介護分野の就労者数が初めて減少。介護人材の不足がさらに深刻に

2023年10月23日、日本経済新聞が「介護就労者初の減少」との記事を報道して話題となりました。
内容は厚生労働省の「雇用動向調査」を元にしたもので、入職率から離職率を差し引いた「入職超過率」はその業界の就労者の増減を測る指標ですが、介護関連に絞ると2022年はマイナス1.6%。人数にして約6.3万人が減少したことになります。医療関係者も含めた「医療・福祉」の入職超過率だと2022年は0.9%のマイナスとなり、調査がスタートした1999年以降、マイナスとなるのは初のことです。
直近5年における介護職の動向を見ると、2017年~2020年まではおおむね1%程度のプラス傾向が続いていました。しかし2021年には0.6%のプラスとやや増加幅が減り、2022年になってついにマイナス1.6%と就労者数減少となったわけです。
介護人材の不足が指摘されるようになってからすでに久しいです。厚生労働省・自治体が力を入れて取り組んできた介護職増加の取り組みですが、ここにきて就労者数がマイナスに転じるという事態が生じました。この事実を深刻に受け止め、今後はより効果的な人材確保策を取っていくことが求められます。
2023年5月、介護関係11団体のトップが岸田総理に面会し、介護分野に物価高・賃金アップの対策を講じるように陳情書を提出しました。その際、介護現場の窮状を示すために、団体が協力して行った調査結果(「介護現場における物価高騰および賃上げの状況」)も合わせて提出しました。
その調査結果(N=3,882)によると、2021年~2022年にかけて、介護職全体の離職者数の割合は前年度比5.2%増でしたが、「短時間労働者」よりも「正社員」の方が離職者の増加度は高いことが明らかにされています(正社員の離職者数は前年度から7.6%増)。
正社員は教育・研修を施し、介護事業者の中心戦力となる人材。それがアルバイト・パートよりも高い割合で離職者数が増えているのです。
さらに深刻なのは介護分野から異業種への離職者数の多さで、正社員の離職者のうちで異業種に転職する人の数は、2021~2022年にかけて約3割増(28.6%増)という状況です。これは他業種への介護人材の流出が進んでいる現状を明確に示すデータと言えます。
高齢化が進み、それにともない要介護認定者数が増加する中、「介護人材の確保」は国・厚生労働省がいわば威信をかけて取り組んでいる施策といっても過言ではありません。第8期介護保険事業計画によると、2019年時点における全国の介護職員数は約211万人で、計画期間が終わる2023年度には約233万人を確保する必要があると試算されています。
しかし、社会保障審議会介護給付費分科会(第223回)に提出された資料によると、2021年時点における介護職員数は214.9万人。そして冒頭で紹介した通り、2021年から2022年にかけて約6.3万人が減っているというのが実情です。
今後、団塊世代が75歳以上となる2025年度には243万人、2040年には約280万人が必要になると予測されていますが、このままいくと厳しい事態の到来は避けられません。
これまでも介護職の不足は問題視されていましたが、2021年までは、年1%前後の割合ですが介護分野の就労者数は一応増えてはいました。しかしそれでは足りず「もっと増やすべき」というのが国・厚生労働省の施策における基本方針・スローガンであったわけです。
しかし冒頭で紹介した通り、2025年を前にして、増加幅を大きくするどころかマイナスになるという事態が生じてしまったのです。
厚生労働省の資料によると、国が現在取り組んでいる主な介護人材確保策としては、以下のものが挙げられます。
これら現状の対策による成果がうまく出ていないことが、介護人材減少という結果に出ているとも言えます。各施策項目の取り組み内容を見直すこと、さらに追加すべき施策項目がないかを検討することなどが必要です。
介護人材の他産業への流出を考える場合、やはり給与格差の影響が大きいでしょう。介護分野の就労者数が初めて減少。介護人材の不足がさらに深刻に…の画像はこちら >>
先の介護関係11団体が政府に提出した資料によると、2022年時点における介護分野の職員の月収は29.3万円、一方で全産業平均は36.1万円です。あくまで平均値の比較ですが、両者の間に6.8万円もの差があります。
また介護分野は賃上げ傾向も乏しいです。2023年度における介護現場の賃上げ状況は「ベースアップなし」が59.2%と約6割を占め、定期昇給もない「賃上げの実施なし」も7.4%を占めています。
なお、2023年の春闘の結果、一般企業(従業員300人以上)における賃上げ率は3.69%でした。ただでさえ賃金格差があるのに、こうした面でも他産業に比べて大きな差が出ているのが現状なのです。
介護職員の場合、賃金は各介護事業所が受け取る公定価格の介護報酬から捻出されます。公定価格という性格上、物価が上がっても自由にサービスの価格変更はできず、事業所としても物価上昇に合わせたベースアップ・賃上げは難しい面があるのが実情でしょう。
介護人材を確保するには、国によるマクロレベルと各事業所におけるミクロレベル、それぞれの対策を取ることが必要です。
今回は介護分野の就労者数が減少したとのニュースについて考えてきました。高齢化がどんどん進む日本において、介護人材の確保は必須です。国・厚生労働省には、より有効な人材確保策に取り組むことが求められます。