膨らむ防衛費で三菱重工「売上高1兆円超」が目前 超速ミサイル イージスシステム搭載艦…続々出てくる新装備

防衛費が倍増されるのに伴い、三菱重工が久しぶりに防衛事業説明会を開きました。会場では執行役員の口から防衛事業の売上高1兆円超えという明言も。民間企業として具体的にどう動くのかハナシを聞いてきました。
「政府の防衛費倍増を受けて、防衛事業の売上高を1兆円まで伸ばしていきたいと思っている」
2023年11月22日に開かれた三菱重工業の防衛事業説明会で、同社防衛・宇宙セグメント長の江口雅之執行役員はそう話しました。
三菱重工には「エナジー」「プラント・インフラ」など、複数の「セグメント」と呼ばれる部門があり、「防衛・宇宙」はそのうちのひとつになります。同社のグループ全体での売上高は2023年3月期で4兆2027億円、このうち防衛・宇宙セグメントは4749億円です。
これまで防衛・宇宙セグメントの売上高は年間5000億円弱で推移していましたが、同社は日本政府が掲げた防衛力整備計画の大幅な拡充を受けて事業規模が2倍以上になると想定。2027年3月期には売上高1兆円を達成し、その後も伸びていくと予想しています。
膨らむ防衛費で三菱重工「売上高1兆円超」が目前 超速ミサイル…の画像はこちら >>日本とイギリス、イタリアが共同開発することで合意しているGCAP(次期戦闘機)。三菱重工も主要企業のひとつとして携わる(画像:BAEシステムズ)。
このような流れに対応するため、三菱重工では防衛部門に関わる人員を現在の6000人規模から2~3割程度増やすとともに、設備投資に関しても年間で現状の2倍以上にしていく方針とのこと。社内ではすでにMSJ(旧称MRJ)の人員が、次期戦闘機やスタンド・オフ・ミサイルの開発を行う部署に配置転換されているそうです。
これに関連し、防衛事業説明会においても前出の江口執行役員が「2023年度からの防衛力整備計画は、従来にはないレベル。特に防衛省が重視する分野として7つの項目があげられているが、いずれも弊社の正面装備に関係する事業だ」と語っていました。
江口執行役員が語った7つの重視分野とは、具体的には以下のとおりです。1、スタンドオフ防衛能力2、統合防空ミサイル防衛能力3、無人アセット防衛能力4、領域横断作戦能力5、機動展開能力・国民保護6、指揮統制・情報関連機能7、持続性・強靭性
実際、2019年度から2023年度までの中期防衛力整備計画(01中期防)において約17.2兆円だった防衛力整備事業費は、新たに策定された防衛力整備計画では2023年度から2027年度までで総額約43.5兆円と大きく膨らみました。
江口執行役員は「今年度は間違いなく契約額は1兆円を超える。来年度もその規模は超えていくだろう。今年と来年の受注で売り上げに効いてくるのは3年後から4年後。そのため来年売り上げが上がることはないが、2026年度の最後に1兆円になる」と見込んでいます。
現時点で三菱重工 防衛・宇宙セグメントの売上高構成は航空機・飛昇体(ミサイル)が半分、艦艇・特殊機械が3割となっています。
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2023年11月22日に開かれた三菱重工業の防衛事業説明会で、来場者らに説明する同社防衛・宇宙セグメント長の江口雅之執行役員(深水千翔撮影)。
この両方に関わっている事業として挙げられるのが、2024年度概算要求で建造予算が盛り込まれたイージス・システム搭載艦と4500トン型護衛艦(いわゆる新型FFM)でしょう。いずれの艦も三菱重工グループで建造される予定で、敵の反撃が来ない超遠距離から攻撃可能な「スタンド・オフ・ミサイル」として開発中の「12式地対艦誘導弾(SSM)能力向上型」の搭載が想定されています。
イージス・システム搭載艦は2024年度概算要求で、2隻分の建造費用とFMS(対外有償軍事援助)技術支援、搭載装備などを合わせた取得経費3797億円に加えて、各種試験準備やテストサイトなどの運用支援設備、システム技術教育などの関連経費として約1100億円が計上されており、経費は合計で約4900億円となっています。三菱重工は2023年4月に、船体、動力、武器などの艤装設計に関する設計基礎資料の作成と、1番艦の詳細設計を17億500万円で契約していました。
今回の防衛事業説明会では、このイージス・システム搭載艦についても触れられ、江口執行役員いわく「統合防空ミサイル防衛事業に関しては、弾道ミサイル防衛能力を持つパトリオットPAC3と日米が共同で開発した弾道ミサイル対処の弾道弾迎撃ミサイル『SM-3ブロックIIA』については確実に量産していく。また陸上イージスを転用したイージス・システム搭載艦の設計作業を行っているところだ」とのことでした。
新型FFMは、三菱重工が主契約者として設計と建造を担い、JMU(ジャパンマリンユナイテッド)が下請負者として一部の建造を行うことが今年(2023年)8月に公表されています。
ただ、2023年現在、日本国内における水上艦の新造ヤードは三菱重工長崎造船所、三菱重工マリタイムシステムズ玉野本社工場、JMU横浜事業所磯子工場の3か所しかありません。そのため、同じく建造が決まったイージス・システム搭載艦や新型補給艦、哨戒艦などと共に建造・整備が進められます。2024年度概算要求では、新型FFMの建造費として2隻分1747億円が計上されました。
「水上艦関係ではフリゲートクラスのFFMと呼ばれているステルス護衛艦や音響測定艦などを手掛けている。また、海上保安庁の巡視船も建造している。昨今は艦艇のデジタル化が進んでいるため、運用に関する情報を記録してメンテナンスに活用するサポートセンターも設置した」(江口執行役員)
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現中期防衛力整備計画と、次期中期防衛力整備計画の事業費の伸び方を示したグラフ。次期防衛力整備計画では7つの重視分野が設定されている(三菱重工の事業説明会用資料より)。
射程1000kmを超えるとされる12式SSMの能力向上型に関しては、イージス・システム搭載艦や新型FFMのような水上艦をはじめ、潜水艦や陸上車両、戦闘機に搭載することを想定しており、昨年度から開発契約が結ばれています。なお、潜水艦から発射するタイプの対艦誘導弾(いわゆる潜対艦ミサイル)に関しては、潜航中に発射する新システムとしてVLS(垂直発射装置)などが考えられるため、ひょっとしたら将来の国産潜水艦でVLS装備のタイプが登場するかもしれません。
ちなみに、江口執行役員の説明では、防衛事業の拡大に向けて装備品の海外移転についても積極的に行っていきたいと述べていましたが、「防衛省が想定しているものは、いわゆる攻撃的な装備ではない」と説明。合わせて「監視で使うことが主体になるので、潜水艦や水上艦に関して言えば武器は搭載しているが、基本パトロール用なので、一つの分野としてあり得るのではないか。ミサイルや戦車、戦闘機は若干攻撃的な装備品なので、政策がそういうところもカバーして良いということにならないと、入っていけない」とも述べていました。