太陽生命は130周年を記念してテレビCMを制作、この4月から放送開始する。2013年よりラグビー女子日本代表(7人制・15人制)とアイスホッケー女子日本代表のオフィシャルパートナーとして、女性アスリートを応援している同社。
2月15日、本CMに出演するレジェンド選手2人による対談企画「中村千春さん(ラグビー)×久保英恵さん(アイスホッケー) 女性アスリート対談」が実施された。
○■競技人生を振り返る上では避けられないオリンピックの存在
久保さんは14歳で初めて日本代表に選出され、2010年、28歳で一度現役を引退するも翌年復帰して、その後オリンピックに3度出場した。北京オリンピックではPS戦でゴールを決め、初の決勝トーナメントへ進出に導く。去年3月に39歳で現役を引退し、現在は西武プリンセスラビッツのコーチを務めながら、様々な地域でアイスホッケーの普及活動を行う。
中村さんは法政大学バスケットボール部に所属、卒業後2012年にラグビーへ競技を転向。翌年のラグビーワールドカップセブンズ、2016年のリオオリンピックともに主将として出場した。先月のワールドセブンシリーズでは日本代表のコーチ兼選手として出場し、過去最高の6位の成績を収めたほか、ナナイロプリズムのGM兼選手としても活躍する。
対談冒頭、両氏はまずそれぞれの競技人生やターニングポイントを振り返った。
久保さん(以下、敬称略):中学3年生のときに日本代表に選出された長野オリンピックは私にとって重要な大会で、その後もオリンピックの試合に出たいと頑張ってきたのですが、ソルトレイク、トリノ、バンクーバーと、3大会の予選で世界の壁の厚さを思い知らされました。勝ち切れない悔しさと絶望感とで自分のモチベーションが上がらず、アイスホッケーが嫌いになって一度引退しました。
現役に復帰した当初は「これで最後」と考えていましたが、オリンピックの悔しさを次のオリンピックで晴らそうという気持ちで頑張ってきた結果、39歳までという、長い現役生活になりました。
中村さん(以下、敬称略):リオデジャネイロ大会の予選で、ラグビー協会の方に久保さんの試合に連れて行っていただいたことがあって、そこで”スマイルジャパン”の姿を目に焼き付けた覚えがあります。
私は、東京大会で年齢的にも引退が見えてくるだろうと思って頑張っていたんですが、自分が出場できないということになって、ラグビーが一度嫌いになりました。なぜもう1回奮起できたのか。改めて振り返るのは初めてなのですが、主将として長く引っ張ってきた責任感みたいなものもあるし、競技で経験した悔しさは競技でしか返せないという思いがあった気がします。
今はラグビーがすごく楽しくて、戻ってよかったと思います。とくに東京大会や北京大会ではいろいろなご意見を耳にし、そこに向き合わないまま舞台に立つのもどうなのかという意味でも学びのある大会で。もちろん、選手としてオリンピックは大切な大会ですが、オリンピックに対する執着からは解放された感覚がありますね。
○■女子選手を指導する上で意識していることは?
――ベテラン選手のお2人はメンタルが強いと思うんですが、どのようにメンタルを鍛えていらっしゃいますか?
