岡山県玉野市にある三菱重工マリタイムシステムズ玉野本社工場でこのたび護衛艦「ゆうべつ」が進水しました。ただ、もがみ型護衛艦が玉野の地で進水するのは同艦が最後とのこと。今後、同工場での新造船の進水はあるのでしょうか。
海上自衛隊への導入が急ピッチで進んでいる新鋭、もがみ型護衛艦の8番艦「ゆうべつ」が2023年11月14日、建造ヤードの三菱重工マリタイムシステムズ玉野本社工場(岡山県玉野市)で進水しました。同艦は艤装を行った後、2024年度中の引き渡しを予定しています。この船は、造船の街・玉野で建造される最後のもがみ型護衛艦になります。
造船の街“玉野”の自衛艦建造どうなる? 護衛艦「ゆうべつ」進…の画像はこちら >>2023年11月14日、岡山県にある三菱重工マリタイムシステムズ玉野本社工場で命名・進水した海上自衛隊向けの新型護衛艦「ゆうべつ」(深水千翔撮影)。
今回、進水した「ゆうべつ」は、7番艦の「によど」と共に2021年度予算で建造が決まりました。建造費は2隻合わせて約947億円。艦名は北海道の湧別川から取られています。
同艦が属するもがみ型はコンパクト化、省人化、多機能化の3つをコンセプトにした新しいタイプの護衛艦として計画され、従来のDD(汎用護衛艦)やDDG(ミサイル護衛艦)などに対してFFM(Frigate Multi-purpose/Mine-warfare、機雷戦/多用途フリゲート)と呼ばれています。2022年から順次就役しており、2027年には全12隻が揃う予定です。
「ゆうべつ」の基準排水量は3900トン、全長は133mと、昨今の国産護衛艦の中では小柄といえる船体ながら、日本周辺海域の防衛警備や海上交通の安全確保、国際平和協力活動といった多様な任務を機動的にこなせるよう、相応の装備を艦内に詰め込んでいます。また、喫水線下にはサイドスラスターが装備されていますが、これによりタグボートの手配が難しい地域や、喫水が浅く従来の護衛艦が入港できなかった港でも、自力で接岸できるようになりました。
省力化を目指し、乗員は約90人と少なめ。これについては、各種コンソールを集約した統合ブリッジシステムや、1人で出入港が行えるシステム操艦装置の採用、円形のモニターに囲まれ機関制御から武器管制、ソナー、操艦などを集約したCIC(戦闘指揮所)の設置など、艦のオペレーションについて徹底的に省人化を図ることで達成しています。
一方で8番艦の「ゆうべつ」は、VLS(垂直発射装置)やVDS(可変深度ソナー)、USV(水上無人機)、UUV(無人水中航走体)といった装備を就役時点で搭載しないことが決まっています。
VLSは2021年度補正予算で2隻分の取得費用(84億円)が計上されていましたが、これについて海上幕僚監部の広報室は「世界的な半導体不足などの影響を受けてVLSや関連する機器の納入が遅れている」と説明。これまでと同じく「によど」と「ゆうべつ」も後日装備にすることにしたといいます。
とはいえ、ならば9番艦は当初からVLSを装備できるかどうかについては、現時点では見通せないとのことでした。
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次世代護衛艦「新型FFM」のイメージ(画像:防衛省)。
また、もがみ型は当初、三菱重工業が主契約者として長崎造船所で、三井E&S造船が下請負者として玉野艦船工場で建造を担うことになっていました。しかし三井E&S造船が艦艇事業を三菱重工へ譲渡したことに伴い、全て三菱重工グループで建造されることになったという経緯があります。実際、2番艦の「くまの」は三井E&S時代の玉野で進水式が行われました。
もがみ型は、すでに4番艦の「みくま」までが引き渡し済みで、年内には5番艦「やはぎ」が就役する予定です。なお、9番艦以降の建造は、全て三菱重工の長崎造船所が手掛けることになっていますが、もがみ型の改良型として基準排水量4500トン(防衛装備庁発表では4880トン)の「新型FFM」を調達することが決まっているため、12番艦をもって建造を終了します。
新型FFM同艦には、射程1000kmを超えるとされる新型ミサイル「12式地対艦誘導弾(SSM)能力向上型」や新艦対空誘導弾が搭載される予定で、防衛省は2024年度の概算要求で建造費として2隻分1747億円を求めています。
防衛省が発表した新型FFMのイメージイラストなどを見ると、もがみ型とほとんど変わらない姿になる模様です。それでも排水量でいうと約600トンから900トン増える理由について、防衛装備庁は長射程ミサイルの搭載ならびに従来よりも探知能力が向上したソナーシステムの採用、平時の警戒監視と有事における対潜戦、対空戦、対水上戦の能力向上を図ったからだと説明しています。
新型FFMは三菱重工が主契約者として設計と建造を、JMU(ジャパンマリンユナイテッド)が下請負者として一部の建造を担います。こちらも、もがみ型と同じく12隻が導入される計画で、2024年度から2028年度にかけて整備されるとのこと。単純計算では年2~3隻の進水・就役になる模様で、1年に2隻ごとだったもがみ型と比べて、早いペースで配備されると推察できます。
これは三菱重工が持つ長崎のドックと玉野の船台に加えて、JMU横浜事業所磯子工場の新造設備を使用できるからでしょう。
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2020年1月15日、当時の三井E&S造船株式会社 玉野艦船工場で命名・進水した「あき」。ひびき型音響測定艦の3番艦で、2021年3月に就役、実運用中である(画像:海上自衛隊)。
加えて玉野では、ひびき型音響測定艦を建造した実績があるため、22年度予算で新造が決まった同型4番艦の建造も行われる可能性が多分にあります。ちなみに、ひびき型はネームシップ含めて過去3隻建造されていますが、そのすべてが玉野生まれです。逆にいうと、音響測定艦の建造ノウハウは三菱重工マリタイムシステムズ(旧三井造船)にしかないと言えるでしょう。
商船の建造から手を引き、三菱重工グループの下で艦艇・官公庁船の専門ヤードとなった玉野の造船所ですが、周辺情勢の緊張が高まるにつれ、昨今は自衛艦や巡視船の需要が増えているため、安定した手持ち工事量が期待できます。
こういった状況を鑑みると、舞鶴や佐世保などと比べて、玉野における新造船の灯はいましばらく大丈夫そうです。今回進水した「ゆうべつ」でいったんは護衛艦の進水は中断するものの、新型FFMの建造が始まれば、ダイナミックな船台進水が再び見られるようになるでしょう。