高齢者の介護保険料が引き上げ!所得制限アリのため効果は限定的か

政府は、全世代型社会保障の推進を図っており、高齢者の負担を引き上げる方針を打ち出しています。
その方針に合わせ、厚生労働省は、社会保障審議会で65歳以上の保険料(1号保険料)について、高所得層を中心に引き上げる案を提示しました。
この引き上げによって得られる財源は、低所得層の保険料の引き下げや制度の充実にあてることを目的としています。対象は所得が410万円以上の人など、約140万人になる見通しです。
介護保険料の高齢者負担はこれまで低く抑えられるように設計されていました。医療保険では、3割負担の人の割合が約7%なのに対し、介護保険料の場合は3.6%。こうした制度間の格差なども踏まえて高所得層の保険料を引き上げる方針です。
このように、所得に応じて保険料負担が重くなることを「応能負担」と呼びます。介護保険料は制度開始当初、すべての高齢者の負担が1割に抑えられていました。
しかし、介護給付費が増えていくにつれて制度の維持が難しくなり、応能負担が段階的に導入されたという背景があります。
2015年からは年間所得が280万円以上が2割負担、2018年からは年間所得340万円以上の高齢者の3割負担を導入。今回はこの応能負担を強化する目的で、年間所得が410万円以上の高齢者の負担比率をさらに引き上げるとしています。
なお、410万円以上に加えて500万円以上、590万円以上、680万円以上と所得に応じて段階的に保険料を引き上げる見込みです。所得が年金収入のみ80万円超の人を1.0とすると、所得680万円以上の人は最大で2.6倍の料率を提案しています。一方で、低所得層に対しては、料率を引き下げるとしています。
介護保険料が年々増加しているのは、介護保険制度を利用して介護サービスを受けている人に支払われる介護給付費が増加しているからです。
介護給付にかかる費用は2023年度で約13.8兆円。制度開始時点では約3.6兆円だったため、およそ20年で約4倍にまで膨れ上がっています。そのため、現役世代から徴収する保険料(2号保険料)も平均2,911円から6,014円と倍以上に増えています。
現役世代の保険料は市町村単位の自治体が定めており、地域格差も生じています。最も保険料が高いのは東京都青ヶ島村で9,800円。一方、最も低いのは東京都小笠原村で3,374円。両自治体の差は年間で7万7,000円以上にもなります。
専門家からは「これ以上、現役世代から徴収額を増加させるのは限界ではないか」という指摘もあります。
各自治体における保険料は住民構成に大きく左右されます。現在、保険料の負担は現役世代が約27%、高齢者が23%、残りの50%を国や都道府県、市町村が負担するという構造になっています。つまり、介護給付費が増えれば増えるほど負担が大きくなる構造です。
後期高齢者の多い自治体は必然的に保険給付費が増大し、保険料が高くなるのです。そのため、少しでも現役世代の負担を軽減するためには、現在23%となっている高齢者の負担の割合を大きくするしかありません。
高齢者の応能負担が導入された理由には、保険料と給付費の構造によるところが大きいのです。
しかし、現状では介護給付費が増加傾向にあるので、高齢者の応能負担を導入したとしても、現役世代の保険料を軽くするまでの効果は得られていません。
今回の保険料引き上げでも、現役世代の負担減には至らず、現状を維持するだけにとどまると考えられます。
高齢者の保険料負担増で懸念されるのは、介護サービスの利用控えです。高齢者の介護保険料が引き上げ!所得制限アリのため効果は限定的…の画像はこちら >>
例えば、2018年の3割負担の導入後5ヶ月以内におけるサービス利用の変更割合を調査したところ、2割負担の利用者で3.2%、3割負担の利用者で5.2%が介護サービスの利用を控えたことがわかっています。
介護サービスを控えた理由には「介護に係る支出が重く、サービスの利用を控えたから」が36.5%に達しています。
介護サービスの利用控えが起こると、介護事業者の報酬減にもなり、ただでさえ厳しい経営を強いられている介護事業者にしわ寄せが来るリスクがあります。
とはいえ、引き上げされるのは高所得層だけ。利用控えが起こったとしても、2018年の3割負担導入時と同様かそれ以下に収まる可能性もあります。
保険給付費が増大すれば国民の負担が増加する構造なので、今後もしばらくは保険料の負担割合は所得に応じた調整が図られるでしょう。
一方、これ以上現役世代の保険料を引き上げれば、少子化などに悪影響を及ぼすかもしれず、全世代型社会保障の政府方針からは遠ざかります。そのため、今後は高齢者が引き上げの対象になる可能性が高くなるでしょう。
しかし、本当に介護サービスを必要としている高齢者が介護サービスの利用を控えてしまうと、在宅介護における家族の負担が増えて、介護離職や老々介護などの問題が深刻化するケースも考えられます。
介護保険料の増額と介護サービスの適切な提供のバランスを考えながら慎重に制度を設計する必要があるでしょう。