[社説]自民裏金疑惑 首相は国会で説明せよ

政治とカネを巡り、新たな疑惑が浮上している。 自民党の最大派閥・安倍派(清和政策研究会)の政治資金パーティーで、パーティー券の販売ノルマを超えた売り上げを政治資金収支報告書に記載せず、集めた議員に還流させる「キックバック」を続けてきたことが表面化した。 「裏金」は2022年までの5年間で1億円以上とされる。受け取った議員は少なくとも10人以上、うち数人は1千万円を超えていた可能性がある。東京地検特捜部が政治資金規正法違反の不記載、虚偽記入の疑いで調べている。 二階派(志帥会)でもノルマを超えた分の収入を記載していなかった。還流分は派閥の支出、議員側の収入として記載していたという。 いずれにしても派閥と議員側がそれぞれの収支報告書に適正に記載すれば法的な問題はないはずである。誰からもらったか、何に使ったか、を隠す意図があったのではないかと怪しまれても仕方ない。 安倍派の事務総長は昨年8月から高木毅国対委員長が務めている。それ以前は西村康稔経済産業相、松野博一官房長官と現政権の閣僚らが歴任してきた。捜査を待たず、自らに向けられた疑惑について説明する責任がある。 自民党派閥のパーティーでは、18~21年の5派閥の収支報告書に計約4千万円の過少記載があったと学者が刑事告発し、各派が修正した。 議員への還流は、安倍派や二階派にとどまるだろうか。党総裁の岸田文雄首相は、党を挙げた検証と実態解明を指示すべきだ。■ ■ 政治資金規正法では、1回で20万円以下ならパーティー券の購入者・団体名を収支報告書に記載する義務はない。年間5万円超で記載義務が生じる通常の献金と比べ、透明性が格段に低い。 政治家個人には禁止されている企業・団体献金が、パーティー券購入の形で政党や支部を経由し、個人に行き着く「抜け道」は、長く指摘されてきた。国会議員が自身を代表とする政党支部をつくり、それが献金の受け皿となる。この手法は地方議員にも広がっている。 こうした構図は領収書のいらない「裏金」の温床となり、地域の利権構造を形作っている。よりいっそう厳しい目を向けなければならない。 パーティー券の購入者と金額を全て記載するのはもちろん、「抜け道」を含む企業・団体献金を全面禁止するなど政治資金規正法の改正に向けた議論が不可欠である。■ ■ 野党側は「リクルート以来の大疑獄事件になってもおかしくない」と、追及の構えを強めている。 8日には衆参両院予算委員会で、岸田首相が出席して集中審議が開かれる。裏金づくりの慣例が事実であれば、不正が常態化していたことになる。何のために、どのような経緯でそうなったのか。国会で明らかにすべきだ。 うみを出し切り、収入と支出の透明性を確保することで、政治資金を国民の不断の監視と批判の下に置くという根幹に立ち返らなければならない。