〈政府も問題視するホスト問題〉格安ホテルや大衆居酒屋で過ごすアフターの様子はまるで大学生のデート「1000万プレーヤーでも貧乏生活しているホストは多い」(ルポ歌舞伎町24時)

悪質なホストに高額の売掛金(ツケ払い)を背負わされ、風俗へと落ちていく女性が後を絶たない。社会的にホストのイメージがどんどん悪くなるなか、ホストクラブの聖地、新宿・歌舞伎町の現在はどうなっているのか。現地におもむき、その実態を調査した。
相次ぐホストトラブルに際し、政府が関係省庁と連携して、悪質なホストクラブへの対策の強化や女性の支援に取り組む方針を示したのは、11月14日のこと。ホストクラブを巡っては、これまでもトラブルがあとを絶たなかったが、加藤鮎子こども政策相は同日、「警察による取り締まりなどにくわえて、そうした困難に直面する女性たちが相談し、必要な支援につながる環境を整備することも重要だ」と述べた。社会部記者はこう解説する。「今年9月には、歌舞伎町の大久保公園で売春の客待ちをしたとして女性35人が逮捕され、その大半がホストクラブへの支払いなどを売春の理由に挙げていた。また、同月には“パパ活女子のカリスマ”、『頂き女子りりちゃん』こと渡辺真衣被告(25)が複数の男性たちからおよそ3億円をだまし取ったとして逮捕、10月にはその担当ホストが渡辺被告からだまし取った金と知りながら現金およそ4000万円を受け取ったとして逮捕されている。こうした社会の状況を受けて、政府も悪質ホスト対策に本腰を入れることになったのだろう」
夜の大久保公園
ホストでタレントのROLANDも、自身が運営するホストクラブでの売掛の一切の禁止を発表するなど、広く社会問題に発展しており、今後は、防止策などを含めた具体的な法整備が進められていくことになるだろう。こうした情勢を受けて、歌舞伎町の現状はどうなっているのか。深夜の歌舞伎町へと向かった。11月某日、夜0時すぎ。ゴジラが目印の新宿東宝ビルの裏手は派手なスーツ姿やラフな格好のホストらしき男性たちでにぎわい、付近のホストクラブの入る雑居ビルからは”シャンパンコール”や尾崎豊の『I LOVE YOU』も漏れ聞こえてくる。ホストクラブに15年以上通う30代の女性は言う。
「聞こえてきた『I LOVE YOU』はきっと“ラストソング”でしょう。ラストソングとは、ホストクラブの営業が終了する深夜0時から1時を前に、その日一番売り上げたホストが一曲歌うこと。シャンパンコールもそうですが、担当ホストがラストソングを歌う時間こそ女性客にとっては至福の瞬間。自分が担当ホストを勝たせた満足感と、まわりの女性客が悔しそうに見てくるあの優越感がたまらないんです」
このラストソングを担当ホストにかちとらせるためにひと晩で100万円近く使う女性客も少なくない。こうした女性を、この業界では”ホス狂(きょう)”や“ホス狂い”と呼ぶ。「ここ数年でお酒の値段が高騰したこともあり、ひと晩で使う金額もグンと増えました。以前は月50万円も使えば『太客』と呼ばれたのに、今だと200~300万円ほど使わないと担当ホストにかわいがってもらえないんです。だから私のようなホス狂いは風俗などの夜職で働いていることがほとんど。でも、担当ホストに嫌われたくないから、自分の仕事については話さない子が多いですね」(同)
アフターに行くと思われる男女
深夜1時を回ると、歌舞伎町にはアフター(店外デート)に出かけるホストと女性客の姿も増えてきた。彼女たちの多くは20代とみられ、いわゆる地雷系ファッションと呼ばれる、フリフリのワンピース姿が目立つ。この現象について、歌舞伎町で20年以上ホストをしているという男性(30代)はこう答える。「SNSやYouTubeチャンネルで情報を発信するホストが増えた影響で、大学生のような若いお客さんが多くなりました。彼女たちのほとんどが風俗やパパ活をしていてお金を持っている。そういう仕事は若いほうが稼げますからね。だからホストも若い子を狙って『本営』(本命営業)と呼ばれる、自らを恋人だと思いこませるような色恋営業にシフトチェンジしていき、アフターで枕(枕営業)するホストも増えたんです」
ホストと思われる男性に後ろから抱きつく女性
そこで問題となっているのが前述の売掛と、その返済のための女性の“風俗堕ち”だが、実は甘い蜜を吸えるホストばかりではないらしい。「ひと昔前は売掛は、できて月50万円程度。それが昨今の客単価の上昇で、支払えない客も出てきた。不足分は担当ホストが代わりに支払わなきゃいけないから、貧乏ホストも多いですよ。アドトラックに “1000万プレーヤー”と大々的に打ってるようなホストでも、苦しい生活をしているパターンだって珍しくないんです」(同)
実際にこの日も、ホストクラブから出てきた男女がアフターで向かう先は、格安ラブホテルや大衆居酒屋がほとんど。居酒屋内ではホストと女性客らしき二人組がイヤホンを片耳ずつつけ、一緒にYouTubeを見て笑っている。まるで大学生カップルのようだ。アフターでは、ホストが女性客におごる決まりがあるので、懐の寒さを物語っている。そして、この30代ホストは現状をぼやくように続ける。
歌舞伎町のラブホテルへと入っていく男女
「ホストはもともと上から目線の『オラ営』(オラオラ営業)が基本で、お客さんに居場所を与えてあげているというスタンスでした。それがいまやホストクラブは歌舞伎町だけで200店舗以上あり、選択肢が複数あるお客さんのほうが立場が強くなっているのが現状。ホストとしては売掛なんてさせたくなくても、お客さんに『私を信用してくれないなら、別のホストに行きますけど?』と強気で言われたら、売掛を了承せざるを得ない。それなのに返済が滞るのだから、ホストも切羽詰まってつい、『体を売ってでも借金を返せ!』と女性に言ってしまうんです……」前出の30代常連女性もこう振り返る。「ひと昔前まではホストが女の子に暴力を振るうのが日常茶飯事でした。あるホストグループの接客マニュアルには、『意図して不機嫌になり、女の子に暴力をふるったあとに優しくする』と書かれていたそうです。私の友達も顔がアザだらけになるまで担当に殴られても惚れ込んでました。でも、今はSNSが普及して晒されるリスクも高くなったからか、そのような暴力営業はほとんど聞かなくなりました」
肩を組む男女
歌舞伎町の無料案内所で働く50代男性もこう話す。「昔はうちの無料案内所の前でも、ホストが女の子の頬を叩いたり、髪の毛を引っ張ってるような光景はしょっちゅう見たね。今は逆に、『なんで他の子なの!?』『なんで私だけじゃダメなの?』と客らしき女の子にホストが責められ、謝り倒していることが多くなった。ここ何年かでホストも相当大人しくなったよ」後編では、ホストクラブにハマる女性側の本音に迫った。
取材・文・撮影/集英社オンライン編集部ニュース班