミグラスソースの味もバランスがとれており、まさに「昭和のハンバーグ」といった趣。これはライスに合うやつだぞ。

そして、しっかり炒められたナポリタンもまた、どこか懐かしい昭和な味わい。どちらかといえばミートソース派の僕も、「ナポリタンって、こんなにおいしかったっけ?」と感心してしまうほどでした。

もちろん、だしをしっかり効かせたみそ汁もまた絶品でございましたよ。

先ほど触れたゲームテーブルのみならず、テーブルや椅子のデザインもレトロ。

くまのプーさんをはじめとするぬいぐるみ類が飾られていたり、本棚には「ゴルゴ13」が並んでいたりと、いろいろな意味で昭和感満点。

かなりの年月を経てこられたお店だと思われますが、お客さんの視点に立った万全のホスピタリティ、そして料理のクオリティの高さが評価されてきたからこそ、令和の世にも支持を得ているのでしょう。

その証拠に、食後のコーヒーをいただいている間にも、お客さんが次々と入ってきたのでした。

●あしたば
住所: 東京都八王子市子安町4-26-6
営業時間: 9:30~18:30
定休日: 火曜

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)、『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)ほか著書多数。最新刊は『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)。 この著者の記事一覧はこちら