久保:きっと持って生まれたものもあるし、鍛え方っていうと難しいのですが、それだけの練習をしてきた自信もあるし、団体スポーツだから自分がダメでも周りの仲間を信じている部分もあります。試合の良い緊張感はありますけど、私は「不安だ。失敗したらどうしよう」とはならないですね。
中村:私は、自分ではメンタルが強いとは思わないのですが、久保さんはメンタルが強いと感じます(笑)。
久保:北京オリンピックのPS戦も、監督に「2本目以降なら絶対入れるので2番目以降にしてください」と言って、自分で自分にプレッシャーをかけていましたね。入れなきゃいけない状況に追い込まれればやらなきゃいけない。しかも、成功したらスターになれるじゃないですか(笑)。小さい頃から緊張はしないですね。
中村:楽しめるんですね! すごい……羨ましいです。私も最近は緊張しなくなりましたが、昔は大事なオリンピック予選などはすごく緊張していました。「期待に答えなきゃ」ってプレッシャーがずっとあったのですが、今はいい意味での諦めというか(笑)。別に私1人が頑張ってどうにかなることじゃないし、チーム全体が良くなることを考えられるようになったので。
久保:でも、そういうことだと思います。ソチオリンピックのときはメンタルトレーナーから、「自分が調子悪いときにうまくやろうと思っても無理だし、いまの自分ができることを一生懸命、全力でやりなさい」と、よく言われていました。
――太陽生命は女性が9割という会社なので、ぜひ女性が女性に指導する難しさについてもお聞きしたいです。
久保:私がまとめ役になったことはあまりないのですが、女性の方が言いやすいですよね? これ絶対サボっているなとか、なんとなく考えてることもわかるので(笑)。ただ、小さいときから男の子と一緒に遊んだり、ホッケーしたりしていて、その感覚で女の子に言うと少し言葉が強くなっちゃうので、その点は男性のほうがラクですかね。
中村:言葉は気をつかいますよね。一般的にも女性のほうが「共感力が高い」「平等に関して敏感」と言われていると思いますが、私個人の実感として確かにそれはあって。「なんであの子だけ」みたいなことって、男性が想像している以上によく見ているなと感じます。
○■応援される選手になることの大切さ
――男子競技との違いも踏まえつつ、それぞれの競技の魅力を教えてください。
中村:ラグビーはルールもボールの大きさも男子と全く一緒なんですよね。ただ女子ラグビーの場合、ボールをより大切に扱ってつないでいくことになる分、チームプレーは男子より緻密かもしれません。なかなか男子みたいに片手でボールを持てる女子選手って世界でもいないので。
久保:アイスホッケーもシステマチックなプレーは女子のほうが得意だと思います。アイスホッケーは展開が早い競技なので、アイスホッケーに興味がある人は女子のほうが最初は見やすいかもしれません。
――今後それぞれの女子競技について必要なことは?
久保:まずはアイスホッケーを実際に観て、取り組んでもらえる環境づくりですね。オリンピック出場後、興味を持ってくださる方に「次の試合、観に来てください」と言いたいんですが、「(試合会場が)北海道なんですよね」となってしまうと、観に来られる方の数も限られてしまうので。
中村:私も試合を見ていただく機会が大事なのかなと。女子アスリートとして社会的意義をそれぞれ見つけていくことも、同時に大事なことだと思っています。強い女性の象徴、社会の女性をエンパワーメントする存在として、スポーツの可能性を私は感じているので。アイスホッケーもそうかもしれませんが、「女の子がそんな格闘技みたいなスポーツやるの?」と、言われなくなるような時代になればいいなと思います。
――後輩選手に伝えたいことなどはありますか?
中村:応援される選手になりたいなら、自分自身も世の中や自分の周りの人をしっかり応援できるような選手になってほしいと思いますね。
久保:私は2013年に太陽生命へ入社してから、ずっと広報部に所属しているんですが、なるべく出社して皆さんに顔を覚えてもらうようにしてきました。現役生活の後半は、身体のケアで本当に多くの時間を取られて難しい部分もあったんですけど、やっぱりオリンピックでも名前くらいしか知らない人より、日頃から顔を合わせて知っている人を応援したくなるじゃないですか。
中村:久保さんみたいな先輩って、女子スポーツでは特に大切だと思います。女子アスリートのつながりでこうした話をさせていただける機会ってなかったんですが、本当に私のロールモデルだなと。久保さんみたいな存在に近づけるように私も頑張っていきたいです。
伊藤綾 いとうりょう 1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催 @tsuitachiii この著者の記事一覧はこちら