「まだ飛んでない飛行機のための整備士」って!? 謎多き「領収検査員」とは プロ監視人の“推し機”とは?

JALでは、駐機場や格納庫で点検作業などを行う一般的な整備士のほか、「領収検査員」と呼ばれる特別な整備スタッフをアメリカ・シアトルに配備しています。彼らはどのような業務を行っているのでしょうか。
JAL(日本航空)の航空機整備は、駐機場に到着してから出発までのあいだに機体をチェックする「運航整備」、格納庫などで機体を一定時間とどめて整備を行う「点検・重整備」に大別され、各地に整備士を置いています。しかし、アメリカのシアトルには、それらのいずれでもない「領収検査員」と呼ばれる飛行機を受け取る前に検査を行う特別な人達が配置されています。その業務内容を実際に取材しました。
「まだ飛んでない飛行機のための整備士」って!? 謎多き「領収…の画像はこちら >>ボーイング社レントン工場で。左が鈴木正美さん、右が近藤信之さん(乗りものニュース編集部撮影)。
領収検査員は、航空機メーカーが新型機を組み立て、航空会社に引き渡すまでのあいだ、その機の組立状況をチェックするという特殊な業務です。シアトルは、巨大航空機メーカーであるボーイング社の本拠地であり、JAL機も半世紀以上、さまざまなタイプのボーイング機を運航してきました。今回はそのような特殊な業務を担当する領収検査員、近藤信之さんと鈴木正美さんにお話を伺いました。
「たとえばお家を買う時、カタログを見ただけで買うことってまずないですよね。どんな仕様にするかを選ぶと思います。これが航空会社の発注にあたります。そうして工事が始まった際には、壁紙やキッチンが発注内容通りにいっているか、作業で傷などが着いていないか、というのをチェックしたくなると思います。領収検査員はこの『家を建てるときのチェック』のように、導入する飛行機が組み立てられる過程で、作業の状況を顧客の目線で確かめるのが仕事です」。
近藤さんは、このように自身の業務を説明したうえ、通常の整備作業との違いを次のように話します。
「製造中の飛行機は、普段整備するものと違って、まだ飛んでいない状態です。使っているからこそ発生するトラブルに対処するのが通常の整備士である一方、作っているからこそ生じる不具合がないかを確かめるのが領収検査員です。後者のものは通常の整備作業ではほぼ限られた状態でしか発生しないシチュエーションなので、そこは違いますね」
とはいえ、2人は「領収検査の仕事でも、整備士の現場で培ってきた経験、また技術者として学んだことは大いに役立つものです。確認しなければならないポイントも変わりません」と口を揃えます。
「たとえば飛行機は、製造現場である地上と、実際に運航される空中とでは機体の状態が変わり、結果的に機内に設置されている配線がたわみます。そういった整備士での経験をもとに、配線が”たわみ”を加味して作られているかどうかなどをチェックするのは日常茶飯事です」(鈴木さん)
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両端がインタビューに応じてくれた2名。シアトル・タコマ空港のJAL支店で(乗りものニュース編集部撮影)。
領収検査には、彼ら検査員のほか、エンジンや電装系などの整備スキルを持つJALの整備士も渡米し参加します。ただし検査員は、JALに引き渡された機体を日本に運ぶ回送運航「デリバリーフライト」に乗りこむことが通例です。
「領収検査の完了は、新造機の技術的課題がすべて解決し、JAL側に機体が引き渡されたときです。しかし日本へのデリバリーフライトは検査員も乗り込み、客室などをチェックします。やはり検査員としては、自分が担当した機体を気にかけますし、完璧な状態であることを回送運航のなかでも確認したいという、プロの整備士としてのプライドもありますから」(近藤さん)
そのような2人には、それぞれ思い入れのある機体たちがあるそうです。
「個人的な経験のなかで、ボーイング787-8『JA846J』の領収検査が印象に残っています。この機はJALの787型で初めての国内線仕様機だったのですが、実はシアトルに赴任する直前までまで、この787国内線仕様機の客室仕様の策定に絡んだ業務をしていました。自飛行機組立前の最初から関わり、その組立過程を見て、出来上がりを確認し受け取り、日本に送り出したのは、なかなかできない経験だったと思います」(近藤さん)
「実は私は、シアトルで領収検査員をするまえは、グループ会社のZIPAIRにいました。こちらに来てから、ZIPAIR初の新造機であるボーイング787-8『JA850J』、そして『JA851J』の引き渡しに関わることができました。2機にはとても愛着がありますし、印象に残る出来事でした」(鈴木さん)