ホンダはミニバン「オデッセイ」を日本で再び発売する。2022年に販売終了としたモデルを日本で復活させる理由は? そもそも、なぜいったんはオデッセイを日本で売らなくなったのか。誰もが気になるポイントなのではないかと思ったので、新型オデッセイの事前撮影会でホンダの人に聞いてみた。
人気モデルなのに生産終了…なぜ?
「オデッセイ」といえば、低重心設計によるセダンのような走行安定性、走行性能と高いユーティリティを両立させたホンダの大ヒットミニバンだ。初代の登場は1994年。車名の「Odyssey」には「長い冒険旅行」という意味がある。家族や友人と連れ立って、みんなでドライブできるクルマとして人気を博した。セダンやクーペなどが主流(もちろんワゴンや8人乗りミニバンなどもあったが)だった当時、6人乗りと7人乗りの2タイプから選べたオデッセイのスタイリングは新鮮だった。
1999年には2代目、2003年には3代目オデッセイが登場。3代目オデッセイは新開発のプラットフォームにより、全高1,550mmという低床設計を実現していた。筆者も一時期、3代目オデッセイを所有していたが、高速道路を走ってもミニバンに乗っているとは思えない安定感のある走りが印象に残っている。
2008年には4代目、2013年には5代目へと着実な進化を遂げたオデッセイ。特に5代目では初の両側スライドドアを採用し、後席への乗降性能を大幅に高めた。車内の質感をグッと向上させ、高級車路線へと舵を切ったのもこの頃だ。高級車路線には賛否両論あったが、低床設計のミニバンは他社を見渡してもライバルが少なく、一定の需要(根強い人気という見方も)があったことは間違いない。
ところがホンダは、2021年に5代目モデルの生産を終了し、2022年には在庫分すべての車両を売り切ってオデッセイを終売とした。なぜ、一定の需要があったオデッセイを売らなくなったのか。ホンダの広報担当者は次のように説明する。
「オデッセイは設計から組み立てまでの全工程を埼玉県の狭山工場で行っていました。しかし、狭山工場は設備の老朽化が激しく、閉鎖することになったんです。同時に、生産体制の見直しなども実施しました。狭山工場で生産していたモデルは近隣の寄居工場で担うことになったのですが、オデッセイのような中大型車の生産は寄居工場では困難になってしまったので、泣く泣くオデッセイの生産・販売を終了せざるを得なかったという経緯があります。当然、社内では『なんとか生産を継続できないか』という声が上がりました。しかし、オデッセイよりも売れているモデルの生産体制を強化することになったんです。お客様の要望に応えるという意味では、当然の判断だったと思います」
こうして2021年、オデッセイの生産終了がアナウンスされることとなった。
オデッセイ復活はユーザーの声がきっかけ?
ところが、いざ生産終了を発表すると「オデッセイの生産をやめないでほしい」という多くの声が届いた。
さらに、オデッセイが日本市場からなくなってしまったことで、ホンダのミニバンラインアップから中大型ミニバンが完全に消滅してしまった。これまでオデッセイや他社の中大型ミニバンを乗り継いできたユーザーに対して、乗り換え候補としてホンダのクルマを訴求できなくなってしまったことに、もどかしい思いがあったそうだ。
そこで、いつかはオデッセイを復活させようとホンダは準備を始める。ユーザーから寄せられた声がオデッセイの復活を後押しすることとなった。
しかし、国内には、すでにオデッセイを生産できる工場がなかった。そこで、中国の広東省にあるホンダの工場で作っているオデッセイを逆輸入する形で復活させることが決まった。
約2年ぶりにオデッセイを復活させるにあたり、ホンダでは具体的なターゲットを設定した。営業担当者は次のように話す。
「再投入するオデッセイのターゲットは『快適な室内空間と流麗なスタイリングの両立ができるミニバンに強いこだわりを持つ、30~40代の子育てファミリー』としました。家族を満足させつつ、購入者自身も喜びたいという価値観を持っている人。さらに、クルマのスタイリング、居住性、安全性を重視したいと思っている人。加えて、日常の買い物から長距離ドライブまで、運転そのものを楽しみたいと思っている人。こうした人たちを想定して、再び商品開発を実施しました」
なぜフルモデルチェンジしなかった?
ただ、復活するにあたっては気になる点もある。なぜ、生産終了前と同じボディデザインを引き続き採用しているのかということだ。いっそのこと、5代目から6代目へとフルモデルチェンジしてもよかったのでは? この点について広報担当者の見解はこうだ。
「2022年まで販売していた5代目オデッセイは、2020年にマイナーチェンジを行ったばかりです。その際、高級感のあるフロントフェイスになるように大幅な刷新を行いました。そうなると、マイナーチェンジした5代目オデッセイは、まだ2年ほどしか販売していないことになります。車種によって異なりますが、当社ではフルモデルチェンジのサイクルは早くても4年、長ければ6年くらいが目安と考えています。そのため、オデッセイをフルモデルチェンジするにはまだ早いのではないかという結論に至りました」
ボディデザインを変えないとはいっても、ユーザーの個性と上質志向に合わせて、使い勝手などを中心に細かい部分は変更している。例えばフロントグリルの突き出し感を高めて迫力を出したり、ホイールや灯火類、内装パーツなどをブラックに統一して引き締め感を強めたりするなどして、復活版オデッセイの特別感を演出した。
オデッセイは1994年に登場したときから、ほかのクルマにはない価値を持ち合わせていた。29年もの間、さまざまなクルマが登場しては消えていった中で、オデッセイは唯一無二の存在として一貫して支持され続けてきたといっていい。そう考えると、ボディデザインはどうであれ、オデッセイの復活は至極当前のことのような気もする。
個人的には、逆輸入でもいいから、次こそはオデッセイが日本市場から消えてしまわないことを祈るばかりだ。
室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら